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介護保険利用者負担 実態見ずに3割へ
―改正案を衆院で可決―

全国保険医新聞2017年4月25日号より)

 

 介護保険法等改正案が4月18日の衆議院本会議で可決され、参議院に送られた。正式名称は「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」とされ、▽利用者負担3割の導入(2018年8月実施)▽新たな介護保険施設として「介護医療院」の創設(18年4月実施)▽自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化(18年4月実施)▽地域共生社会の実現に向けた取組の推進(18年4月実施)▽介護納付金への総報酬割の導入(17年8月分より)―等が盛り込まれている。
 特に3割負担の導入が大きな焦点となっている。15年8月に一定所得以上を原則2割に引き上げてから、わずか3年で3割負担の導入となる。利用者・家族からは「2割負担で限界」との悲鳴が出され、国会でも「2割負担の影響をきちんと検証すべき」などの声が相次いでいる。

限界超える3割負担―介護保険法改正案

 現在国会で審議が進められている介護保険法改正案の内容を解説する。

負担悲観して利用中止、特養退所も

表1 利用者負担割合の見直し案
(2018年8月より)

年金収入等

負担割合

340万円以上(※)

2割⇒3割

280万円以上(※2)

2割

280万円未満

1割

※1 合計所得金額220万円以上かつ単身で340万円以上(夫婦世帯で463万円以上)
※2 合計所得金額160万円以上かつ単身で280万円以上(夫婦世帯で346万円以上)

 「制度の持続可能性を高める」等として、2割負担者のうち「特に所得の高い層」を3割負担にする。具体的基準は政令で定めるが、年金収入等で340万円以上としている(表1)。しかし、2割導入をはじめ相次ぐ負担増による深刻なサービス利用抑制が、利用者・家族、事業者の調査から浮き彫りになった。認知症の人と家族の会による2015年度制度改正の影響調査では、2割負担導入による利用・受診抑制が報告されている(表2)。
 さらに、介護施設運営者でつくる21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会が15年秋に実施した影響調査では、「配偶者の生活苦」が311施設、「多床室へ移った」が211施設、「利用料の滞納」が206施設、「支払い困難を理由に退所」が101施設で報告されている(特養1589施設より複数回答)。理由として利用者負担2割と補足給付の要件厳格化が非常に多い。入所自体が困難な特養に入れても、負担増で退所せざるを得ない事態が発生している。

表2  介護保険2割負担化に伴う当事者の声(抜粋)

月2万円の負担増。デイケアの利用回数を減らす相談をしたところ、本人が「そんなに、費用がかかっているのか」と悲観してデイケアに行くのを止めてしまった。今は息子が自宅で入浴介助をしている(40代女性、要介護2の祖母を在宅で介護中)
月2万円の負担増。毎月の出費が年金の半分になるので、ショートステイの利用を減らし、歯科受診も半分にした。介護時間が増えて疲れるが、自分の体をいたわりながら生活しようと思う(60代女性、要支援2の夫を在宅で介護中)
月4.2万円の負担増。負担の増えた分食費を切り詰めて節約している。これ以上負担が増えたら、在宅に切りかえるしかない(70代女性、要介護4の夫が特養入所中)
負担増の4万円分を息子が補てんしてくれている。今は蓄えもあり、デイを5回から3回に、訪問看護と訪問リハビリを半分にするなど、利用回数も減らしたので何とかやっていけるが、いつまでこんなことが続くのか、先が見えないので不安。年金が下がるのに介護保険料が上がり、納得がいかない(80代女性、要介護5の夫を在宅で介護中)
月2.1万円の負担増。デイを利用しないと生活が成り立たないので利用回数を減らすことはできないが、日々の生活や家計に影響が出てきている…(80代男性、要介護1の妻を在宅で介護中)
※「2015介護保険改定についての当事者の『声』―利用者・家族への影響調査アンケートから―」(認知症の人と家族の会、2016年6月)より

 

1600人以上が施設退所 

 調査は国会でも紹介され、「利用者や家族の声に真摯に向き合うべき」「まず2割による影響を検証すべき」「介護離職ゼロに逆行する」等と野党は追及している。
 厚労省は、2割負担の導入前後(2015年7月と8月)で、1割と2割負担者の間でサービス受給者数の伸び率などに「顕著な差」はないとして、3割負担を押し通す構えだ。
 しかし、サービス回数を減らす形で利用を続ける場合、受給者数は変わらない。今後、貯金が底をつく、生活の切り詰めが限界に達するなどで、サービス利用自体を中止していく事態の広がりが考えられる。
 現に、2割負担になった約40万3,000人のうち、15年8月にサービス利用を減らした人は約16万7,000人、特養・老健・介護療養から退所した人は1,600人以上と厚労省は報告している。「顕著な差」がないとする厚労省の姿勢は、利用者や現場の実態を無視している。

全面的2割負担の布石か

 2割負担の時も、厚労省は「相対的に負担能力のある所得の高い方」として導入したが、施設退所まで発生していることからも、3割負担に伴う影響は安易に判断できない。家族構成一つ見ても、引きこもりや低収入の子、孫との同居なども考えられ、所得水準だけで生活実態は測れない。
 制度の持続可能性の理由も、3割負担の対象は約12万人、給付削減は100億円程度に限られる。医療に合わせて3割負担にそろえるとも言うが、治癒すればいったんなくなる医療負担と異なり、介護サービス利用はほぼ一生続くため、同列には論じられない。
 財務省などは「原則2割負担」を求めており、3割負担導入は、2割負担の全面化などの布石と見られる。

安全懸念、負担増も ―介護医療院

 18年3月末に廃止が予定される介護療養7万1,000床、医療療養(25対1)7万6,000床の新たな転換先として「介護医療院」を創設する。長期療養のため「生活施設」の機能を備えるとするが、1人当たり床面積は、現行6.4u以上から老健と同じ8.0u以上に若干広げるにすぎない。
 経過措置として、既存の介護療養病床の廃止期限は24年3月末まで6年延長する(医療療養は未定)。
 具体的な報酬・基準等は介護給付費分科会で検討するが、医療機関に併設する場合は人員配置基準の緩和を認める見通しだ。重症度等の高い患者(療養機能強化型A・B相当)の受け入れも想定しており、医療の質・安全の確保が懸念される。人員配置に見合う形での介護報酬の引き下げ、床面積拡大を理由とする居住費負担引き上げも危惧される。

専門性の担保は? ―共生型サービス

 要介護認定率の低下や1人当たり介護費用を削減した市町村には交付金を出すインセンティブを導入する。財源枠が決まっているため、減額調整と一体に運用され、市町村で介護保険からの締め出しや利用者の選別などが進められる事態が懸念される。
 また、同一事業所で高齢者と障害児者両方のサービスを受けやすくするとして、「共生型サービス」を位置付ける。障害者団体は、共生型サービスは「『サービスを効果的・効率的に提供するための生産性向上』(「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」、厚労省、15年9月)が出発点であり、安上がりな人員体制で複合的なニーズに対応する」ものとの危惧を示している。兼務に伴う過重労働、同じ事業所で同じサービスを受けながら制度の違いで利用者負担が異なる事態も憂慮される。

応能負担理由に国費削減

 介護納付金(40〜64歳の介護保険料)に総報酬割を17年8月より段階的に導入する。加入者数に応じた算定から、平均収入に応じて決め、平均収入が高い健保組合等が概ね負担増となる。
他方、負担能力の差を補填する形で協会けんぽに投入してきた国庫補助が削減される。20年度の全面導入で約1450億円の国費削減となる。国の負担を健保組合に肩代わりさせる形となる。

以上