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コロナ禍と医療現場

感染防止対策に全力
 受診抑制で経営は大打撃も

全国保険医新聞2020年7月25日号より)
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 新型コロナウイルス感染症の患者数は再度増加し始めており、診療中や待合室での感染拡大防止対策に尽力しながら医療提供を続けてきた医療機関は、緊張の解けない日が続く。また、感染リスクを気にしての受診抑制は、患者の健康状態の悪化が懸念されるとともに、経営への打撃も大きい。長期化するコロナ禍の中で奮闘する各地の医師・歯科医師の声を紹介する。

 

施設利用者の口腔が心配―北海道医会理事 伴 宰子

フェイスシールドを装着し診療するスタッフ

 北海道は、全国よりおよそ2カ月早く新型コロナウイルス感染が始まった。雪祭りに武漢から観光に来た方が宿泊したホテルから感染者が出て(これが本当の始まりかは定かではないが)そこから騒がれだした。当初はこれほど長引くとは予想だにしていなかった。2月28日に北海道独自の緊急事態宣言が出され、そこから自粛生活を強いられることになった。2月中旬からの講演会等の行事はほぼ中止となった。
 さて、そこで我々歯科医院に何が起こったか?歯医者は接触感染、飛沫感染、両方の危険があると指摘され、受診抑制が始まり患者は激減した。また、厚生労働省からは、「緊急性がないと考えられる(歯科)治療については延期することなども考慮」するよう通知が出された。飲食店のように休業要請もなく、「休むな働くな」状態が続き経営は大打撃を受けた。グローブや消毒用アルコールもなかなか手に入らなくなり、代わりに使えそうなグローブを求めてドラッグストア廻りをした。フェイスシールドは手づくりをした。
 訪問診療に行っていた老人施設にも行けなくなった。クラスターが発生した施設もあり、施設側もかなりナーバスになっている。口腔がどのような状態になっているか心配である。コロナには罹らなかったが誤嚥性肺炎になったなどという、笑い話にもならないことになっていなければよいが、と思う。

 

待合室の「3密」防止に配慮―福岡協会理事 前田邦彦

前田医師の医院(眼科)の受付では
診察室内でのマスク着用を呼び掛けている。

 新型コロナウイルスの蔓延が続くなか、医療機関でもいろいろな対策がとられてきた。本院でも、消毒の徹底、ソーシャルディスタンスの確保、待合室での雑誌類の撤去、消毒薬による手指消毒のお願い、マスクとアイガードの装用にて診療を続けている。
 3密を防ぐため、待合室は間隔を空けて待機していただき、ドア開放、換気に気をつけながら空調管理を行っている。
 診察用のスリットランプや検査機器にシールドを取り付け、検査スタッフと患者さんとの間にバリアーを設定するようにして、検査を行っている。また検査や診察に関しても、患者さん同士やスタッフとの距離を保ち、接触をできるだけ避けるように配慮している。
 患者さんの行動を監視して、患者さんが触れた台や椅子などは、その都度アルコール消毒を徹底して行っている。新型コロナ感染症COVID-19が流行する前は、流行性結膜炎の患者さんのみに行ってきた消毒を全患者さんに行っており、アルコールの需要が大きくなっている。一時期、アルコールの供給不足が続いていた頃は、水道水と食塩で次亜塩素酸水を精製し消毒に使用していた。現在でも時々使用しているが、保存期間が短いため、メインには使用していない。
 いつまでコロナ対策を続ければいいのか、全く先が見えないが、3月から6月頃まで減少していた患者さんが、7月より戻ってきており、3密になる危険性の心配は絶えない。
 流行の状況を見ながら対策をとりつつ診療していきたい。


コロナ危機が見せた矛盾― 愛知協会理事長 荻野 高敏

 

初めての患者ゼロ

 5月19日、午後の患者ゼロ。開業30年目にして初めてだ。
日本医師会によればコロナで受診を控えた影響を最も受けたのが小児科で、4月の減収幅は39%とのこと。愛知協会のアンケートでは50%以上減収が回答者の6%だが当院はそこに入る。
 慢性疾患の少ない小児科では「糖尿病の悪化」といった事例はないが、予防接種や乳幼児健診を控えられている。
 日々成長する子どもはその時期、その年齢でしか身に付けられないことがある。3カ月健診を5カ月で受けて見過ごされた例や、必要な予防接種を受けられない子がでるだろう。

 

安倍政治の的外れのひどさ

 2月29日の学校一斉休校要請は独断で決めただけにその損失の方が大きかったことは日本小児科学会も指摘している。国の少子化対策も的外れだ。2019年出生数86万、合計特殊出生率1.36(人口置換水準2.07)を受けて少子化対策大綱を見直したが従来の延長線では改善を望むべくもない。
 若い世代は将来に不安を抱えている。コロナ禍は非正規雇用の苦境を浮き彫りにした。7月10日付でコロナ解雇は3万5,000人となり、半数以上が非正規だ。今や非正規は労働人口の4割で、生活保護水準以下の働く貧困層は1900万人だ。
 今の日本で結婚して子どもを持つことがいかに困難かは、40代男性のうち夫婦2人で子どもを育てている割合が51%(2015年調査)であることが示している。これは生物の群れとして考えれば、群れが壊れかけた状態である。生命の再生産(疲れからの回復)、労働力の再生産(子育て)ができなくなり始めている。

 

今我々が目にしているもの

 「効率化」を要求され診療報酬削減でギリギリまで患者を受け入れないと維持できない医療の崩壊である。
 「無駄を削れ」と減らされた保健所が、日々の業務を何とかこなしていたところに、PCR検査を一手に押し付けられた。公衆衛生の崩壊である。
 医療・社会保障、教育、衣食住などかけがえのない仕事で働く人々が苦労している。一方、日銀は潤沢な資金で株価高騰を支え、金融取引で利ザヤを稼ぐ人たちがいる。小泉構造改革の旗振りをした竹中平蔵氏のパソナがコロナ対策で高い手数料を横取りして私腹を肥やしているという理不尽さである。

 

憲法で保障された権利

 人間らしく生きる、教育を受ける、労働する権利を守る新しい社会の在り方を模索しよう。歴史を究極において規定する要因は、直接の生命の生産と再生産である。物質的生産力が飛躍的に上昇しても、人口問題の矛盾を解決することにはならない。利潤を極限まで追求する新自由主義が格差と貧困を拡大した。
 日本のコロナ危機が浮き彫りにしたものは、人間そのものの生産と資本主義的利潤追求との矛盾が際立っていることだ。物質的生産力の飛躍的な発展による生命の再生産の劣化が、資本主義の生産関係と調和し得なくなっている。

以上

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