【支払基金改革を考える@】国民の医療保障に関わる
(全国保険医新聞2018年4月5日号より)
医療機関に診療報酬を支払う支払基金の「改革」に向けた議論が進んでいる。支払基金のあり方、医療現場にどう影響するのか。全国社会保険診療報酬支払基金労働組合(全基労)中央執行委員長の平岡信彦氏に連載で解説してもらう。(6回連載)。
2017年7月4日、支払基金に関わる2つの「計画」が公表されました。1つは「支払基金業務効率化・高度化計画」(「効率化計画」)。もう1つは、「国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進に関するデータヘルス改革推進計画」(「ビッグデータ活用推進計画」)です。
どちらの「計画」も支払基金の業務内容・審査の在り方を大きく変え、国民の医療保障の在り方にも影響を及ぼす可能性があるものです。また、支払基金で働く職員の労働条件にとっても重大な影響があります。
2つの計画書が策定された背景から、ねらいが見えてきます。
規制改革会議から始まった
背景の1つは規制改革会議での議論です。
15年秋から規制改革会議で支払基金の問題が議論され、厚生労働省内に設置された「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」での議論を経て、17年1月に同検討委員会の「報告書」が策定されました。
「効率化計画」は、これに基づき策定されたものとされています。「計画の基本的考え方」では、この「報告書」の内容を列挙したうえで、「これらを真摯に受け止め、支払基金改革については厚生労働省としても責任を持って監督していく」としています。
潜在市場の拡大
もう1つは日本再興戦略で示されている健康・医療産業育成のためにレセプトデータを活用しようとする動きだと思います。
13年6月に閣議決定された日本再興戦略では、テーマの1つに「国民の健康寿命の延伸」が掲げられました。ここでは現状の問題点を、「個人、保険者、企業の健康管理、予防への動機付けが乏しい。その結果として、健康管理や予防サービスが産業・市場として成長していない」と挙げました。対策として、個人・保険者・企業の意識・動機付けを高めることと健康寿命延伸産業の創出に両輪で取り組むとされ、意識・動機付けにより潜在市場の拡大を図るとされました。
この中で「予防・健康管理の推進に関する新たな仕組みづくり」として、レセプト等のデータの分析、それに基づく加入者の健康保持増進のための「データヘルス計画」の作成・公表、事業実施、評価等の取り組みを求められました。
健康・医療分野を戦略的市場創造プランに位置付け、そのためにレセプトデータを活用しようとしていることになります。
支払基金「改革」に留まらない
規制改革会議は経済成長を目的に国民生活を守っている規制の緩和を目指し、日本再興戦略は医療・健康分野を戦略的市場創造分野として、市場拡大を図ろうとしています。
こうした背景を見ると「効率化計画」で示されているコンピュータによる審査の拡大、「ビッグデータ活用推進計画」で示されている医療データの集積と利活用が、単に支払基金の「改革」に止まらない国民の医療保障の在り方にも関わる問題であると考えられます。
以上