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働き方改革、医師の健康確保が後退しかねない

全国保険医新聞2020年9月25日号より)

 

 2024年4月より医師の時間外労働の新たな上限規制が開始される。厚労省検討会は、医師の働き方改革報告書(2019年3月)を踏まえ、具体的運用に向けた検討を進めるが、医師の健康確保は更に後退・形骸化しかねない様相だ。国は責任を持って医療機関に人的・財政的支援すべきである。

 

過労死ライン超えを容認

 2024年4月より、特例として、医師が時間外労働で年960時間以上など過労死ラインを超えて働くことが認められる。特例が適用される医療機関は、医師の健康を確保するのための措置として、28時間以上の連続勤務は制限すること、次の勤務まで9時間以上のインターバル(休息)を与えることや面接指導の実施などが義務付けられる。連勤制限やインターバルが例外的に実施できなかった場合、「代償休息」により対応する。
 特例が適用されるのは、救急・周産期はじめ地域医療を確保する上で必須とされる医療機関や、研修医・専門医や高度な手術等を習得する医師がいる医療機関などである。
 検討会は、具体的な運用上の取り扱いについて議論を進め、年内に取りまとめを行い、21年初頭の法案提出を目指す。

 

兼業・副業状況は自己申告

 地域で医師が不足する中、医師の兼業・副業が常態化している。厚労省による調査(2大学)では、3割を超える医師が兼業先を含めると年960時間の時間外労働を超えている。
 報告書で検討課題とされていた兼業・副業する医師について、他の一般労働者の取り扱いと同様に、自己申告に基づき、医療機関は労働時間の管理を行う。原則、事前に勤務医から、兼業・副業先の労働内容・時間を自己申告してもらい、医療機関では連勤制限やインターバルなどを守れるようにシフトを組む。兼業先での突発的な診療の発生などで、事後に申告された場合は、代償休息を付与する。立場の弱い研修医などがきちんと申告できるかどうか懸念される。
 労働組合代表の構成員からは「地域医療の提供体制確保のために、使用者の指示で兼業・副業している場合、自己申告ではなく、医療機関が兼業・副業する医師の労働時間を事前に把握し適切な労働時間管理を行うべき」などの声も出ている。医師の健康確保措置が適切に実施されるよう、事業者の責任を明確にした労働時間管理が必要である。

 

代償休息は予定 休日消化も可

 報告書では、代償休息は、対象となる勤務後の翌月末までに、勤務中での時間休の取得、勤務間インターバルの時間延長などで手当てするとしている。新たに、面接指導の結果により必要と判断される場合以外は、事前に予定していた休日を消化する形の運用も限定的に認める。「実際は休日に取得させることが多く発生するなど、代償休息の付与が形骸化しかねない」と危惧する声も出ている。
 過労死ラインを超えて働く医師に対し翌月末までに取れば良いとするなど「休息」といえるかは疑問だが、さらに予定した休日の算入まで認めることは問題である。

 

時短計画、実効性に疑問

 地域医療確保に係る特例の2035年度までの廃止などに向けて、特例が適用される医療機関は、医師の労働時間の短縮に向けて計画を定めて取り組むことが義務付けられる。
 しかし、計画策定指針案には、医師の増員は記載項目にはなく、負担軽減策の要とされるタスクシフト/シェアも最低限1項目の記載で良いなど、時短の実効性に疑問がつく内容である。医療機関ごとに策定するため、医師の兼業・副業先の労働時間は含まれておらず、知事会代表の構成員より「時短計画で副業先の時間管理を含めて如何に短縮するかについて、策定指針にきちんと記載してほしい」との声も出ている。
 直近7月の厚労省の勤務実態調査結果でも、勤務医の労働実態は前回2016年調査結果より殆ど改善は見られず、依然、過労死ラインを超えて働く勤務医が4割に及ぶ。勤務医の健康、地域医療の確保が両立できるよう、国の抜本的な人的・財政的支援が求められる。

以上

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