75歳以上の窓口負担2割化、現役世代を直撃
(全国保険医新聞2020年11月15日号)
政府は、75歳以上の医療費の窓口負担の2割導入について、年末に向けて具体的内容を取りまとめる構えだ。高齢者への負担増は、家族・親族への負担増に直結し、家族共倒れも招きかねない。窓口負担引き上げは撤回すべきだ。
虐待増加を危惧
高齢者の負担増は、親族間での虐待増加を招く恐れが強い。
この間、親族などによる高齢者虐待は増加の一途をたどっている。厚労省の調査では、介護者(家族、親族、同居人等)による介護虐待は約1万7,249件(2017年度)と2007年度より4,000件以上増加し、虐待等で死亡した事例も20〜30人で横ばいである。
虐待発生の要因として「介護疲れ・介護ストレス」が25.4%と最も多く、次いで、「虐待者の障害・疾病」が18.2%と続く。
窓口負担引き上げによる生活困難の拡大は家族関係をさらに不安定にし、虐待が増加する事態が危惧される。
ダブルケアラーに追い打ち
総務省の「就業構造基本調査結果2017年」によれば、現役世代で、介護をしながら雇用されている者は約267万人で、5年前の前回調査時の218万人より、50万人近く増えている。
親族の介護を理由とした「介護離職」は、年間約10万人と報告されており、医療・介護の負担増は、介護離職の増加にもつながる。
育児と介護を同時に担う「ダブルケア」も全国で25万人を超えている(内閣府調査2016年4月)。ソニー生命保険などによる「ダブルケアに関する調査2018」によれば、ダブルケアに関する月負担額は、親の医療・介護費用が2万3,000円、子どもの保育・教育関連費用が3万8,000円などで計7万5,500円と報告されており、ダブルケアラー(過去経験者含む)の6割が、経済的に負担感を感じている。
収入が低くなる若年世代ほど実質的な負担はさらに大きくなる。高齢者の窓口負担の引き上げは、親の家計を援助する現役世代を直撃する。とりわけダブルケアラーには追い打ちだ。
家族共倒れ
ワーキングプア、メンタルヘルス、ドメスティックバイオレンスなどが原因で、成人した子どもを高齢の親が養う「8050問題」も社会問題となっている。就職氷河期の余波を受けた30〜50代の健康リスク(入院リスク)は他の世代と比べて1.3倍弱との報告もある。ひきこもりの長期化に伴いメンタルヘルスも悪化する。いつ家族全体が崩壊してもおかしくない。
高齢者の負担増は、高齢者のみならず、現役世代にも大きな影響を与え、家族共倒れも引き起こしかねない。
今でも、年収に対する窓口負担割合では、75歳以上は40〜50代の2〜6倍近い負担を強いられている。窓口負担を2割に引き上げることは、原則3割に比べ公平性を図るどころではなく、不公平を一層拡大する。
負担の不公平をさらに拡大し、家族生活も直撃する高齢者への2割負担の導入は撤回すべきだ。
以上