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カネは払ってサービスなし
介護保険を壊す負担増・給付減

全国保険医新聞2019年10月25日号より)

 

参院選終え議論加速

 介護保険サービスの利用者負担増や保険給付削減などの介護保険法改正に向けた議論が、参院選を終えた8月から厚労省の審議会で加速している。2021年度からの施行に向けて、今年中に結論を得て来年の通常国会に法案が提出される。問題点を解説する。

 

 厚労省が8月29日に提出した「持続可能な制度の再構築」のための検討課題は、@被保険者・受給者範囲A補足給付に関する給付の在り方B多床室の室料負担Cケアマネジメントに関する給付の在り方D軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方E高額介護サービス費F「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準G現金給付―だ。ほとんどがサービスの抑制と利用者負担拡大を目指すものだ(表)。

所得200万円 未満が4割超

 「国民生活基礎調査」(平成29年度)によると、65歳以上の高齢者世帯で所得200万円未満の世帯は35.2%、100万円未満の世帯は11.7%である(グラフ)。国保料や後期高齢者医療保険料の引き上げ、10月からの消費税増税、生活の柱である年金のマクロ経済スライドによる引き下げ、これらによって生活費はさらに削られる。
 こうした状況でサービスの給付抑制と利用者負担増が実施されれば、必要な介護サービスが受けられない状況が広がってしまう。
 今でも「高すぎる保険料のため、滞納せざるをえない」「利用料が払えず、サービスを断念する」など、最も介護を必要とする人々が介護サービスを受けられないとの指摘がある。
 また、介護保険制度の目的の一つに家族の負担軽減があったが、介護サービスが利用できなくなれば、要介護者および家族に大きな負担を強いることになる。

 

「立ちゆかない」「慎重に」

 8月29日の社会保障審議会「介護保険部会」では、「原則2負担では(生活が)立ちいかなくなる」(認知症の人と家族の会:花俣ふみ代委員)、「(介護保険施設は)医療サービスの受け皿であり、多床室の室料負担化は慎重に」(日医:江澤和彦委員)などの意見があった。
 9月13日には、第8期介護保険事業(支援)計画について、2040年も見据えた基盤整備と認知症施策の総合的な推進がテーマとされた。厚労省は、地域によって将来の介護サービス需要の増減格差が大きく異なることを示し、将来的な介護需要を見据え(介護保険対象外の)民間サービスの積極的な活用を求める意見を出した。
 9月27日には、「保険者機能の強化」がテーマとされ、「保険者機能強化推進交付金」について達成状況をより具体的に把握できる指標の導入を求める意見と、交付金拡充が給付抑制につながるとする意見が出された。
 10月9日には、介護人材、地域支援事業、介護予防がテーマとされ、要介護1・2の生活援助サービスを総合事業に移行することが提案された。要支援1・2の訪問介護と通所介護は、従来より基準を緩和して報酬を低く設定することのできる総合事業にすでに移行しているが、その結果「実施主体や担い手がいない」状況が広がっている。
 介護保険部会では、今後もテーマごとに月1〜2回議論を進める見通しだ。厚労省が提案するサービスの抑制と利用者負担拡大が実施されれば、介護保険料は徴収されるが介護サービスを受けることが困難な状態が拡大してしまう。

 

必要な人が適切に利用できるよう

 言うまでもなく、介護保険制度は社会保障の一環である。社会保障サービスは、必要な時、必要な人に適切に提供される仕組みとして確立される必要がある。介護現場では、介護報酬の抑制が人手不足と過酷な労働、低賃金などを招いている問題も深刻だ。制度を支える介護従事者が確保できなくなっている。
 社会保障としての介護を守るため、国、企業、自治体が責任をもって下記事項の実現を図るべきである。
1 介護保険財源に対する国と企業負担をさらに増やし、保険料及び利用者負担割合を引き下げ、検討課題となっている8項目について、下記の対応を図る。@ケアプランへの自己負担導入や、介護サービスの各種自己負担拡大を行わない。A要介護1・2の生活援助サービスの総合事業への移管を行わない。要支援者に対する訪問介護・通所介護を介護保険給付に戻す。B被保険者の30歳以上への拡大を行わない。
2 介護従事者の労働条件の改善。そのためにも介護報酬を引き上げる。
3 医療系介護サービスは医療保険給付に戻す。
4 居宅介護支援事業者の管理者要件を主任ケアマネに限定せず、主任ケアマネを配置した場合には報酬加算を行う。少なくとも十分な経過措置期間をおく。

以上