視点 論点・2018年診療報酬改定
― 外来、在宅、オンライン診療 ―
(全国保険医新聞2018年6月15日号より)
2018年診療報酬改定をどう見るか。加藤勝信厚労大臣は「2025年に向けた道筋を示す、実質最後の同時改定であり、医療介護制度にとって重要な節目」と位置付けている。地域包括ケアの構築や医療機関の機能分化、連携などが強調されてきた。保団連理事、専門部員が改定の論点を解説する。今回は外来、在宅、オンライン診療、次回は入院分野を取り上げる。
■外来 ― 基本診療料の引き上げこそ
森 明彦・理事
今回の診療報酬点改定では、本体プラス0.55%を評価する見方もあるが、数字だけではなく入院外・入院、内科系・外科系、急性期・慢性期・維持期、算定要件などそれぞれにその中身がどうなっているかが気になるところだ。新たに点数化される背景、点数の上下、要件の強化・緩和など、中医協での議論の経過などで継続的に捉え、狙いはどこにあるのか冷静に見極めないと梯子を外される。
今回の改定では診療所等における新設・見直しの主な項目は、▽初診時における機能強化加算(80点)▽診療科を問わない妊婦に対する初診時加算(75点)、再診時加算(38点)等▽地域包括診療加算1、同診療料1―などである。
機能強化加算では、かかりつけ医機能に係る届出等を行っている診療所が対象となるが、現場から算定要件のハードルが高いとの声がある。また、かかりつけではないインフルエンザ等の患者から約30%アップの初診料をいただくのはいかがなものかという声もある。医療現場では算定可否にかかわらずていねいに患者に対応しているのが実態だ。かかりつけの定義に疑問は多い。
今回の点数表改定は、地域医療構想を後押しする形で急性期病床のさらなる削減が見込まれている。介護保険の介護医療院も新設された。私は、施設系訪問診療も行っているが、年々、入院から在宅に押し出された患者の受け入れ先が問題になっている。また、開業医を施設基準や算定要件で縛り、生き残るためには介護に進出せよと強引に誘導する傾向も顕著だ。
私が開業する青森県など北東北や北海道などの医療過疎地域では、開業医自身の高齢化もあいまって、産科はもとより、耳鼻科、小児科など特定の診療科医師も不足している。ここ数年、弘前大学医学部では地域枠拡大で医師不足に歯止めをかけたい考えだが、特定の診療科整備にはほど遠く、根本的な解決になっていない。結局、私たち内科系の現役開業医が特定地域で不足する診療科を広く診ていくしかないのが現状だ。
そうであれば、小手先の妊婦加算や複雑に枝分かれし厳しい算定要件が付加された特掲診療料より、基本点数を充実(引き上げ)させたほうが限られた医療資源を最大限活用できる。誤魔化しのわずかな点数引き上げではなく、無条件で算定できる初・再診、基本診療料の大幅な引き上げを求める。
■在宅 ― 新規参入阻む過度な複雑化
三宅 靖・社保部員
高齢化が年々進行し、独居も含めた高齢者のみの世帯が増え続けるなか、在宅医療の必要性がますます高まっていくことに関しては今さら論ずるまでもないことあろう。ここ数回の診療報酬改定でも在宅医療の分野は大きな改定がなされており、今回も医療機関に併設する介護施設等の入居者に対する訪問診療料として低い点数が新設された。
在宅医療関連の点数は複雑化し、いろいろな矛盾が生じ、その算定も煩雑なものとなっている。特に複数の患者を診察した場合に往診料と在宅患者訪問診療料には「同一患家」と「同一建物居住者」という考え方があり、また在宅時医学総合管理料等には「単一建物診療患者」という考え方が2016年の改定で導入された。いずれも複数の患者を同日あるいは同一月に診察した場合の点数が低く抑えられたものである。このため、時には医療機関側がより多くの患者を診察した方が逆に点数が低くなるという事態が生じ、また医療を受ける側にとっても自分以外の患者を何人診察したかという自分の受けた医療とは全く関係のないことによって自己負担金が変わることになってしまっている。その上これらの点数及び加算には強化型在宅支援診療所、在宅支援診療所及びそれ以外で点数の異なるものもあり、一読しただけではなかなか理解できないものとなっている。
