介護と暮らし成り立たない
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公益社団法人認知症の人と家族の会は認知症になっても安心して暮らせる社会の実現を掲げ、当事者である患者と家族の声を国に届けてきた。介護保険制度を審議する社会保障審議会介護保険部会にも同会選出の委員が出席し発言するなど、介護保険の給付削減や負担増に反対する活動に取り組んでいる。同会代表理事の鈴木森夫氏(写真)に、議論の現状や介護保険利用者の切実な声を寄稿してもらった。
認知症の人と家族の会代表理事 鈴木 森夫
社保審介護保険部会は年末の取りまとめに向け審議を進めている。部会の論議に加え財界の委員などが中心の全世代型社会保障会議でも来年通常国会に提案予定の介護保険法改正案に際し、負担増と給付削減を迫る声が強く出されている。
10月の財政制度等審議会では、「介護保険利用料の2割負担」「ケアプランの有料化」「『軽度者』(要介護2まで)の訪問介護と通所介護を市町村が運営する総合事業(介護予防日常生活支援事業)へと移行」などの「改革案」が示され、11月25日の建議でも介護給付抑制の具体的な項目が掲げられた。
経団連は、介護保険2割負担の対象拡大を「特に優先して実現すべき事項」とする提言を発表している。
「負担増と給付削減」ありきの包囲網がいっそう強まる中、介護保険制度を検討する介護保険部会の議論が振り回されることが危惧される。
開始から20年が経つ介護保険制度は、相次ぐ見直しで、創設時の理念は後退の一途をたどっている。4年前には利用料1割負担という国民との約束が反故にされ、一定以上の所得の人は2割負担に、昨年8月には、3割負担まで導入された。
加えて、昨年から、在宅介護を支えている生活援助サービスを事実上回数制限する改定が行われ、認知症の人や家族にとって、介護と暮らしは日ごとに厳しくなり、この先の生活の不安は増すばかりである。
昨年秋に会員向けに実施した「介護保険の困りごと」アンケート(表)には、利用者負担増で必要な介護サービスの利用を手控えている厳しい介護の実態が寄せられた。
介護保険の負担増は国が進める認知症施策に逆行する。このままでは介護と暮らしが成り立たなくなる。
12月5日社保審介護保険部会 花俣ふみ代委員の発言要旨
「補足給付(*施設での食費や部屋代の補助)に関する給付の在り方」を巡る議論で、「せめて食費は給付の対象から外すことを検討すべきだ」という意見があるが、食べることは生きることの基本であり、ましてや病気や障害がありながら生きる人にとってはさらに重要なものだと思う。
また、預貯金の勘案について、「500万円については見直しの余地がある」との意見があるが、本当に500万円の預貯金があれば、補足給付からはずしても大丈夫と言えるのか。家族のために利用するお金がなくなってしまう可能性もある。けがや病気になって医療費がかかるなど不安は尽ない。
要介護1と2の生活援助サービス等を総合事業に移すというテーマだが、すでに要支援1と2では、認定を受けていても、ホームヘルプ・サービスとデイサービスが給付されていない。認定を受けても、これらについては「受給者」にはならないのだ。以前に厚労省が出した資料でも、給付費は認定を受けたひとりひとりに提供されるものであり、総合事業は運営する市区町村に事業費が渡されるものとされていた。総合事業とは、給付ではないという理解でいいかあらためて確認をしたい。また、認定を受けなければ給付の対象にならないのに、認定を受けてもなお必要とされているサービスが給付されないという見直しには反対だ。
「能力のある人は負担すべき」との意見があるが、所得や預貯金、あるいは「補足給付」で言われている不動産もふくめて、高齢者にはどのくらい「負担能力」があるのかはっきりしていない。特に「一定以上の所得」とは、すべての高齢者の所得をみて、上から2割の人を「相対的に負担能力がある」と言い、全体からみて所得があるからと言って果たして「負担能力」があると言えるのか。前回の改定以降、今でさえ1割と2割の境界線上にある方は、負担増でサービス利用を控えなければならない。支出が大幅に増え先行きが不安、1割でも大変なのにこれ以上負担が増えると無理というのが実態だ。
報道では、後期高齢者医療保険制度でも「一定以上の所得」がある人は2割負担にすることが検討されている。
介護が必要な人は医療保険も利用しており、ダブルで負担増となる。ひとり暮らし、高齢夫婦、介護離職、引きこもりの子どもを扶養している場合はどうなのか等、より丁寧な調査と分析が必要だ。
以上