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コロナ禍と医療現場

受診抑制長引き重症化懸念
    ―経営支え日常医療の回復を

全国保険医新聞2020年6月25日号より)

 

 新型コロナ感染拡大で外来患者が激減し、医科・歯科診療所の経営は逼迫している。小児科、歯科、リハビリの診療現場では、厳しい経営状況の中でも患者の健康悪化を防ぐため懸命の努力が続けられている。診療現場の苦悩と日常医療回復に向けた取り組みを紹介する。

 

小児科クリニックの悲劇―東京協会 細部千晴

患者の激減した診療所の待合室

 昨年のインフルエンザ流行はすぐに収束し、例年患者が増加する12月から2月の外来収入が激減していた。そんな中、新型コロナウイルスに関する報道が始まり、学校休校に引き続き保育園までも休園となった。集団保育がなくなった結果、風邪などの急性疾患が激減し、小児科の経営は大きな影響を受けた。
 開業医は固定費としてテナント料、人件費、電子カルテ保守料、コピー機などのリース料がかかる。小児科だとさらに医薬品費(ワクチン)など毎月かかる。当院は3月の収入は前年同月の3割減、4月は同6割減、さらに5月は同7割減まで落ち込んでいる。そこで7月のボーナス支払いのためにも持続化給付金を申請中だ。
 東京など都会の親子は学校・幼稚園・保育園などが休みだと、育児疲れでとても親子だけで過ごすことは難しく、県をまたいだ移動は自粛せよと言われていても、実家にコロナ帰省される方が多いようだ。これも受診抑制の一因のように思う。健診・予防接種も同じ理由で、受診のタイミングがずれてしまっている方が多かったようだが、6月に入りじわじわと増えてきている。
 経営悪化によるコロナ鬱は医療関係者にも襲いかかった。私も気分は落ち込みがちだが、小児科医仲間のZoom飲み会で愚痴を言い合い、助けられている。大昔、産後1人で育児をしていた時を思い出した。仲間がいれば乗り切れる。困ったら地域の協会・医会へ電話してみてほしい。みんなでコロナを乗り越えよう。

 

風評広がりリハビリ激減―大阪協会 安藤 元博

フェイスシールドを着用し
通所リハビリを行う 医療スタッフ

 当院は大阪府南部の人口約2万の都市に所在し、自治体内では感染者は一人も発生していない。全国的に感染が拡大した当初より院内では従来から実施してきた標準予防策に加え「3密」の回避や感染疑い患者のトリアージ、有床診病棟や併設する老人ホームでの院内感染対策等できる限りの対策を講じてきた。
 しかし、府内のリハビリ病院でクラスターが発生し「リハビリでウイルスに感染する」「家にウイルスを持ち込むな」等の風評が拡散した。当院でも通所リハビリ・訪問リハビリ等の利用者は激減し、通院、入院、訪問診療も同様に減少した。いまだに回復への目途もたっていない。
 ウイルスの脅威には対処できたものの、感染リスクへの心理的不安は解消されず医院経営が逼迫している。
 3月から5月末まで収入は法人全体で前年より約20%減少した。金額で約3000万円の減収となる。6月以降も赤字になると倒産の危機に直面する。リハビリ利用への風評被害は、一医療機関の経営努力では対処しきれない。国による減収補填など財政支援が受けられないと医療スタッフの給与の見直しなどあらゆる経費節減を検討せざるを得なくなる。
 何よりリハビリを受けられない患者の症状悪化を懸念している。受診抑制を強いられる患者の生活・健康状況を一早く把握し、熱中症対策も考慮しつつ適切な医療を提供することが急務だ。
 新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延している中、今後は生活の中で「ニューノーマル」の概念も視野にいれなければならない。もちろん医療・介護・福祉の分野も同様であり、私たち自身も新しい方向性や変化への対応を模索しなければならないであろう。

 

腫れや痛みをずっと我慢も―神奈川協会 二村 哲

感染対策を強化し歯科治療にあたる
二村歯科医師

 「歯科は感染リスクが高い」と報道され風評が広がった。さらに、厚労省が4月に出した通知「緊急性のない歯科治療の延期を求める」により、当院にはキャンセルの電話が鳴り続け、来院患者は激減した。
 厚労省から出された通知は患者さんにとっては実質的に「歯科治療の自粛要請」としか見えない。
 しかも緊急事態宣言が解除された今でも明確な治療再開の指示は出されていない。歯科へ行ってよいものか患者さんは迷っているのが現状ではないか。当院では換気下で感染防止対策を強化して診療しているが、今も患者数は戻っていない。
 神奈川協会の会員アンケートからも4月に入ってから実に95%の医院で患者が減り、収入減となった。その減収幅が30%を越える医院が4月に4割、5月には半数に上った。同時に消毒薬や衛生材料の不足や高騰があり、経営を圧迫している。
 持続化給付金をはじめ融資などの利用率も高く深刻な経営実態が明らかになった。
 久々に来院した患者さんの中には、被せ物が外れたまま放置している方や歯の腫れや痛みをずっと我慢していた方もいて、悲惨な口腔内を目のあたりにしている。コロナ怖さに患者さんには緊急性の判断などできない。
 2カ月ぶりの訪問診療で、患者さんの一人が誤嚥性肺炎で亡くなっていたことを知った。継続的なケアができていればと思うと無念でならない。
 ストレス下の噛みしめなどにより歯の破折や顎関節症も増えている。
 新型コロナ第2波に備えて自粛ではなく、今こそ肺炎など全身疾患のリスクを軽減できる歯科の受診が必要とされている。

以上

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