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脱タバコ社会を見据えてA
喫煙の害 ― 能動喫煙と受動喫煙

保団連研究部員 橋本 洋一郎氏
全国保険医新聞2018年7月5日号より)

 

 

 禁煙の論点を考える。保団連研究部員の橋本洋一郎氏に寄稿してもらう。(3回連載)

 

橋本洋一郎氏

 喫煙は、がん、上気道炎・肺炎、肺結核、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、慢性心臓病、周産期死亡、未熟児出産、乳幼児突然死症候群、歯周病、術後合併症、骨粗鬆症、狭心症・心筋梗塞、脳卒中、認知症、胃潰瘍など多くの原因になることはよく知られています。私は脳卒中、寝たきり、認知症といった厳しい症例の対応を行っています。喫煙の害について、脳卒中や認知症を中心に述べます。

 

 私が医師になった1981年には喫煙すると認知症(アルツハイマー病)が予防できると言われていました。98年にロッテルダム研究で喫煙によって認知症が2倍、アルツハイマー型認知症が2倍に増加すると報告され(Lancet 351: 1840-1843,1998)、それまでの通説が覆りました。その後の多くの報告が喫煙は認知症のリスクになるとし、喫煙によって認知症発症を1.6倍増加させると報告されました(Lancet 390:2673,2017)。喫煙者は寿命が10年短くなるので認知症にならない(生存バイアス)、タバコ産業から研究費が出ていてタバコ産業に不都合なデータは論文化されなかったこと(出版バイアス)などが間違った報告が過去にされた理由と考えられます。
 喫煙者の7割以上はニコチン依存症(タバコ使用障害)ですので、認知症になっても吸うのは忘れませんが、消すのを忘れて火事の原因になることがあります。また認知症になると禁煙治療は困難です。認知症になる前に禁煙して認知症予防をしてほしいと思っています。
 89年のメタ解析では喫煙で脳梗塞1.92倍、くも膜下出血2.93倍増加することが示されました(BMJ 298:789-794,1989)。また受動喫煙で脳卒中が1.25倍に増加すること、受動喫煙でも安全なレベルは存在しないことが証明されています。能動喫煙で証明されている有害性は受動喫煙でも多くの疾患で証明されています。
 喫煙本数と心血管疾患の関係は非線形であり、喫煙本数を減らしても減らした分に応じてリスクが減らないことが分かっています。脳卒中に関する最新の報告でも男性で1日1本1.25倍、1日20本1.64倍(交絡因子調整で1.30倍対1.56倍)、女性でそれぞれ1.31倍対2.16倍(交絡因子調整で1.46倍対2.42倍)でした(BMJ 2018;360;j3984)。1日1本の喫煙は1日20本の喫煙に比して、男性で41%(交絡因子調整で64%)、女性で34%(交絡因子調整で36%)の相対的リスクとなりました。
 米国ではFDA科学諮問委員会が、アイコスが紙巻タバコ喫煙より害が少ないというフィリップモリスの主張を5対4で否定し、加熱式タバコを認可していないため、米国では販売されていません。

 

 1本の紙巻タバコの能動喫煙、加熱式タバコの使用、受動喫煙でも疾患のリスクが上がること念頭において、禁煙支援をしています。

以上