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マスコミ懇談会 キムリア薬価3349万円に問題提起
公正・透明な薬価制度を

全国保険医新聞2019年7月25日号より)

 

 

報告する小島氏

 全国保険医団体連合会(保団連)は高薬価問題などをテーマにマスコミ懇談会を6月27日に開催した。NHK、日経、読売、産経、東京の各紙はじめ14社が出席した。再発・難治性の白血病患者を対象に3349万円と国内最高の薬価で5月に保険適用された新しいがん治療薬「キムリア」の薬価算定について、キムリアに用いられたものと同じ治療法の研究、臨床に携わってきた名古屋大学名誉教授の小島勢二氏が問題提起した。

 

WHO薬価透明化案に日本反対

 キムリアは、薬価算定に際して類似する薬が存在しないとされ、@〜Bなど各種経費を積み上げて算定する原価計算方式で算定された。当該新薬が、高い有効性や安全性を持つ場合、補正加算の形で上乗せ評価される。キムリアでは補正加算は45%とされた。補正加算の上乗せは、総原価に含まれる原材料費や研究開発費などの情報公開の程度に応じて増減する。80%以上なら@〜Cの合計に満額で上乗せされるが、50%未満の場合は8割減額される。キムリアは情報開示50%未満の最低ランクで判定されたため、45%×0.2で277万円。
小島氏報告資料から作成

 キムリアの薬価算定過程(図)について、小島氏は「製薬メーカーは、非公開の薬価算定組織にも原材料や開発経費など総原価の内訳の情報を最低限度の水準でしか示しておらず、中医協では『ブラックボックス』との批判が噴出した」と述べ、原価の不透明さを指摘した。
 薬価の透明性について小島氏は、5月に行われたWHO(世界保健機関)の総会で「原価の情報公開」や「信頼でき透明性のある研究開発費の詳細なデータに基づく価格決定」などを求める決議案が共同提案されたと紹介。「製薬メーカー団体の要求を背景に、日本、ドイツ、米国、英国などが反対し、原価の情報公開や研究開発費の透明化を求める部分が削除された」と批判した。
キムリアの高薬価について、小島氏は「販売元のノバルティス社が技術開発先に支払う高額なパテント料ではないか」と指摘し、キムリアに用いられた治療法は、独自開発してきた名大病院や臨床研究が進む中国の病院では「パテント料を介さず1人100万〜200万円で治療が実施され、患者の状態も良好だ」と紹介した。
 同治療法は今後、固形がんへの適応も見込まれ、1兆円を超える市場になると予想される。開発技術を持つベンチャー企業などを製薬メーカーが巨額の資金で買収し高薬価で商品化する流れが強まっているとし、小島氏は、「(創薬が)マネーゲームと化しているのではないか」と指摘した。

 

再発防止が課題も臨床研究に支障

 この治療法は再発・難治性の白血病などで1回投与で寛解に入る高い効果が報告され、日本で承認されたキムリアの使用法も1回投与とされている。これについて小島氏は、米国で報告された5年生存率データを基に「白血病細胞が残る患者への単回投与では全員が亡くなっている」として有効性を疑問視した。再発防止に向けて、複数回投与や「オプジーボ」の併用などの試みが諸外国で進んでいると紹介し、「高薬価でも複数回投与などが保障されるのか。臨床研究に支障をきたさないか」と懸念した。
 高薬価の是正策として小島氏は、大学などアカデミアで研究開発した治療法を安価に患者に提供できる仕組みが必要と提案した。

 

公正で透明な薬価制度を 住江会長

 保団連の住江憲勇会長は、「キムリアは情報の開示度が高ければ、さらに高い薬価が期待できた。開示を拒むということは、示された2363万円の総原価も適正ではなかったと思わざるを得ない」と強調。「公正で透明な薬価制度に向けて取組みを強めていく」と訴えた。
 同日は、宇佐美宏歯科代表が「学校歯科治療調査」の最終報告も行った。

以上