ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次

公正で透明な薬価制度に 超高薬価適正化し 医療充実へ
―竹田智雄・保団連医科政策部長に聞く

全国保険医新聞2020年7月15日号より)

 

 がん治療薬オプジーボを契機に「高額薬剤」が話題となり、薬価制度の大幅な見直しが進められた。昨今もキムリア、ゾルゲンスマなど高額薬剤が相次ぎ登場し、医薬品の値段のあり方や公的医療保険財政への影響などが取りざたされている。竹田智雄政策部長に、超高額薬価の問題点と保団連の取り組みについて聞いた。

 

公的医療保険を守り拡充させる 

 まず、保団連がなぜ薬価の引き下げを求めているのかについて話したい。保団連は「国民医療の向上を目指す」、「保険医の生活と権利を守る」を柱に活動している。公的医療保険制度が充実することで、地域の医療機関の経営が安定し、患者・国民に安心・良質な医療が保障される点で、両者は表裏一体である。
 患者さんの救済はじめ公的医療保険を充実させることでは、引き続き安全性・有効性が確かめられた医薬品は迅速に保険収載することが不可欠だ。ただし、税・保険料や患者負担で成り立つ公的医療保険制度の下では、営利企業である製薬メーカーの過度な利潤追求を適正化することも求められる。私たちは、公的医療保険を守り拡充するために、薬価を適正に引き下げるべきと提案している。

 

日本の高い薬剤費・薬剤比率

図1 オプジーボ100r /10ml薬価
(英国を100とした場合)

 我が国の医療費総額に占める薬剤費割合は2001年以降、一貫して国際的に突出した水準にある。政府公表の数値(2017年)は22%だが、出来高払いのものである。民間シンクタンクによれば、DPCや特定入院料などに包括されている薬剤費も加味すると全体で24.8%と指摘されている。医療提供体制の違いもあり、厳密な比較は難しいが、皆保険を持つ国では、コスト意識が強いイギリス、ドイツなどは15%〜18%前後と推計されることからも、日本の薬剤費比率は高い。
 背景には、品目数で2割に満たない新薬が金額シェアで62.8%を占めていることが大きい。オプジーボの薬価は、当初イギリスの5倍、企業の希望で価格が決まる米国に比べても2.5倍だった(図1)。この事実を保団連が調査・発表したことを契機に薬価が緊急に半額に下げられ、今では当初の4分の1になった。

 

非公開、高い利益を保障

 新薬の薬価算定過程は、ブラックボックスだ。薬価の原案を策定する厚労省の薬価算定組織の審議は、非公開で議事録すらなく、中医協に審議概要が報告されるのみだ。各種加算の算定根拠など、厚労省担当部局や製薬企業の裁量的な判断が介在する余地が極めて大きいと言わざるを得ない。
 新薬の薬価算定方式には、類似薬効比較方式と原価計算方式がある(図2)。類似する薬がない場合、原価計算方式が用いられる。
 原価計算方式は、製品総原価(原材料・労務費、製造経費、研究開発費)に営業利益、流通経費、消費税を加えた額をベースに薬価とする。計算式上、製薬企業が絶対に損をしない仕組みだ。製品総原価の内訳はじめコストの詳細は、企業秘密として明らかにしなくてもよい。企業の「言い値」で検証しようがなく、事後にも検証されない。
 研究開発費は、新薬承認に必要な研究開発費総額を、予想販売数量で割った額となるため、予想市場規模を過少に見積もれば、高い薬価を申請することができる。高い薬価で算定された後、効能を相次いで拡大して売り上げを伸ばし、収益をあげることが常套手段として行われてきた。オプジーボは、対象患者が500人程度のメラノーマで承認を受け、その後、対象疾患が1万5,000人(肺がん)に急拡大した。
 織り込まれる営業利益は14.8%(19年)の水準が保障されている。製造業は3%台、化学工業は6〜7%台などに比べても破格に高い水準だ。さらに、既存薬と比べて、革新性、有効性、安全性において優れているとされたものは、補正加算により2倍以上の薬価引き上げも可能な仕組みになっている。

 

