ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次

職員の奮闘称えたい 自治体病院が役割発揮
全自病協の小熊氏と対談

全国保険医新聞2020年7月15日号より)

全国自治体病院協議会会長
小熊 豊氏
全国保険医団体連合会会長
住江 憲勇

 

  全国の自治体病院は、コロナ患者を受け入れ、公的病院としての役割を発揮した。第1波のコロナ対応、今後の医療確保に向けた課題、国への要望などについて全国自治体病院協議会会長の小熊豊氏と全国保険医団体連合会(保団連)の住江憲勇会長が対談した。

 

未知の感染症に対峙して

 住江 第1波でコロナ患者を受け入れた病院の約7割が公立・公的病院でした。未知の感染症に多くの自治体病院が役割を発揮されました。
 小熊 会員病院の調査では4月30日までに245病院中111病院で1,608人の陽性患者が入院しました。中等症・重症の患者が54.6%、軽症者は45.4%でした。
 医療スタッフは個人防護具も手薄な中、よく頑張った。奮闘を称えたいと思います。幸い医療従事者は欧米に比べ犠牲は少なかった。未知の感染症治療に対峙し困難の連続でしたが医療関係者が連帯して対処すること、自治体病院が役割を発揮することが求められています。

 

コロナ患者を受け入れ

 住江 第1波に対峙した教訓はどのようなものでしょうか。
 小熊 ある程度の病床数や人員体制がないと救急など一般の医療を維持しながら、コロナ対応も同時に行うことは困難です。400床以上の大規模病院で装備も一定備わっているところは症状の重い患者の対応を集中的に効率的に対応することができます。医療スタッフの負担軽減にもつながります。
 住江 コロナ患者の病床確保についてどのようにお考えですか。
 小熊 医療者の負担軽減、感染予防、医療機能の逼迫防止の観点からも、重症度に応じて地域での医療機関等の機能分担を積極的に進めていくことが必要です。
 今では軽症者をホテルなど宿泊施設で対応していますが、流行当初は軽症者も含め感染症指定医療機関などに入院しました。コロナは重症化すると急性呼吸器症状だけでなく免疫の過剰反応で全身に炎症を引き起こし各臓器に損傷を与えます。軽症者も短時間で状態が急変することもあり、中等症や重症においては全身管理が必要となります。そのため患者1人に多くの医療スタッフを割くことが必要です。
また、職員の中に院内感染を起こさないよう感染予防教育と実践などの対応が求められます。

 

医療費抑制見直しを 自治体病院は「最後の砦」

 保団連の住江憲勇会長と全自病協の小熊豊会長は対談で、感染症対策の強化と日常医療の確保に向け、すべての医療機関への財政支援が必要との認識で一致した。小熊氏は医療費削減ありきの地域医療構想の見直しを訴えた。

 

全国自治体病院協議会会長
小熊 豊 氏
おぐま ゆたか
1975年北海道大学卒、砂川市立病院院長 などを務める。全国の自治体病院を中心に 構成する全国自治体病院協議会副会長を経 て2018年から現職。

 住江 保団連は、PCR検査や抗原検査を抜本的に拡大し、感染者を早期に発見することで感染拡大を防ぐことが重要と指摘してきました。
 小熊 市中で感染が拡大する中、医療安全の確保からも各医療機関では無症状の方も陽性と疑い、感染防御などの対応が必要となりましたが、PCR検査が追いつきませんでした。
 検査精度に加え、検査結果も数日先となるため、結果が出るまで隔離となり、その間は対応する医療スタッフも感染防御が必要でした。
 住江 保団連は院内感染を防ぐため医療機関の職員、患者向けにPCR検査が実施できるように体制確立と財政支援を求めています。
 小熊 私たちも検査体制を拡充し、保険の適用範囲も拡大し、検査を抜本的に増やすことを要望しています。
 コロナ患者引受け病院では17病院、受けていない病院でも4病院で職員の感染が確認されました。不顕性感染者を把握し、院内感染の発生を防ぐには、PCR検査、迅速抗原検査の組み合わせが必要で、入院患者、職員など幅広く定期的な検査が必要です。

 

経営逼迫する自治体病院

医療機関への財政支援を訴える住江会長

 住江 医療機関では患者減で経営逼迫が続いています。自治体病院の財政状況はいかがですか。
 小熊 自治体病院はコロナ以前から7割が赤字でした。従来から救急、周産期など不採算は避けられない政策医療を多く担ってきました。コロナ禍で多くの病院で感染対策や体制確保等による経費増、外来・入院の受診減などさまざまな要因で経営状況がさらに悪化しました。コロナ患者を受け入れた病院では、前年同月に比べ、3月で平均4000万円、4月で平均8000万円の減収、コロナ患者を受け入れていない病院では、3月で300万円、4月で2000万円の減収でした(図)。
 国は重症者を受け入れた場合のICUなどでの診療報酬3倍化や空床確保などへの補助を拡充しましたが、これらの措置が各自治体病院の経営改善にどこまで結び付くかは検証が必要です。自治体病院は地域の最後の砦です。絶対につぶしてはなりません。

