コロナ禍にも医療・社会保障抑制
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コロナ拡大の下、受診控えにより診療所では2〜3割近い減収が続き、小児科・耳鼻咽喉科などでは半減する所も少なくない。コロナ対応として、2次補正予算では異例の10兆円の予備費が確保され、医療機関への経営支援策が注目されたが、骨太の方針では、医療機関の経営状況等に鑑みて「必要な対応を検討し実施する」として、具体策は示していない。
補正予算で措置したコロナ患者用の病床・病棟等を確保した際の補助金、感染拡大防止策に係る支援金や公的融資の拡充などが示されているが、21年3月末までのワンショット対応や返済を要するものである。病棟確保の補助金については8月上旬でも半数以上の都道府県で交付のめどが立っていない。病院では赤字幅がさらに拡大し、夏季賞与の減額・不支給が病院の3割に及ぶなど経済的な医療崩壊が現実味を帯びる。
他方、コロナ感染が拡大する中、医療界の強い危惧・反対にもかかわらず、Go Toトラベル・キャンペーンが7月下旬より開始され、薬価調査を9月に実施する方針が示された。
コロナ治療と通常医療の両立に向けて、予備費を使い実質的な減収分を補填するなど迅速・実効的な医療経営支援が必要である。
コロナ危機への対応では、「検査能力の拡充」「保健所の体制強化」や「医療提供体制の強化」などが掲げられている。
感染症に柔軟に対応できる医療提供体制に向けて、都道府県・国で病床・医療機器の利用、医療関係者の配置等を調整する仕組みをつくるとしている。保健所については、コロナ感染者等の情報収集に向けて体制を強化するとしている。また、感染症病床やICU病床の不足が問題になる中、病床削減に関わって、「感染症への対応の視点」を踏まえて体制整備するとして、地域医療構想を一定修正する含みを持たせた記載となっている。コロナ禍により、医療提供体制を手直しせざるを得なくなった格好だが、そのためには平時から公衆衛生行政や医療供給体制に余裕があることが重要である。
医療費抑制の下、この30年で保健所が852か所から472か所に半減され、先進国で最低水準に近い医師数にまで抑制された。直近20年では、感染症病床は9,000床強から2,000床弱に減され、診療報酬削減によって、一般病床で収益率2%、特に国公立・公的病院では赤字か収支差なしが常態化している。体制の強化を言うならば、公衆衛生行政や病院経営の逼迫を招いてきた施策の反省に立ち、保健所の増員・増設、公立病院の再編・統合の中止など抜本的な見直しが必要だ。
他方、骨太の方針は、ポストコロナ下の「新たな日常」に向けて、社会全体のデジタル化・オンライン化を加速することを強調している。医療情報連携ネットワークの構築などは必要だが、総じて、IT業界はじめ経済界が求めてきた儲け口を増やす要求をこの機に進めようとする色彩が濃い。
医療では、診療から調剤・薬配送に至るオンライン診療の仕組みの構築、マイナンバーカード普及・利用を念頭に、生涯に渡る個人の医療・健康情報を本人や家族が管理する仕組み(PFR)の拡充や、患者の医療情報を全国の医療機関で確認できる仕組みの構築などを今後2年で集中的に進める構えだ。
また、医師の処方を要しない一般用医薬品(スイッチOTC薬)普及などによるセルフメディケーション(自主服薬)推進が打ち出されている。同日閣議決定した規制緩和に係る答申では、患者の利便性を強調し、市販薬への転用手続を緩めスイッチOTC薬の大幅な拡大を図る方針を示している。スイッチOTC薬の保険外しも狙い、さらなる公的医療費の抑制を図る。
さらに、5月に成立した改正国家戦略特区法を受けて、企業が患者・住民の個人情報を丸ごと管理して、複数の規制を一括りに緩和して、オンライン診療・教育、完全キャッシュレス化や自動運転などを実証実験する「スーパーシティ構想」の早期実現を図るとしている。2021年3月末までに区域を指定する予定だ。
コロナ危機が明らかにした医療・社会保障の脆弱さを反省し、政府は医療・社会保障の抑制路線とは決別すべきだ。
以上