医学部入試の女性差別、男女共に働きやすい職場を
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東医大などへの提訴について 囲み取材を受ける弁護士の河合氏 |
10月4日の女性医師・歯科医師学習交流会では、「東京医大等差別入試被害弁護団」の河合弘之氏、白日光氏、金裕介氏が記念講演した。
弁護団では現在、東京医科大などに対し、元受験生2人の裁判、10人の和解あっせんの手続きに取り組んでいる。裁判の原告には、18年度入試で、女性かつ多浪生であることを理由に、東医大、昭和大、順天堂大の3校から不合格通知を受け取った元受験生もいる。浪人生活を送っている間に不合格が差別によるものであったことが発覚し、3校から18年度入試の合格通知が届いた。
白氏によれば、多くの元受験生たちは「東医大を相手に訴えたら、医師になったとき不利益を受けるのでは」という不安を持っている。そのため和解あっせんで主張が認められなくても、なかなか訴訟に踏み出すことができない。裁判では、住所や名前を秘匿している。
河合氏は、この件で一番深刻な被害を受けたのは、差別により不合格となり、医師の道を断念した人々だと指摘する。「そうした人々は悔しくてたまらないだろうが、諦めてしまっているのか今のところ相談事例はない。救えないのは本当に残念だ」。
女性受験生への入試差別については、医師の過酷な働き方を理由に、女性医師の間ですら「理解できる」との声も聞かれる。しかし河合氏は、「それでは被害者たちはたたかえない。女性差別を肯定しない雰囲気を作ってほしい」と話した。
さらに河合氏は、ある医学生の「入試差別は医療現場の歪みを受験生に押し付けたもの」という言葉を紹介。「本来は妊娠、出産したら働けなくなってしまう過酷な職場環境を変えなければならないのに、入試に女性差別を持ち込むことで解決しようとしている。妊娠、出産と両立できる医療現場を実現すれば、男性にも働きやすい職場になるはず」と強調した。
保団連の齊藤みち子女性部担当副会長は、「男女共に働きやすい職場の実現には、医師不足の解消が不可欠だ。併せて、家事・育児の負担が女性に偏っている現状も改善していかなければ、差別は繰り返されてしまうだろう」と指摘している。
10月4日の女性医師・歯科医師学習交流会では、東京医大等差別入試被害弁護団の河合弘之氏、白日光氏、金裕介氏の各弁護士が記念講演した。概要を紹介する。
入試差別の抗議行動で 掲げられたプラスター |
講演ではまず金氏が、元受験生らによる東京医科大などに対する訴訟や和解あっせんの内容を紹介した。差別により東医大、昭和大、順天堂大の3校に「不合格」とされた女性受験生は、1年間の浪人生活の後に別大学の医学部に合格。1年早く医学部に入学して医師になれば得られたはずの1年分の収入(逸失利益)、予備校代、精神的損害に対する慰謝料を求めている。
その上で金氏は、裁判の争点を解説。大学側は、私立大学なのだから入試で誰を選別するかについての裁量があると主張しているが、一定の裁量はあるにしても、無制限ではないはずだとした。
さらに河合氏が、医学部の場合、国から多額の補助金を得ているため、国の機関と同様に、憲法の平等原則が求められると強調。女性差別は憲法で厳格に禁止されており、私立大学でも入試で女性を差別する裁量はないはずだとした。同様の主張は、消費者機構による東医大に対する訴訟の判決でも認められている。
医学部入試差別をなくすことを求める 院内集会で発言する白弁護士 |
河合氏によれば、問題の解決方法として適切なのは、差別により東医大を不合格とされ、他大の医学部に通う元受験生らの東医大への編入を認めることだ。
しかし文科省は編入を認めず、東医大に通うには、再入学して1年生からやり直すしかない。そのため、やむなく学費の高い別大学への通学を続けている元受験生もいる。河合氏は、裁判では金銭的な請求をするしかないが、被害者たちが最も望んでいるのはお金ではなく原状回復だと話した。
白氏も、差別により不合格となった受験生を再入学させれば、その年の入試の合格者の数を減らすので、受験生が不利益を被ると述べ、差別が多くの人の人生を変えてしまっていると不合理を訴えた。
金氏は、医学部入試で女性が不利益になるのは暗黙の前提だという話も受験生から聞いたと述べた。そのことから、東京医大などは点数操作というわかりやすい形での差別を行ったが、面接で差別的な対応をして不合格とするなど、目に見えない差別がかなりあるのではないかと指摘した。
以上