【薬価のからくり】第2回 高利益織り込み済みの値付け
―原価計算方式―
(全国保険医新聞2017年3月25日号より)
英国の5倍以上という超高薬価が医療保険財政を脅かしかねないなどとして問題視された抗がん剤オプジーボ(一般名ニボルマブ)。高薬価の背景には製薬企業の高利益を織り込み済みの薬価算定方式とそれを覆い隠す算定過程の不透明さがある。
算定審議・提出資料は非公開
オプジーボのように類似薬がない新薬の薬価は原価計算方式で算定される。当該薬の開発・製造・流通に必要となる価格を積み上げるもので、具体的には原材料費・労務費・製造経費、販売費・研究開発費等(以上、製品総原価)に、営業利益、流通経費・消費税を加えた額を薬価とする。
薬価収載を希望する企業は薬価算定に係る資料を厚労省に提出する。厚労省で算定原案を作成し、薬価算定組織で検討の上、中医協に提案する算定案を決める。
算定案に至る審議過程、提出資料は非公開とされ、議事録も作成されない。ブラックボックスな算定過程を背景に、原価計算方式を通じて高薬価が生み出されていく。
市場過少見積もりで薬価押し上げ
オプジーボ薬価の算定案では1瓶(100mg/10ml)73万円として、製品総原価46万円、営業利益17万円、流通経費4.6万円、消費税5.4万円としている。しかし、企業が提出した費用等の内訳・明細等資料は企業秘密とされ、製品総原価等の詳細な内訳やその算定根拠は明らかにされない。そのため、前提となる想定患者数を過少に見積もれば、一規格当たりにかかる費用が押し上げられ、高薬価を申請することができる。
実際に、原価計算方式で算定した薬剤では、見込み患者数よりも販売実績が上回っていることが多く(図)、経済財政諮問会議でも「製造総原価の内訳が不透明であり、患者数の見込みも過小であることが多い。製造総原価の詳細内訳の公表を義務付けるべき」と民間議員から提言が出ている(経済財政諮問会議、2016年11月25日)。
高利益水準で算定
高い営業利益を設定して薬価が高止まりする仕組みも内包されている。営業利益の算出に用いる営業利益率は、大手製薬企業(過去11年継続して東証・名証に上場する企業。30社程度)の平均値が使われるが、一般製造業の利益率と比べて約2.5〜3倍の高い数値であるため、高薬価が算定される形になる。
しかも、既存治療と比較した「革新性や有効性、安全性の程度」に応じて、営業利益率は2倍まで引き上げ可能である(引き下げは最大0.5倍)。オプジーボの場合、営業利益率16.9%(2014年9月)がさらに1.6倍に引き上げられ27.0%で計算された。
1.6倍にする理由に▽世界に先駆けて承認▽ダカルバジンの奏効率を上回る▽1980年代半以降久しぶりの承認薬―などと示されているが、算定案に至る審議が非公開で議事録さえ作成されていないため、1.6倍が妥当かどうかはわからない。
原価計算方式での算定薬価をベースに後続の類似新薬や後発品の薬価が算定される。高薬価構造の是正に向けて、薬価算定経過と提出資料等(特許等除き)の公開、算定に使う営業利益率の基準引き下げなどが必要だ。
以上