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医師増せずに「偏在解消」
医療法等改正案 国会に提出

全国保険医新聞2018年4月5日号より)

 

 

 政府・厚労省は、地域間の「医師偏在」を解消するため、医療法等の改正法案を現在開会中の通常国会に提出した。現状の医師数を前提とした対策であり、偏在解消の効果は限定的だ。

 

 法案では、都道府県が「医師確保計画」を立て、計画の実施に必要な事項は大学や医師会、主要医療関係者が参画する地域医療対策協議会で協議する。協議に基づいて都道府県が研修医のキャリア形成プログラムの策定や、医師不足地域への医師派遣等を行う。都道府県が主体となって地域の状況に即した実効的な医師確保策を実施することが期待されている。
 もっとも厚労省の資料では、都道府県の地域医療構想等と整合的に、医師確保対策を実施できる仕組みにする必要が指摘されている。改正法案は、外来医療機能の偏在・不足への対応として、地域医療調整会議を活用した協議も想定している。医師確保策が病床機能再編による医療機能の縮小を取り繕うものにされかねない点は注意が必要だ。
 また改正案は、都道府県単位での医師偏在解消策にとどまる。さらに「医師の働き方改革」も進められようとする中、医師養成数を増やすといった抜本策なしに偏在解消が可能かという課題も残されている。

へき地勤務が管理者要件にも

 今回の法案は、医師個人にへき地等の医師不足地域への勤務を促す仕組みを創設する。医師不足地域での一定期間の勤務経験を厚労大臣が認定し、広告できるようにするほか、一定の規模と役割を持つ地域医療支援病院の管理者となるための要件とする。
 管理者要件を課す病院の範囲、医師個人や医師を派遣する医療機関にどのようなインセンティブを付与するかは、今後さらに検討するとしている。

医師「偏在」の解消焦点―医師法・医療法改正、国会に提出

 通常国会に提案された医療法と医師法の改正法案の目的は、「地域間の医師偏在の解消等を通じ、地域の医療提供体制を確保すること」である。改正法が成立すれば2020年4月1日までに3段階に分けて施行される。法案の概要を解説した。

医師不足地域での勤務経験を評価―「認定医師」制度の創設

 改正法案では、都道府県の医療計画で「医師少数区域」を設定することができる。医師少数区域等での一定期間の勤務経験を評価して、それを厚生労働大臣が認定する仕組みを作る。認定された医師(認定医師)であることを広告可能とするほか、認定医師であることを一定の病院の管理者となるための要件とする。いまのところ地域医療支援病院の一部が対象となる病院として想定されている。なお、この要件が課されるのは、2020年4月1日以後に選任される管理者についてである。
 認定医師制度の創設は、医師不足地域での勤務にインセンティブをつけて、へき地等での勤務を促すねらいがある。認定に必要な勤務期間など認定の仕組みは今後の検討課題となっている。また、医師を医師不足地域に派遣する医療機関に対して財政支援などのインセンティブを付与することも今後検討される方向である。

都道府県が主体で医師確保策を策定・実施

 改正法案は、都道府県が主体となって医師確保の体制を整備し、実施することを明確に示した。地域医療構想に見られるように、国は都道府県を中心にして医療提供体制の整備や医療政策を進めようとする中、医師確保策についても整合性を持って進める狙いがある。
 具体的な施策としては、都道府県が定める医療計画の中で「医師確保計画」を立てる。この計画で、二次医療圏ごとの医師の確保の方針、確保すべき医師数の目標と施策を定める。医師数の目標を立てるにあたっては、厚労省が別途示す医師の偏在の度合を示す指標(偏在指標)を踏まえる。厚労省は偏在指標として、地域の医療需要、将来の人口・人口構造の変化、区域や診療科、入院・外来の別、患者流出入、医師の性別・年齢分布、地理的条件などを勘案した指標にするとしている。これまで用いられていた「人口10万対医師数」の指標では医師の地域偏在・診療科偏在を計る物差しとして不十分だったとの認識が背景にある。しかし、新たな偏在指標が指標として有用かどうかは、注意深く検討する必要がある。
 医師確保計画の実施に必要な事項は、地域医療対策協議会で協議を行うことになる。同協議会には、医師会や大学、当該都道府県の主要な医療機関が参画する。医師が不足している地域への医師の派遣や、医師への援助、負担軽減のための措置などを協議する。地域医療対策協議会は、各地の実情を踏まえた実効的な医師確保策を具体化していく場といえる。今後、地域の医療に携わる医療関係者の役割が期待される。
 地域医療対策協議会で協議が調った事項に基づいて、都道府県が、医師のキャリア形成プログラムの策定や、「医師少数区域」への医師の派遣等を、地域医療支援事務として行う。

医師養成過程にも偏在対策

 多くの医師が、出身地や教育・研修を受けた医学部、臨床研修病院の所在地で勤務し、定着する傾向にある。このことから改正法案は、医学部、初期研修、専門研修という医師養成過程を通じて、医師確保対策を図る仕組みを盛り込んだ。これらのうち、都道府県知事が行う事項には、地域医療対策協議会の意見を聴くこととされている。
 大学に対しては、都道府県知事が、地域枠や地元出身者枠の創設・増加を要請できることとした。地域医療対策協議会の構成員として大学が含まれたのは、これについての協議・要請をスムーズにできるようにするためともいえる。
 臨床研修については、従前は厚労大臣の権限であった臨床研修病院の指定を、都道府県知事の権限とした。また都道府県知事は、厚労大臣が定めた都道府県ごとの研修医の定数の範囲内で、都道府県内の臨床研修病院ごとの研修医の定数を定める。
 専門医研修については、新専門医制度が動き出した現在でも、依然として地域偏在を加速するのではないかと懸念されている。改正案では、国・都道府県と日本専門医機構が、医師確保策について齟齬を来さないようにする仕組みを盛り込んだ。厚労大臣は専門医機構に対し、研修に関する必要な措置の実施を要請することができる。また、専門医研修に関する計画が医療提供体制に重大な影響を与える場合には、あらかじめ都道府県知事の意見を聴いた厚労大臣の意見を、専門医機構が聴くように義務づけた。

外来機能の偏在・不足等への対応

 改正法案は、外来医療機能の提供体制の確保に関する事項を盛り込んでいる。無床診療所の開設が都市部に偏っていることや、夜間救急の連携など医療機関連携の取り組みが個々の医療機関の自主的な取り組みに委ねられている―という認識が背景にある。
 改正法案の仕組みは、▽外来医療機能に関する情報を可視化し、情報提供することで、開業時の参考とする▽地域の医療関係者等が医療機関間の機能分化・連携の方針を協議する―というものである。
 都道府県は、原則として二次医療圏ごとに関係者が協議する場を設け、外来に係る医療提供体制の状況や、医療機関の機能分化・連携の推進、グループ診療の推進等に関する協議を行って、その結果を公表する。協議の場には、医師会等の医療関係者、医療保険者、住民代表、市町村が参加することが想定されている。もっとも、法案では協議の場として、地域医療構想調整会議を活用することも可能とされている。地域医療構想による病床規制、医療機能の縮小という考えの延長線上で、診療所の開業規制につながる危惧がないとはいえない点、注意が必要だ。

以上