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「辞めない」職場のつくり方
家庭生活との両立 「人的余裕に尽きる」

全国保険医新聞2019年11月25日号より)

 

診療報酬引き上げ不可欠

 「働き方改革」や共働き夫婦の増加などで、有給休暇の取得や家事、育児、介護との両立等を可能とする労務管理が医院経営を担う開業医に求められるようになっている。スタッフが良好なパートナーとなり得る雇用関係を築くことは、信頼される医療の土台でもある。スタッフが長く働き続けられる職場の実現には何が必要か。開業医として働きやすい職場づくりを進めている宮城協会の石川小百合氏、長崎協会の安日泰子氏、保団連経営税務部部長の太田志朗理事に寄稿してもらった。

 

完全有休消化と時短の充実
宮城協会 石川小百合

 私は内科の開業医をしており、「家事、育児、介護で仕事を辞めない職場づくり」を目指しています。
 取り組みの一つ目は、去年より始めた完全有休消化制度です。誕生日、結婚記念日、子供の行事、冠婚葬祭、体調不良、旅行などで必ず有休をとってもらうようにしました。この取り組みをはじめてから、それまで当たり前だった有休を申請するときの従業員の「すみません」がなくなり、「ディズニーランドに行ってきます」など、プライベートを楽しんでいることを報告してくるようになりました。
 また、昼の休憩が必ずとれるように、混雑時にお昼の時間を早番、遅番と分けて対応してもらうようにしました。そうすることで、みな休息をとってから午後の勤務に入れるので、勤務に集中できる環境になりました。

 

母親の応募増えた

 さらに、育児中のスタッフには無期限での時短制度を設けています。共働きの場合、現状では、家事や育児の負担がほとんど女性にかかっている家庭が多いかと思います。家事、育児をこなす女性には仕事のあとに休息はありません。子育てに必要な期間はさまざまですので、子どもが何歳であっても育児中であれば時短で勤務できるようにしました。
 それまで未就学児をかかえる職員の応募はなかったのですが、取り組みを始めてから、問い合わせが増え、今ではお母さんたちが頑張って働いています。
 最後に「働きやすいルール」をいくら決めても人間関係が良くなければ働きやすい環境は実現しません。そのためにもどんな立場にいるスタッフにも気配りを忘れずに過ごすよう心がけています。

 


 

人的余裕で育休明け復帰可能に
長崎協会 安日泰子

 当院のメンバー構成は事務スタッフ3名および看護スタッフ4名、計7名が正規雇用、うち2名はここ数年の育休明け復帰者である。加えてパート看護スタッフ1名、通常の開業医としては雇用者が多いと思われるかもしれない。
 しかしこの人数で初めて育休明け復帰が可能となる。これを実感する。育休明けの子どもは病気の連続、この2名の復帰後の状態は酷似していた。保育園からの電話…どんなにこれが「恐怖」であったか、当時の私自身を思い出させる2人の育児復帰者たちである。今から結婚を考えているスタッフもそれを普通のこと、すなわち自分の「将来のシミュレーション」として見ている。
 原則週休2日制で、昨年の当院での正規雇用者有休取得率は65%(全員延べ付与日数118日)であった。育休明け復帰後の看護休暇やこの有給休暇を、スタッフ全員が「自分たちの権利」として受け取っている。それを可能とするのは人的余裕に尽きる。

 

患者さんへの対応もスムーズに

 休暇が多いとスタッフの組み合わせが多様になる。少人数で休みが少ないと毎日金太郎飴的面子、煮詰まってしまい、悪い化学反応を起こす。一人一人の余裕は患者さんへの対応に如実に現れる。私はそれに随分助けられてきた。やはりそれを可能とするのは人的余裕だった。
 給料条件も大切だが、スタッフは正規雇用としての安心感や休養の保障、煮詰まらない人間関係に価値を置いているようである。それらは彼女たちの将来家族形成という希望につながっているようである。
 せっかく共に働くのであれば、風通しのいい場所と関係でありたい。できればそれはそよ風であってほしい。

 


 

ゆとりある雇用で患者も満足
保団連理事・経営税務部部長 太田志朗

 医療機関で患者さんの「待ち時間」を少なくして「満足度」を上げるとともに、職員に安心して仕事をしてもらうには、事務職員も看護師もやや多く雇用し、「ゆとり」をもって診療する必要がある。「働きやすい職場づくり」は、患者さんへのより良い接遇にも結びつくメリットがある。
 当院は小児科単科標榜であったが、次第に内科の患者が増加し、数年で内科、アレルギー科も加えた。現在医師1人に対して、常勤看護師は5人(30代1人、40代2人、50代1人、60代1人)で50代、60代は開業以来30年のベテランである。事務職員は常勤が5人、パートが2人(40代2人、50代3人、60代2人)で、5人は開業以来働いてくれている。このうち2人はがんの手術を経験した後、職場復帰を遂げている。
 小児科中心の職場で夏場は閑散としているが、11月から12月には風邪やインフルエンザのワクチン接種、1月から2月にはインフルエンザにかかった患者で大混雑する。閑散期も含めてこのスタッフ数を維持することで、週2.5日から3日の休みやがん手術後の職場復帰を可能にしている。

 

財政的保障が必要

 ゆとりある人員配置を実現するには、言うまでもなく財政的保障が必要だ。政府の統計でも医療職種の賃金は上がっている上、看護師不足等の中で医院への定着を図るためには一定水準の給与を保障せざるを得ない。
 働きやすい職場づくりの実現には低医療費政策を改めさせ、診療報酬を引き上げることが不可欠である。

以上