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感染再拡大阻止へ検査拡大を
かかりつけ医の役割発揮を―角田徹・東京都医副会長に聞く

全国保険医新聞2020年7月25日号より)

 

保団連
岡本 正史 理事
東京都医師会
角田 徹 副会長

 

 東京都内では新型コロナ感染者が拡大し、医療提供体制が4月をピークに緊迫化した。保健所の相談窓口も逼迫し、検査が十分に受けられない事態が続いた。第1波に対峙し、かかりつけ医が介在した検査・診療体制の確立に奔走してきた東京都医師会副会長の角田徹氏にPCR検査センターの設置や新型コロナを意識した外来診療の目安、インフル流行への対応を聞いた。(聞き手 岡本正史保団連理事・東京協会副会長)

 

医師の判断で検査必要

 岡本 4月に都内で急速に感染者が増加し、保健所へ問い合わせが殺到。PCR検査も思うように実施されませんでした。
 角田 国は当初、発熱が37.5度以上で4日間続いたら、相談窓口に連絡するとの判断基準を示し、必要な場合に帰国者・接触者外来を受診するというスキームで対応しましたが、保健所に問い合わせが殺到し、電話がつながらなくなりました。当初から当会は、まずはかかりつけ医に相談する仕組みを提唱しました。
 しかし、当時は、「医師が必要と判断した」場合に検査を実施するという基準がなく、コロナ感染が濃厚と医師が判断した場合でもPCR検査は断られました。
 岡本 検査数増加が必要となり、PCR検査センターが設立されましたね。
 角田 窓口業務を一手に担う保健所がパンクし、かかりつけ医から帰国者・接触者外来につなぐホットラインを設けましたが、検体採取などの対応も逼迫しました。
 医師が紹介し検査ができる体制を作るため、民間検査機関のキャパシティーを確認し、地区医師会が主体となりPCR検査センターを設置しました(5月末時点で36カ所)。マスコミで取り上げられ、国の後押しも得られました。

 

救急、院内感染対策

 岡本 都内では救急患者の受け入れを巡り混乱が生じました。
 角田 発熱で救急搬送された患者はコロナ感染を疑い、すべて個室対応が必要でした。受け入れ先が確保できない場合、地域であらかじめ決められた医療機関が受け入れる東京ルールもコロナ禍では機能しませんでした。
 こうした教訓から2次救急の病院にはPCR検査装置等を導入してもらうなど対応を求めており、救急で搬送されたコロナ疑いの患者を受け入れるよう地域で体制を構築しました。
 岡本 院内感染を防ぐため、入院患者に対するPCR検査の拡大も必要ですね。
 角田 入院患者には一律でPCR検査を実施し、高齢患者と接触する看護師や介護スタッフなどにも実施することが重要です。
 院内感染が発生した原因は、ほとんどが紛れ込み事例です。例えば骨折で入院した患者がコロナに感染していたことが後でわかり、スタッフを介して他の患者に感染を広げたりしました。

 

臨床像、予防策を模索

 岡本 流行当初はコロナ感染者の臨床像が多彩であることや、我々開業医に届く情報も乏しく、コロナ疑い患者の診断は困難でした。
 角田 当初は、臨床像がつかめない中、確定診断にはPCR検査しかありませんでした。過去の教訓から、熱発患者を発熱外来に集中させるのではなく、通常の医療体制でかかりつけ医が対応することとしました。専門家の助言を受け、ウイルス性肺炎に準拠した診断基準を示しました。
 医療従事者の感染が懸念されましたが、手洗い、サージカルマスクの着用など標準予防策の徹底で感染を防げるとの欧米の文献を参考に、正面から飛沫を浴びなければ感染リスクが高くないことを周知しました。
 熱発患者の受診拒否などクレームも寄せられましたが、多くの開業医は頑張って対応しました。

 

財政的医療崩壊を懸念

 岡本 コロナ感染を恐れ、全国的に受診抑制が発生し、医療機関の経営が逼迫しており、財政的な面で医療崩壊が生じかねない状況です。
 角田 私も高齢者の受診抑制を非常に懸念しています。保団連の実態調査も参考にしています。特に小児科、耳鼻科が厳しい状況ですね。東京都耳鼻咽喉科医会の調査では前年同月比で50%以上減収した医療機関が4分の3に達しました。
 東京都に医療機関への財政支援を強く要望していきますが、患者負担を生じさせない仕組みも同時に必要です。
 岡本 慢性疾患の重症化や重大な疾患の見逃しを懸念します。必要な受診の呼び掛けが必要です。
 角田 そうですね。マスコミに出演する機会を利用し、濃厚接触しない限り大丈夫であることや医療機関では感染防止措置を講じていることを説明しています。
 しかし、高齢者の恐怖感は凄まじく、すぐには理解してもらえません。地道にアナウンスしていくしかありません。

 

インフル対応も課題に

 岡本 地区医師会が取りまとめて東京都と集合契約をすることで一般診療所でも「行政検査」としての唾液によるPCR検査が実施できるようになりました。しかし、先生方の中には検査には協力したいが、スタッフへの感染などを懸念され二の足を踏んでいるとの声も聴かれます。
 角田 検査体制を抜本的に拡充するため、国は感染リスクがかなり逓減される唾液検体によるPCR検査を保険適用しました。
 唾液検体によるPCR検査は、標準予防策や飛沫防止、接触予防に加え、マスクと手袋の着用が要件となります。これらの要件を満たし、行政に届け出れば一般医療機関でも行政検査の枠組みで検査が実施できます。
 岡本 東京都では、1日の新規陽性者が200人を超える日が続き、全国でも再度感染者が増えています。
 角田 東京は、新宿・歌舞伎町など「夜の街」関連が感染者の中心で8割近くは若年層です。
ほとんどが軽症者で重症者は多くありませんが、周辺にも広がっており、若者から高齢者への世代を超えた感染拡大をいかに防ぐか、今が踏ん張りどころです。
 岡本 10月以降の季節性インフルエンザの流行時にはどのように対処しようと考えていますか。
 角田 発熱などで季節性インフルエンザが疑われる患者さんに、通常は迅速検査を実施し、陽性の有無を判定します。
 しかし、検体採取時に飛沫が発生し、医師が感染するリスクが高くなります。このため、迅速検査は実施せず臨床診断のみで確定診断し、抗ウイルス剤の投与などで、経過を見ていくことも選択肢となります。
 また、新型コロナの感染を疑い、唾液検体によるPCR検査も同時に実施することも重要となります。都医として8月頃にこれらの診断手法を示していきます。
 岡本 東京での取り組みに学び、かかりつけ医が役割を発揮する時です。
 コロナ対応を担う医療機関と役割分担しながら、地域で日常医療を継続していきたいと思います。

以上

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