そもそも同じように在宅医療を行っているにも関わらずその人数によって点数に差をつけること自体に無理があると言わざるを得ない。訪問診療に関しては患者と対面している時だけが診療報酬上の評価となっており、これにはやむを得ない面もあるが、実際には訪問前に一度はカルテを開いて一人一人の現在の状態を思い浮かべ、治療方針を確認し、処置が必要ならその物品をそろえ、採血検査の予定があればあらかじめ準備をしてから出かけるはずである。そういったいわば「仕込み」には患者数分の労力が必要である。そしてこの「仕込み」によって診療の質も向上し、無駄な時間も省くことができるのである。効率的に診療をすることにあたかもペナルティが課されるかような診療報酬はやはり容認しがたい。
さらには医療機関によっては算定の煩雑さを嫌って在宅医療への参入を躊躇することがあると耳にする。現状では強化型も含めた在宅支援診療所だけで在宅医療をまかなうことが困難であることを考えるとこれは医療資源の有効活用という面からも問題である。この点に関しては我々も会員医療機関に対し制度の周知を図る努力をしていく必要があることはもちろんであるが、診療報酬の不合理点を現場から発信していくことがますます重要になってくると考える。
■オンライン診療 ― 規制緩和懸念も動向を注視
山崎利彦・理事
昨年春、首相官邸で開催された未来投資会議で、遠隔診療を診療報酬に導入する議論が行われた。遠隔診療を積極的に推進する企業(仮に「M社」とする)は、テレビ等で情報を発信。「医療はこうなる」と紹介された情報番組では、発熱児童の母親がスマホで医療機関に接続、医師に画像通信で診察を受ける場面が放送された。その後、若い母親の「子供の喘息で急な発作の時に安心」とのコメントや、会社の昼休みに画像通信で禁煙外来を受けるサラリーマンの事例が紹介された。M社は全国の医療機関に情報番組やCMを「政府が遠隔診療の保険導入を決定」とする文面と合わせて送付、既に700件以上の医療機関が契約していると宣伝した。
これらセンセーショナルな動きに対し、保団連は、そもそも診療とは何かの議論を重ね、遠隔診療で「診療」が担保できるかを疑問視し、拙速な診療報酬への導入に反対する申し入れを厚労省に行ってきた。厚労省での交渉では、画像のみでの診療に対する危険性やエビデンス不足等を指摘した。
そうした首相官邸や業界からの後押しと、我々保団連を始めとした医療界の疑問視の中で、今回の診療報酬改定が行われた。結果は遠隔診療を「オンライン診療」と名称を定義し、導入に踏み切った。果してその内容は「診療報酬は認めたが厳しく制限する」ものであった。疾患や対象となる治療内容の制限の他、詳細は割愛するが、実施方法として、@初診から半年以上の「対面」診療を継続した上で、A三カ月以上の診療計画を立て、その中で計画された場面においてのみ認められる。B診療報酬は対面診療より大幅に低い点数となっている。医学管理料に関する制約も多い。
M社等、遠隔診療メーカーの一部は、算定できない診療報酬の補填として、保険外併用療養費の選定療養としての「予約料」の受領を推奨していた。しかし、今改定で、「予約料」は対面診療以外は請求できなくなった。導入した医療機関にとっては、大打撃である。
では、オンライン診療は何を目指しているのであろうか。現段階では、導入する医療機関も大赤字になるリスクもある。しかし、一定のエビデンス取得後にこうした制限が外れる可能性はあり、患者からの別途徴収についても「機器の運用に要する費用であれば可能」との逃げ道も用意された。そして、本稿執筆中に、国家戦略特区の兵庫県養父市が、診療から薬局での服薬指導までオンラインで完結させる医療を申請することが神戸新聞に掲載された。これまで特区で行われる医療は実験的なもので問題だとの指摘もされている。患者の服薬に関わる健康への影響が懸念される。今後の動向に注目が必要である。
以上