ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次

人手不足で業務逼迫 全国保健所長会が実態調査
浜松医科大学教授 尾島俊之氏に聞く

全国保険医新聞2020年5月25日号より)

 

 新型コロナウイルスの感染拡大で、公衆衛生の最前線である保健所の業務の逼迫が報道されている。全国保健所長会が実施したアンケートでも、業務負担や人員不足を訴える声が寄せられている。現場の実態などを、アンケートをまとめた浜松医科大学教授の尾島俊之氏に聞いた。

 

市民40万を5人で「休み取れない」

 全国の保健所を対象に、3月中旬から4月にかけて行った新型コロナウイルス感染症に関する緊急アンケートでは、業務量が多くて大変だという叫びが寄せられました。
 保健所に設置されている「帰国者・接触者相談センター」は相談が殺到しています。センターは24時間対応が求められており、多くの保健所が夜も休日も対応しています。他にも、▽帰国者・接触者外来への受診調整▽地方衛生研究所への検体搬送▽医療体制についての医療機関への説明や交渉、連携会議▽行政検査(PCR検査)受付▽市町村との情報共有や助言▽積極的疫学調査(クラスター対策を含む)▽毎日の入院患者の病状把握▽陽性患者発生時の医療機関の連絡調整―等、新型コロナウイルスに関連する保健所の業務は非常に多くあります。
 保健所の人員不足は深刻です。保健所は現在、概ね二次医療圏に一カ所ですが、感染症担当の保健師が3人ほどしかいなかったり、人口40万人の市で5人というところもあります。職員を総動員して新型コロナ対応にあたっても足りません。「休みがとれない」という声が多く寄せられました。
 業務量に加えて、精神的な負担も重くなっています。相談センターから検査のために帰国者・接触者外来につなげることになっていますが、たとえばある地域では内科医が3人しかいない病院に帰国者・接触者外来が設置されています。新型コロナ疑い以外の患者も診なければならないため、それほど多数は受け入れられません。また病床が足りず、感染者の入院先がなかなか見つからないこともあります。こうした中で、保健所職員が相談者や患者との板挟みになり、叱責罵倒されることすらあります。

 

統廃合で保健所半減 備えのできる人員配置が必要

90年代以降の「行革」で

 保健所の人員不足の背景には、1990年代以降、「行政改革」により進められてきた保健所の統廃合があります。
 1994年に保健所法にかわって地域保健法が制定され、その後の通知によって、保健所の管轄地域をそれまでより広域の二次医療圏と一致させるとされ、保健所の削減が進みました。94年に847あった保健所は、2020年には469と約半数に減っています(表)。
多くの政令指定都市では、以前には区ごとに保健所があったのが、現在福岡市以外は市に1カ所となっています。保健所の減少により職員数も減少し、今回の新型コロナ対応で保健所が逼迫する事態を招いています。

 

通常時から多忙

 さらに、保健所の通常時の業務は増え続けています。地域医療構想や地域包括ケアなど、昔に比べて保健所の扱う課題が多くなりました。通常の業務ですらぎりぎりの人員で多忙です。加えて今回のように感染症が拡大すれば、担当者は過労死ラインを超える働き方を余儀なくされることになってしまいます。

 

PCR検査センターに期待

 今各地でPCR検査センターの取り組みが始まっています。保健所を通さず医師の判断で検査を可能とし、センターで検体を採取し、民間の検査機関に回すというものです。保健所の負担を軽減し、検査数も増やすことができるので、非常に期待しています。ぜひ多くの先生にご協力いただきたいと思っています。
 PCR検査は、@検体採取A搬送B検査の流れになります。このうち、@検体採取がなかなか増えないので、検査数が増えないのが現状です。PCR検査センターのように検体採取を行う機関が全国に広がれば、検体数を大幅に増やすことができます。そのためには、国の責任で防護具をはじめとする運営費用を確保することも必要です。また、唾液からの検査にも期待しています。
 検体の搬送も、以前は保健所職員が検査を行う衛生研究所まで直接持って行っていました。今は負担軽減のため、検体搬送の民間委託を進めています。
 検体採取、搬送、検査の流れをスムーズにして、保健所が関与せずに検査を行える仕組みを整えることが大切です。
 また、自宅やホテルで療養する軽症の患者の毎日の健康観察を効率的に行うため、スマホのアプリを使って必要な情報を報告してもらうシステムなどの活用が始まっています。

 

災害対策も不十分

 長期的には、保健所の体制やあり方を見直す必要があると思います。
 2009年には新型インフルエンザの流行があり、今年は新型コロナウイルスの感染拡大があり、今後もいろんなタイプの感染症が発生するでしょう。それを見据えて十分な数の人員を確保しておくことが重要だと思います。
 保健所は健康危機管理の拠点であり、感染症の発生だけではなく、最近毎年のように発生している地震や水害などの災害時にも対応しなければなりません。しかし、通常の業務が忙しく、十分な対応はできていません。たとえば18年3月に、災害発生時に被災地で保健医療の情報収集や関係機関との連絡調整を行う災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)の制度が新設されましたが、この訓練も十分に行えていません。
 通常時の業務で職員が手一杯になってしまうのではなく、感染症の拡大や災害を想定し、日頃から備えのできる人員を配置しておく必要があります。

以上