薬価引き下げルールも課題多く

 新薬の薬価を引き下げるルールもあるが、改善すべき点が多い。
 例えば、外国平均価格調整がある。米・英・独・仏の平均価格より極端に乖離しないように薬価を調整するルールだ。大阪協会と保団連の「薬価の国際比較調査結果」(1995年)が直接の契機となりつくられたものだ。オプジーボは、4カ国に先駆けて日本で販売されたため、このルールで薬価が調整(引き下げ)されなかったことも大きい。
 ただ、旧来のルールでは、米国価格は企業が希望する小売価格を参照しており、突出して高い米国価格に日本の薬価が引き上げられてきた。18年度の薬価制度改革では、保団連のかねてからの要望も受けて、米国価格は公的医療保険制度(メディケア等)に変更され改善された。しかし、日本の薬価は薬局マージンの類を一切含んでいないのに対し、英独仏の参照価格は薬局マージンや消費税を含んだままであり、平均価格が高めに算定されている。英独仏の参照価格から各国で定める薬局マージンを差し引いた金額とすべきだ。
 また、当初の予想よりも大幅に売れた医薬品については、価格を引き下げる市場拡大再算定があるが、引き下げ率は通常25%、最大でも50%だ。オプジーボでは想定患者数が30倍以上になるのに半額(50%)引き下げに留まった。治験コストなどを考慮するにしても、引き下げ幅の検討が必要だ。再算定の機会が2年に1回から年4回にまで改善されたが、効能を追加した全ての医薬品を対象とすべきだ。
他方、新薬開発の奨励を名目に、特許期間中は薬価が下がらないよう補填する新薬創出加算がある。このため薬価が約15年下がらず、患者の医療アクセスが阻害されている。開発コストに対し政策減税・予算や各種支援策も手当されている中、開発コストを高薬価の形で患者負担に転嫁することは問題が多く、私たちは撤廃を求めている。

 

「原価内訳」非開示のキムリア

 ここで昨年5月、3349万円で薬価収載されたノバルティスの白血病治療薬キムリアについて、なぜ高いのか、考えてみたい。
 キムリアは原価計算方式を採用しており、製品総原価は2363万円だ。これに14.9%の営業利益、流通経費、さらに45%の補正加算(×0.2)を加えて、3349万円とされた。
 製品総原価の内訳の、50%以上が薬価算定組織に非開示とされたことで、「ペナルティ」として補正加算が0.2掛けにされている(図3)。かりに、80%以上を開示すれば、更に1000万円以上高い4500万円弱の薬価が期待できたところだ。1000万円以上下げても開示を拒むということは、2363万円の総原価も適正ではなく、高い価格が付けられているものと思わざるを得ない。当時の薬価算定組織の委員長も「ブラックボックスが大きく困っている」と苦言を呈している。
 キムリアのベースとなるCAR-T細胞療法は、ノバルティスが開発提携先から購入(金額非公表)したものだ。報道では、他の製薬企業は同様な技術の購入に250億円、600億円など支払っており、ノバルティスも相当高額な特許料を支払っていることが予想される。この金額が総原価に反映されている可能性が高い。

 

マネーゲームの様相帯びる新薬開発

 実際に、CAR-T細胞療法を独自開発した名古屋大学名誉教授の小島勢二氏(医師)は、大学ではパテント料や流通経費などが不要なため、1人100〜200万円前後で治療提供できると述べている。大学などでの実施費用と薬価を単純に比較できないものの、ここまで金額の水準が異なると、キムリアの「原価」とは一体何なのか極めて疑問だ。
 世界的にも新薬開発に際して、大手製薬は、開発リスクを避けるため、有望な新薬のシーズ(技術)をもつベンチャー企業などを巨額な資金で買収したり、シーズに高額な特許料を支払い、購入したシーズを製品化する動きが強まっている。まさに、キムリアは、パテント料に利益を上乗せして薬価を申請する構図ではないのか。こうした情勢を、小島氏は「マネーゲームに巻き込まれており『原価』という考え方自体が問われている」と警鐘を鳴らしている。
 高薬価は世界的にも問題になっている。19年5月の世界保健機関(WHO)の総会では、医薬品価格の透明性改善を目指す決議を採択した。他方、「製薬会社は原価に関する情報を開示すべき」との一文は、日本、米国、ドイツ、スイスの反対で削除された。
 引き続き、公正で透明な薬価制度への改善に向けて運動を進める。ご協力をお願いしたい。

以上

ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次