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コロナで医師不足鮮明に 抜本増に政策転換を

全国保険医新聞2020年6月5日号より)

 

 新型コロナウイルス感染拡大の下、地域の病院では、発熱外来、PCR検査やコロナ感染患者の入院受け入れなどに対応しつつ、通常診療の継続もあり医師・歯科医師などの人手不足が深刻化している。先進国で最低の医師数を見直し、抜本的な医師増に舵を切るべきだ

 

先進国で最低医師数

 日本の医師数が少ないことは統計からも明らかである。各国の人口1,000人あたりの医師数では、ドイツの4.2人、フランスの3.4人、イギリスの2.8人と比べ、日本は2.4人と先進国の中でも特に少ない。医療崩壊で話題となったイタリアでさえ4.0人、国民皆保険がないアメリカでも2.6人と日本よりも多い。主要先進国などで構成する経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、日本の医師数はデータのある30カ国中26位と最低に近い。医師総数で日本は32万人だが、OECD30カ国の平均水準から見て11〜12万人も少ない。
 先進諸国で最低レベルに近い医師数で世界トップの高齢化社会の医療を担うため、超長時間労働にならざるを得ない。過労死ラインを超えて働く病院勤務医が4割に達する中、今回のコロナ対応で長時間労働にさらに拍車がかかり、医療崩壊が取りざたされる状況に至っている。

 

医療者全体が疲弊

 日本では、医療費を抑制する手段として医師を減らす政策が1980年代から進められてきた。1982年に医学部入学定員数を抑制することを閣議決定し、86年には入学定員の10%削減を掲げ、97年には、さらに定員削減を続けることを閣議決定した。この結果、84年に8,280人だった医学部定員は、2003年に7,625人にまで削減され、08年の見直しまで続いた。これにより、1970年代までは、OECD平均水準並みであった日本の医師数は最下位に近い水準にまで落ち込んでいる。
 勤務医の負担軽減策として、医師間のタスクシェアが指摘されるが、開業医も4〜5人のうち1人が過労死ラインを超えて働いている。多くのマンパワーを要する在宅医療の普及が急務だが、診療所医師は平均60歳に達し高齢化が進み、リタイア数の急速な増加も見込まれる。
 医師以外の他職種へのタスクシフトにしても、業務を移管される側も厳しい状況にある。日本医療労働組合連合会の調査(18年、1万1,000人回答)では、始業前の時間外労働は、看護職員で約7割、リハビリ技師で6割弱、就業時間後の時間外労働も各々7割弱、約7割となっている。介護職や医師も含めた全回答において「心身ともに付かれている」「かなり疲れている」は44%と半数近くに及び、医療従事者全体が疲弊している。

 

過労死容認の働き方前提

 他方、厚労省は、22年度以降、医学部定員数を減らす方向で検討を進めている。当初春頃には、新たな医師の需給推計が審議会に示され、22年度の医学部定員数の方針を固める予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月以降審議会は開催されていない。
 厚労省の需給推計は、病床削減を目標とした地域医療構想をベースにし、受診抑制を度外視した上で、医師の過労死水準の年960時間の残業、さらに一部の医師には過労死ラインの倍近い1,860時間の残業を強いることを容認したものである。医師の過酷な働き方を当然視した上で医師をさらに削減するものである。
 今回の新型コロナも教訓に、医療費抑制とりわけ医師数抑制策は抜本的に見直し、OECD水準並みを目指し医師増に向けて早急に政策転換すべきである。

以上