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「黒い雨」訴訟、原告勝訴も県市が控訴
全員に被爆者手帳の交付を

 

全国保険医新聞2020年8月25日号より)

 

国の意向で判決受け入れず

 7月29日、広島地裁は、原爆投下後に放射性物質を含んだ「黒い雨」を浴びて健康被害が生じた住民84人が、「被爆者健康手帳の交付申請却下処分」の取り消しを求めた訴訟で、原告の主張を全面的に認め、全員を被爆者と認定し、手帳の交付を命じる判決を下した。
 保団連はこの判決を、「黒い雨」による被爆者の長年の苦しみに心を寄せたものとして歓迎し、「『黒い雨』訴訟の控訴を断念し、速やかに被爆者健康手帳を交付せよ」との会長声明を発表。厚労省に送付した。しかし、8月12日に被告の広島県と広島市は、被爆者の願いを無視し、国の意向を受けて控訴した。被爆者の高齢化を考えれば直ちに控訴を取り下げ、被爆者認定して被爆者健康手帳を交付すべきである。
 広島と長崎の被爆者訴訟に、被爆者支援の立場で関わってきた会員に、地裁判決の意義と控訴の問題点について寄稿してもらった。

 

国が線引きした「大雨地域」 転換求める地裁判決

コープ五日市診療所所長
広島協会会員 佐々木敏哉

 判決の画期的な点は、@放射性物質の摂取等による内部被曝の知見を認めた、Aそのうえで「黒い雨」被爆者を正面から3号被爆者(身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情にあったもの)として認定した、Bそして原告全員を被爆者として認めた、Cこれまでの地理的に線引きした「大雨地域」外を被爆者援護対象外としてきた援護行政の転換を求めた、ことである。
 私の勤務する診療所が加盟する「広島民医連」は「原爆『黒い雨』訴訟を支援する会」の構成員として会議への参加、医学的アドバイス、裁判傍聴などの支援をおこなった。
 診療所で在宅訪問している原告の一人の女性は、右足が義足で、左膝に人工関節を埋め込み、杖を突かないと歩けない。若いころからのめまいや繰り返す帯状疱疹にさいなまれ、多くの内服が必要である。しかし、その体をおして証言台に立ち、勝訴判決を受けた。
 これまでの苦難が報われたことを感慨深く喜びあいたい。
 「支援する会」の事務局次長は、18年前から各家庭を地道に訪問し、その運動は広がって、広島市と県に、国指定の6倍の地域を降雨地域として認めさせた。彼は、緊急入院を繰り返し、何度も命の危機にさらされながらも、訴訟をたたかい抜いた。本当に頭が下がる思いである。
 今回の判決は原告の方々の、あきらめない血のにじむたたかいの結果である。原告の一人一人のこれまでの生きてきた苦難に思いを寄せ、控訴を断念することを強く希望する。

 

原告の全員が高齢化 一日も早い解決望みたい

保団連理事
長崎協会会長 本田孝也

 広島「黒い雨」訴訟は、被爆地域外で黒い雨を浴びた住民が、自分たちも被爆者と認め、被爆者健康手帳を交付するように求めた裁判である。
 被爆者援護法によれば、被爆者は4種類にわけられる。1号被爆は旧広島市等の指定された被爆地域で被爆した直接被爆者。2号被爆は原爆投下後に爆心地付近に入った入市被爆者。3号被爆は負傷した被爆者の救護や死体の処理にあたった者等。4号被爆は胎内被爆者である。
 住民らが求めているのは3号被爆としての認定である。3号被爆の要件は「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」である。
 原爆の黒い雨を浴び、健康被害が発症したのだから当然要件に該当する。ところが国は長年様々な理由をつけて認定を認めてこなかった。
 2020年7月29日、広島地裁は原告全員勝訴の歴史的な判決を下した。
 同じ趣旨で争われた長崎の被爆体験者訴訟では、原告の被曝線量が100ミリシーベルトに満たないという理由で原告全員敗訴の判決が最高裁で確定している。これに対し、広島地裁の判決は原告らの供述を重視し、内部被曝を認め、さらに、これを要件として、被爆者援護法1条3号に該当すると認めた点で画期的である。
 しかし、国の要請をうけた広島県と広島市は8月12日に控訴した。原告らの心中は察して余りある。全員が高齢化し残された時間は少ない。一日も早い決着を望みたい。

以上

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