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超高薬価問題 アカデミアからの提言@                   

新薬ゾルゲンスマ 適正な薬価を

名古屋大学名誉教授 小島 勢二
全国保険医新聞2019年10月5日号より)

 

こじま・せいじ
 1999年に名古屋大学小児科教授に就任、2016年3月に同大学を退官。在任中、造血幹細胞移植にみられる合併症の治療法として、ウイルス特異的細胞障害性T細胞療法や骨髄間葉系幹細胞などを開発した。また、網羅的遺伝子解析でいくつかの疾患において新規原因遺伝子を発見した。愛知協会会員

 1億円を超える新薬の登場が取り沙汰されている。米国で2億3000万円の価格がついた乳幼児の難病治療薬ゾルゲンスマが、早ければ日本でも年内に承認され、保険適用が見込まれる。長年、小児がんの研究・治療に携わってきた小島勢二氏(名古屋大学名誉教授・名古屋小児がん基金理事長)は、マネーゲーム化する新薬開発に警鐘を鳴らしつつ、ゾルゲンスマの薬価は2000万円以下が妥当と指摘する。(3回連載)

 

 5月に、キムリアに3349万円の薬価がついて保険適用が決まったことを契機に、わが国の薬価制度さらには保険医療体制に関する議論が高まっている。

 

2億円治療の登場

 同じく5月に、米国で承認された脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療薬(ゾルゲンスマ)には、2億3000万円の価格がつけられた。ノバルティスが申請しているゾルゲンスマは年内にもわが国でも承認する見通しのようである。SMAのような稀少疾患ばかりでなく、6月にヨーロッパでは、全世界で年間6万人の患者が発生するβ-サラセミアの遺伝子治療薬が承認されている。
 超高額な遺伝子治療薬が登場する中、適正な薬価のあり方をはじめ、わが国の薬価制度は根本的な見直しの必要性に迫られている。
 SMAは、SMN1遺伝子の欠失や変異が原因で、進行性の筋力低下や筋萎縮がみられる神経原性筋萎縮症である。とりわけ、乳児型においては、早期から人工呼吸管理を必要とし、人工呼吸器を使わずに2歳以上生存することは稀である。わが国の推定患者数はおよそ1,000人である。
 わが国ではSMA治療薬として、機能性SMNタンパク質を増加させる機能をもつアンチセンスオリゴヌクレオチド製剤であるスピンラザが、2017年7月に承認された。スピンラザは、乳児型に対しては最初の9週に4回、その後は4カ月に1回、髄腔内投与する。
 スピンラザの薬価は、初年度が総額5592万円、2年目以降も2796万円と極めて高額だ。
 発症早期の症例への本剤の適応については誰もが異論はないが、すでに気管切開をおこなっているような進行例への適応については、専門医の間でも議論の分かれるところである。実際に、スピンラザの使用経験がある小児神経科医にその効果について尋ねてみたが、「投与開始1年経過した頃から、沐浴時に上肢が水に浮いた状態であれば、今まで動かせなかった肩関節を外転させる動きが見られるようになった」とのことである。
 期待するような、自力で座ったり、立つことができるようになるのは稀であるようだ。しかし、藁をも掴む思いの家族の希望に反して、本剤による治療を拒否する小児科医は少ないであろう。家族にとっても、わが国では、小児慢性特定疾病医療支援事業による医療費助成制度を使えば医療費の負担がないことから、ほとんどの患者は本剤による治療を希望するに違いない。
 一方ゾルゲンスマはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを利用した遺伝子治療薬で、投与法は1回の静脈内投与のみで済む。もともと、米国のネーションワイド小児病院から独立した研究者達がアベクシスというベンチャー会社を設立し、10数人を対象に治験をおこなった。

 

有望な治療で少数の人が大金を得る

 その結果が有望ということで、2018年の4月にノバルティスがアベクシスを87億ドル(1兆円)で買収した。キムリアと同様、ノバルティスが自社開発したものではない。アベクシスの株を保有していた投資家の一人は、4億ドル(400億円)の資産を手にしたと伝えられている。買収によって、少数の人が大金を手にしたが、同時に、ゾルゲンスマに驚くほどの価格がつくことになった。その価格が、212万5,000ドル(2億3375万円)である。

以上