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実態の把握が課題
―医師需給・偏在 厚労省の議論―

全国保険医新聞2016年12月15日号より)

 

 政府・厚労省は医師需給や偏在是正についての検討を進めている。厚労省「医療従事者の需給に関する検討会」の医師需給分科会は6月に中間とりまとめを公表。現在、「新たな医療の在り方を踏まえたビジョン検討会」が、医療を取り巻く状況の変化を見据えて医師等の働き方を検討している。医師不足への対応や地域偏在・診療科偏在の是正は地域の医療を確保する上で喫緊の課題。しかし、医療費抑制に向けた制度改革に見合うものとされないよう注視が必要だ。医師需給・偏在に関する現在までの動きをまとめた。

医師10万人の働き方調査

表 医師需給・偏在に関する政府、関係団体等の言及

「骨太の方針2016」(6月2日閣議決定)

 医療従事者の需給の見通し、地域偏在対策等について検討を進め、本年内にとりまとめを行う。特に、医師については、地域医療構想等を踏まえ、実効性のある地域偏在・診療科偏在対策を検討」

「平成29年度予算編成に関する建議」(11月17日財務省・財政制度等審議会)

 「特定地域・診療科での診療従事を医療機関管理者の要件とすることや、保険医の配置・定数の設定など、医師配置等にかかる規制も含めた実効的な偏在是正策が講じられるよう、国及び都道府県の権限を強化すべき」

「保健医療2035提言書」(2015年6月公表)

 「将来的に、仮に医師の偏在等が続く場合」、「保険医の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見直しを含めた検討を」行う。「医師のキャリアプランを踏まえつつ、地域住民のニーズに応じて、地域や診療科の偏在の是正のための資源の適正配置を行うことも必要となる」

「医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言」(2015年12月12日・日本医師会、全国医学部長病院長会議)

「現状の医師不足の本質は、医師の地域・診療科偏在」、「この課題の解決のためには、医師自らが新たな規制をかけられることも受け入れなければならない」。「一定期間、医師不足地域で勤務した経験があることを病院・診療所の管理者の要件とする」

「医師の地理的偏在の解消に向けて」(6月11日〔9月14日最終版〕・NPO法人「全世代」私案)

 「保険医登録の仕組みを変えて、保険医登録の条件、あるいは『保険医療機関』の責任者になるための条件として、一定期間医師不足地域で勤務することを求める」。

 厚労省は11月末、医師の勤務実態や働き方の意向などに関する調査票を、全国の医療施設に勤務する医師約10万人に送付した。医師の勤務実態を詳細に把握するためのタイムスタディや他職種との役割分担、将来の働き方、勤務地に関する意向などを尋ねる。1月から2月にかけて集計結果を公表する。
 厚労省は調査結果を、同省の「ビジョン検討会」で検討している医師の需給推計や偏在対策の議論に活用する考えだ。
 医師の需給・偏在に関しては、厚労省「医療従事者の需給に関する検討会」の医師需給分科会が、今年6月に「中間とりまとめ」を公表した。その中で「新たな医療の在り方を踏まえた医師の働き方ビジョン(仮称)」を策定するとされた。10月から始動した「ビジョン検討会」が主導したのが今回の全国調査。
 「ビジョン検討会」の構成メンバーは医師需給分科会とは別に選ばれ、会議は非公開。座長の渋谷健司氏(東大大学院教授)は、厚労大臣の私的諮問機関「保健医療2035」策定懇談会で座長を務め、「保健医療2035提言書」をまとめた。
 「ビジョン検討会」は病床機能連携・分化、療養病床見直し、在宅医療・介護や地域包括ケア推進、総合診療専門医・かかりつけ医の普及、医療のICT化やAI(人工知能)の活用、医療従事者間の役割分担など医療を取り巻く状況の変化を踏まえた医師等の働き方、確保のあり方を検討。年内にも「中間的な整理」をまとめる。政府の進める医療提供体制「改革」と歩を一にする面もある点に注意が必要だ。

「精度の高い推計必要」医師の需給推計で厚労省

 医師需給分科会が6月に発表した「中間とりまとめ」で示した医師需給は、もっとも遅くて(上位推計)2033年ごろに約32万人で均衡し、以後供給超過になるとしている(図)。
 しかし、この推計については慎重な見方が必要だ。現に、「中間とりまとめ」では「実態を十分に反映できなかった」とし、「より精度の高い推計」の必要性を認めている。厚労省幹部も、最終決定ではなく「暫定的なもの」(9月15日第7回医師需給会)と説明している。

医師不足への対応必要

 中間とりまとめの需給推計は、そもそもの前提として現在策定が進められている地域医療構想での必要医師数に基礎を置いている。医師の労働時間の適正な縮減を見込むとされているが、それが実現するかは不透明だ。また、今後の医療で重要となる、高齢者の重症化や認知症、在宅患者の増加に対応する医師の確保も考慮されているとはいえない。
 また供給推計は、30〜50歳代の男性医師(病院)の平均労働時間を54.4時間と置き、その仕事量を1とした場合、女性医師と60歳以上の高齢医師は0.8、などと設定して推計。実態を反映しているかは疑問である。
 推計はさまざまな仮定の上に行われており、分科会構成員からは「一個仮定が違うだけで、全然数値が違ってくるという恐ろしい数字だ」とも指摘されている。
 一部には医師の需給は基本的に問題はなく、偏在だけが問題とする見方もある。しかし、病院勤務医を中心に医師不足の声は大きく、それを裏付ける厚労省等の調査もある。医師の絶対数が不足している現状への対応が必要だ。

偏在是正は自発性後押しする仕組みで

 医師の偏在対策について「中間とりまとめ」では、勤務地・診療科の自由選択といった「自主性を尊重した対策でだけではなく、一定の規制を含めた対策を行う」観点から、具体的検討を進める項目が示された。
 検討項目には医師に対する管理を強めるような方策が示されている。医療計画での医師数の目標値の設定や専門医等の定員調整、将来的に偏在が続く場合の保険医配置・定数の設定、自由開業・自由標榜の見直しが明記された。特に保険医療機関の管理者の条件として、特定地域・診療科で一定期間診療に従事することを診療所等の管理者の要件とすることも検討項目として挙げられた。
 自由開業医制、自由標榜制の一定の見直しとなる方向性は、政府・厚労省のほか医療界からも示されており、今後の動向に注視が必要だ(表)。
 医師の偏在についてはは、自由開業医制を崩す医療法上の規制や統制的対策ではなく、医師の自発性を発揮できる仕組みをまず構築、整備する方向で解消が図られるべきだ。

以上