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国保都道府県単位化の焦点
「法定外繰入」の継続を ― 国民皆保険としての国保を支える

全国保険医新聞2018年5月5・15日号より)

 

 

 4月から国保都道府県単位化がスタートした。6月までに新制度の下での新たな保険料が決まる。自治体が独自に行ってきた保険料の軽減措置=「法定外繰入」を継続するかどうかが焦点だ。大阪自治体問題研究所会員の初村尤而(ゆうじ)氏に論点を解説してもらった。

 

他の自治体と比べて安い?

 国保の都道府県単位化がスタートしました。自分の国保料が気になりましたので居住地の大阪府内A市に電話をしてみました。国保課の職員によると、大阪府が示した標準保険料率をそのまま適用したら市民の負担が大幅に増えるらしく、さすがに大阪府も約6億円の激変緩和措置をおこない保険料を抑えたそうです。しかし、それでもまだ高額なので、A市がさらに独自に約1億円強の激変緩和措置を予算計上したと説明してくれました。
 ただ、その職員は「A市はこれまで国保料が低かったので将来は引き上げざるを得ない」とさりげなく言いました。私は自分の国保料が安いと思ったことはこれまでもありませんから、「A市は安い」という職員の説明に違和感を持ちました。職員は他の市町村と比べて「安い・高い」と思っているのでしょうが、私は受け取っている年金額と比べて「高い」と感じているのであって、行政と市民との認識の差はこんなところから生まれるのかもしれません。
 いずれにしろ、私の市もそして大阪府もともに激変緩和措置をするわけで、それ自体が新制度による保険料が高いことの証だと思います。

 

皆保険維持できない

 新制度では、都道府県は市町村ごとの国保事業費納付金と標準保険料率を市町村に示し、市町村はそれに基づく国保料を決め、集めます。市町村は、集めた国保料を納付金として都道府県に納めます。
 納付金は都道府県が示した額を値切ることはできませんから、市町村が国保料を下げると、その差額は市町村が負担しなくてはなりません。市町村が財源を調達できなければ、一般会計から繰出金(国保会計から見れば繰入金)を支出しなくてはなりません。A市はこれを市独自の激変緩和措置とよびますが、要するに一般会計からの法定外繰入を言い換えたにすぎません。
 新制度は、国保における繰入金問題とくに法定外繰入の意味を改めて考える機会を与えてくれました。
 自治体の会計は、基本的公共サービスを担う一般会計とそれ以外の特別会計に分かれています。国保は特別会計の一つです。繰入・繰出とは、二つの会計間を予算が移動することをいいます。この会計間の移動は法令を根拠にしたものとそうでないものとがあり、前者を法定繰入、後者を法定外繰入といいます。
 国保会計での法定外繰入は、主に高い保険料を軽くするためにおこなわれます。国保会計の赤字決算を補てんするためにおこなうこともあります。もし法定外繰入がなかったら、保険料の負担が嵩み、未払い額が増え、国民皆保険制度としての国保制度そのものを維持できなくなるかもしれません。

 

失業も病気も支える公共性

 ところが、この法定外繰入が「ケシカラン」と批判の的になっています。「国保加入者の保険料を下げるために国保加入者ではない住民の税金を使うのはおかしい」というものです。しかし、これには疑問があります。
 この意見は、税金や財政を誤解しているように思います。税金は払った人にその対価・サービスが直接返ってきません。納税者から集めた税金は、それをどのように使うかを議会で話し合って予算として決めます。その使い道は、地域社会が共同体として何が必要か、その公共性の度合いによって決まります。もし税金が他の人に使われることを否定すれば、子どものいない住民は保育所経費をケシカランと思いますし、老人は義務教育に税金が使われるのは是としません。
 国保の公共性はどうでしょうか。国保以外の健康保険に加入している人にとって国保は自分とは関係のない健康保険です。しかし、国保は日本の皆保険制度を支える基盤であって、この保険は国民がたとえどのような生活状態になったとしても健康で暮らしてゆける支えになります。一生国保のお世話にならない人もいるかもしれませんが、他の健康保険とは違って、失業しても病気になっても支えてくれるのが国保です。この保険はみんなで守ってゆかなくてはならないものと私は思っています。その点で国保は公共性が非常に高いものと言えます。

 

公的負担拡大すべき

 国保加入者には「無職の人と非正規労働者」が多く、加入者の8割弱の世帯が所得200万円以下であって、保険料の支払能力がきわめて弱くなっています。国保料を払えず未納者が多くなり、皆保険の下支えをしている国保が危機にあります。国保の財政基盤を守ることは緊急の課題です。
 私は、今の国保の財源構造は変える必要があると思っています。国保の大雑把な財源構造は、医療給付費の年間総額を見込み、そこから前期高齢者交付金を控除し、控除後の経費を、国・都道府県負担と保険料負担に折半しています。しかし、支払えない加入者が多いため、実際には保険料負担部分には、さまざまな公的負担がなされています。
 しかし、そのやり方は一貫したものでなく、保険料の減額、地域の医療実態の考慮、高額医療費の補助など、さまざまな個別の事情にたいしてつぎはぎ≠セらけのパッチワーク状態です。国保加入者の所得水準などを考慮し、折半ではなく保険料負担部分を40%程度に縮小し、国・都道府県負担部分を拡大すべきではないでしょうか。

以上