 住江 診療所を中心に全国1万件の回答が寄せられた本会の緊急調査では、4月診療分では、昨年同月比で3割の医療機関で30%以上減収となり、経営が逼迫しています。地域では公・民の医療機関が連携し医療を担っています。コロナ受け入れ有無に関わらず医療機関への経営支援も国は力を尽くすべきです。
小熊 コロナ患者を直接受け入れていない民間医療機関でも患者減で収入が大幅に減少しており、職員の給与や賞与のカット、非常勤の雇止めなどが生じています。このままでは日常医療の確保に支障を来すことを懸念しています。経営逼迫に陥っている医療機関に対し国は財政支援をさらに踏み込むべきです。

 

初診からオンライン困難

 住江 コロナ禍に便乗し規制改革推進会議が初診からのオンライン診療を恒久化すべきと主張しています。オンラインの活用はあくまで時限的な対応とし、恒久的な解禁はすべきではありません。
 小熊 初診でオンライン診療は無理があります。かかりつけ患者で突発的に受診できなかった場合とか、持病の薬がなくなり処方してほしい場合などにとどめるべきです。医療は医師と患者の信頼関係が構築されて成り立つべきものです。患者さんの現状を把握ができない初診からのオンライン診療は無茶です。

 

職員へのバッシング

 住江 医療従事者へのバッシングも問題となりました。
 小熊 調査では、家族等への感染防止のためホテルなどに宿泊している職員が大規模病院では半数近くいました。バッシングを受けて子どもを保育園に通わせられない事態も発生しました。未知の感染症が到来し、社会が混乱する中、バッシングを防ぐことは簡単ではありません。
 住江 バッシングは許されません。国は医療機関が感染防止を徹底していることをもっと国民へ周知すべきです。

 

医療費抑制が真の狙い

 住江 国は地域医療構想に基づく病床削減を加速させるため、急性期の機能だけに偏った視点から再編統合の対象として440の公立・公的病院をリストアップし、今年9月末までに再編統合の検討を迫っています。地域住民や知事会などの反発やコロナ禍を受け、9月末の期限は延期するようですが、リスト自体は撤回していません。
 小熊 リストの中には地域ではなくてはならない病院がたくさんあります。そもそも基幹病院でない対象病院は高度急性期の医療は提供していません。目指している機能とまったく異なる高度急性・急性期医療を唯一の基準として再編統合を迫るやり方はあまりにも乱暴です。
 都市部や近郊に位置する公立・公的病院が本来持つべき機能を発揮することは必要ですが、あくまで地域の病院や住民も含めた話し合いを通じて医療機能分担と連携などを調整していくことが大切です。国が時期や結論ありきでとやかく言うべきことではありません。
 住江 医療費抑制が真の狙いと思わざるを得ません。
 小熊 同感です。医療費抑制ありきの医療政策は見直しが必要です。入院基本料が長年低く抑えられており、病院経営は採算割れの状況です。国は医療の質の改善を求めてきますが、そのためにも低すぎる診療報酬の引き上げが必要です。

 

地域医療構想は見直しを

 住江 コロナ対応の教訓を踏まえ、感染症対策を医療計画にしっかりと位置付けるべきです。
 小熊 地域医療構想では、平時の医療をいかに効率的に提供するかの観点だけで議論が進められてきました。しかし今は感染症や災害対応など有事の医療への対応が求められています。感染症は設備が整った病院でないと対応できませんが、普段は病床を使わないので経済性や効率性が悪くなるのは当たり前です。コロナ対応を踏まえ、地域医療構想は見直しが必要です。
 住江 平時と有事の医療を両方確保することが重要ですね。
 小熊 平時と有事への対応に加え、救急・災害医療を担う「最後の砦」として自治体病院は役割を果たしていきます。

 

医療・健康・福祉へ力点を

 住江 新型コロナに全世界で1000万人が感染し、社会や経済のあり方が変わりました。大企業や富裕層だけが潤えばよいという新自由主義の経済・社会政策で医療費が削減され格差・貧困も広がり、新興感染症の脅威に脆弱な社会が作られました。
 小熊 儲からないからやめればいいという考えだけでは社会は成立しません。健康や福祉を充実させ、個人の尊厳が認められる社会を目指すべきです。
 住江 自然の猛威にさらされている今、全世界で年間2兆ドルを軍事費を使っている場合ではありません。今こそ公衆衛生や環境政策の充実に舵を切るべきです。
 小熊 そう思います。健康・福祉・生活を重視した政策が必要です。

以上

ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次