「医療充実で経済活性化」
―日本医師会シンポで横倉会長―
(全国保険医新聞2017年2月25日号より)
2018年度診療報酬改定に向けた議論が開始される中、日本医師会は2月8日、「社会保障と経済の好循環―医療保障を中心に」と題するシンポジウムを開催した。日医会長の横倉義武氏は、「医療・社会保障の充実で、将来の安心が社会を安定させ、経済成長につながっていく」と強調した。
「日本医師会の医療政策」で講演した横倉会長は、国家財政について、負債から資産を差し引いた額約521兆円に対し、企業に利益剰余金が約380兆円、家計に金融資産が1752兆円あると指摘。国民医療費についても、2006年時の推計などに比べて実績は下回ってきていると述べ、医療・財政に係る現状を正確に認識することが重要とした。
そして、国民医療費の財源のあり方に関して、英独仏等では「診療に係る自己負担はない」などとして、保険料率の格差是正を提案。組合健保等を協会けんぽ並みの10%にすれば約1兆円の増収効果があるとした。
社会保障で社会の安定、経済底支え
横倉会長は、経済発展と財政健全の両立が求められる中、「社会保障の充実が社会を安定させ経済成長につながっていく」と強調。▽医療は、官僚・市場による統制ではなく、職業的専門家を中心とした医学的知見と職業的規律・倫理に従ったものであるべき▽社会保障の発展が生産・雇用を誘発して経済を底支えするとともに、健康水準向上が経済成長と社会安定にも寄与する―とした。
具体的には、全国で300万人以上が医療機関に従事するが、常用給与総額(1人・月)が2009年を100とすると、15年は製造業107.6、全産業99.5に対し、医療は97.5に減少したと指摘。医療・福祉への需要増加が見込まれる中、医療への財源投入は、特に医療従事者の比率が高い地方で経済活性化により経済成長を促すとともに、地方創生への多大な貢献につながると強調した。
過不足ない医療を
他方、持続可能な社会保障の観点から、「過不足ない医療提供」がされることも必要として、医療提供の在り方の改革として▽生涯保健事業の体系化▽糖尿病ハイリスク群への早期介入▽COPDへの介入におけるHOT導入減少▽症状や患者特性に応じたコスト意識を持った処方を進める学会支援―を提言。高額薬剤対応についても▽薬価制度の見直し▽新薬を必要とする患者に使用―などに触れた。
最後に、社会保障の充実で健康寿命が延伸され、医療・介護費の伸び軽減や、雇用拡大と経済成長、税収増などにつながると指摘。高齢者が活躍する社会への展望を示した。
社会保障が持つ経済効果
▼ |
「医療は消費」と位置づける意見があるが、社会保障と経済は相互作用の関係 |
▼ |
経済成長が社会保障の財政基盤を支え、他方で社会保障の発展が生産誘発効果や雇用誘発効果などを通じて日本経済を底支え |
▼ |
医療の拡充による国民の健康水準の向上が経済成長と社会の安定に寄与 |
▼ |
国民が安心して老後を迎えられるようにするために、社会保障を充実させる必要がある |
▼ |
老後が不安であるという思いを持つ多くの国民に、安心を示すことは、経済成長を取り戻すための出発点 |
※平成28年度医療政策シンポジウム(2月8日)「日本医師会の医療政策」より作成
以上