乳腺外科医裁判―不当判決に抗議、科学的証拠不十分
(全国保険医新聞2020年8月25日号より)
準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医の控訴審裁判を巡り、東京高裁が被告を有罪とした。保団連は証拠が曖昧で科学的な証拠が不十分なまま有罪としたことに抗議した。
東京高裁は7月13日、「準強制わいせつ罪」を問われていた東京・病院勤務の乳腺外科医に対する控訴審で、東京地裁での無罪判決を破棄し執行猶予なしの懲役2年の実刑判決を下した。保団連は8月9日、この不当判決に対して抗議声明を出した。
この事件は、2016年に自らが執刀した右乳腺腫瘍摘出手術の術後の診察時、患者の左胸をなめたなどとして外科医が逮捕・拘留されたが、一審の東京地裁では客観的証拠不十分として無罪判決となったものである。
高裁判決では、「せん妄」の専門家である医師の「幻覚であった可能性が高い」という証言を退け、専門家ではない検察側の医師の証言とカルテに「せん妄」の記載のないことなどを理由として、患者の証言を「直接の証拠として強い証明力を有する」と評価した。さらに、DNA鑑定の結果について「科学的な厳密さの点で議論の余地があるとしても」信用できると判断した。
科学的な証拠が不十分であっても、有罪の可能性がわずかでもあれば有罪であるという判決は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事訴訟法の原則の否定であり、あまりにも不当で許し難い。
科学的な証拠が曖昧にも関わらずこうした有罪判決が広がれば、医師・歯科医師にとって、常に訴訟のリスクにさらされながらの診療となりかねない。弁護団は即日上告している。
以上