診療所に行けない
―「どうせもうすぐ死ぬんだから」―
(全国保険医新聞2018年1月25日号より)
病を抱えながらお金がなくて診療所に行けない人は、どのような事情を抱えているのか。経済的理由による手遅れ死亡を調査している民医連の医療ソーシャルワーカーに、実態を報告してもらう(月1回掲載)。
在宅酸素の負担負えず
60代女性のAさんは、乳がんの治療で外来通院中だった。化学療法や抗がん剤治療により医療費、薬局代負担が高額となっていた。さらに主治医から「乳がんの進行で心臓に負担が生じている。生活に支障が出るため在宅酸素が必要」と言われ医療費負担が増大した。「在宅酸素はもう業者に返そうと思っている」と外来看護師に訴え、相談室に来室された。
Aさんは夫との二人暮らし。収入は、本人の老齢基礎年金と夫の厚生老齢年金。一時生活保護を受給していたが、数年前に夫の年金額が増え、生活保護の受給は廃止となった。保険証は国保に加入し、月の窓口負担を一定額に抑える限度額認定証(上限5万7,600円)が発行されていた。県外に住む子どもからの仕送りもあり、これまでなんとか生活はできていたが、月額の治療費は限度額認定証の上限額に達しており、治療費が工面できる状況になかった。
「どうせもうすぐ死ぬんだから高額な在宅酸素を使ってまで生きようと思わん」。Aさんは半ば投げやりに言われ、受診中断の可能性もうかがえた。世帯収入としては無料低額診療の半額減免の基準であったが、特例的に全額減免となった。
その後、医療費の負担がなくなったことで、外来受診が中断することはなかった。しかし、乳がんの病状が進行し入退院を繰り返すうち、最終的に当院の緩和ケア病棟で永眠された。永眠後はAさんの希望で献体が執り行われた。「医療に貢献したい」とのことだったが、「家族に負担をかけたくない」とも話しており、経済的問題が献体を選択した一因とも考えられる。
生活保護後退許さない
今回のケースでは年金増額を理由に生活保護の受給が廃止となっている。しかし、その後の生活では治療費を支払う余裕がなかった。現状の最低生活の基準では健康で文化的な生活は保障されていないと言える。
このような中、生活扶助の段階的引き下げが計画されている。患者さんの生活は一層厳しくなっていく。無料低額診療は当院の治療費負担しか軽減できないため、(外来の)高額薬剤治療や当院では治療できないと救えないケースもある。このようなケースをなくすため、社会保障制度の後退を許してはならない。
以上