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医療機関の消費税増税後の対応@

全国保険医新聞2019年9月25日号より)

 

税理士 益子良一
税理士 益子良一
 税理士法人コンフィアンス 代表社員税理士、専修大学法学部講師

 10月1日から消費税率が10%に引き上げられ軽減税率8%が実施されるに当たり、消費税増税後の対応について全国から問い合わせが寄せられている。
 消費税増税後の医療機関の対応について2回に分けて解説する。

 

診療行為を行った日で消費税率が決まる

 自由診療等課税売上げとなる収入の計上であるが、医科・歯科を含め診療行為を9月30日までに行った場合は8%、10月1日以降の診療については10%で計上する必要がある。すなわち診療を行った日で消費税率が決定される。
 とくに市や医師会等から振り込まれる健診や予防接種等の収入は、概ね2カ月以上経ってから振り込まれるので、9月30日までに行ったのか10月1日以降に行ったのか注意する必要がある。

 

帳簿には税率ごとに区分して記帳する

 基準年度の課税売上げが5000万円を超えることにより簡易課税が適用できず本則課税となる医療機関は、医薬品・医療材料を含め仕入れ等に係った経費が、軽減税率8%が適用される品目なのか10%が適用される品目なのかを検討し、税率ごとに区分して帳簿等に記帳する必要がある。
 とくに消費税申告に当たり、現行の消費税率8%は、そのうち国の取り分は6.3%、地方の取り分は1.7%で、その申告を一枚の申告書に記載して納付は国に一括して行う。
 消費税率が10%になったとき国の分は7.8%で、地方の分は2.2%となり、軽減税率の場合は同じ8%でも国の分は6.24%、地方の分は1.76%と9月30日までの配分とは異なるので、同じ8%でも分けて処理する必要がある。
 すなわち8%については、9月末までに支払うことが確定し10月以降に支払う経費等については「旧8%」と記載し、軽減税率分については「軽8%」というように区分して記載する必要がある。
 ところで賃貸借契約で、月末までに翌月分の支払をする診療所の家賃等は、9月中に支払ったとしても10月分の資産の貸付の対価として支払うので10%の消費税率を付した請求書となってくるはずである。

 

経過措置として8%の旧税率が適用される場合もある

 9月30日までに締結した契約に基づき10月1日以後に行われる取引は10%の消費税率が適用されるが、経過措置として8%の旧消費税率が適用される場合もある。

 

経過措置が適用される事例

(1)旅客運賃を領収している場合

 旅客運賃を9月30日までに領収している場合は、その乗車券が発行されていなくても8%の経過措置が適用される。

(2)電気料金等の取扱い

 10月1日前から継続して供給し又は提供する電気、ガス、水道及び電気通信役務等で、検針等により10月31日までの間に料金の支払いが確定するものは8%が適用される。

(3)資産の貸付けの場合は「指定日」に注意

 一般的にはリ−ス取引が該当すると思われるが、2019年4月1日指定日の前日(3月31日)までの間に締結した資産の貸付に係る契約に基づき、10月1日前から引き続き当該契約に係る貸付を行っている場合は、次の「@及びA」又は「@及びB」に掲げる要件に該当するときは、10月1日以後でも8%が適用される。

@ 当該契約に係る資産の貸付期間及びその期間中の対価の額が定められていること。
A 事業者が事情の変更その他の理由により当該対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと。
B 契約期間中に当事者の一方又は双方がいつでも解約の申し入れをすることができる旨の定めがないこと並びに当該貸付に係る資産の取得に要した費用の額及び付随費用の額(利子又は保険料の額を含む)の合計額のうちに当該契約期間中に支払われる当該資産の貸付の対価の額の合計額の占める割合が100分の90以上であるように当該契約において定められていること。

(4)工事の請負等の適用税率は「指定日」が関係する。

 2019年4月1日指定日の前日(3月31日)までの間に締結した工事契約に基づき10月1日以後に工事をしたときは8%の経過措置が適用される。

 

軽減税率の適用となる対象品目の確認

 軽減税率の対象となるのは、@酒税法に規定する酒類を除いた飲食料品の譲渡(食品表示法に規定する食品の譲渡をいい外食サ−ビスを除く)と、A定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡である。

 

医療機関に関係する事例

(1)病院食は軽減税率の適用対象となるか

 健康保険法の規定に基づく入院時食事療養費に係る病院食の提供は非課税とされているので消費税は課されない。
 しかし患者の自己選択により、特別メニュ−の食事の提供を受けている場合に支払う特別の料金については非課税とならない。また病室等で役務提供を伴う飲食料品の提供なので「飲食料品の譲渡」には該当せず軽減税率の適用対象とはならない。

(2)有料老人ホ−ム等の飲食料品の提供は、軽減税率の適用対象となるか

 有料老人ホ−ム及びサ−ビス付き高齢者向け住宅において行う飲食料品の提供とは、有料老人ホ−ム等の入居者に対して行う飲食料品の提供をいうので軽減税率の対象となる。
 ただし、軽減税率の対象となるのは、有料老人ホ−ム等の設置者又は運営者が、同一の日に同一の者に対して行う飲食料品の提供の対価の額(税抜き)が一食につき640円以下であるもののうち、その累計額が1,920円に達するまでの飲食料品の提供であることとされている。
 なお設置者等が同一の日に同一の入居者等に対して行う飲食料品の提供のうち、その累計額の計算の対象となる飲食料品の提供(640円以下のものに限る)をあらかじめ書面により明らかにしている場合には、その対象飲食料品の提供の対価の額によりその累計額を計算するものとするとされている。

以上