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不公平拡大 コロナ禍追い打ち
75歳以上の窓口負担2割化は中止を

全国保険医新聞2020年12月5日号

 

 75歳以上の窓口負担2割化は、具体的方針のとりまとめが年末にも行われようとしている。具体化を阻止するため、急速な世論の広がりが必要だ。政府内では対象の「線引き」をめぐる議論が続くが、受診抑制や高齢親族を支える現役世代の負担増にもつながるため、提案自体を撤回すべきである。

 

200万〜605万人対象

 政府の全世代型社会保障検討会議の中間報告では、現役並みの所得者を除く75歳以上の後期高齢者で「一定所得以上」について、窓口負担割合を1割から2割負担に引き上げるとしている。団塊の世代が75歳以上になり始める2022年度より実施を狙う。

 既に、75歳以上で年収383万円以上の場合、現役並みの所得があるとして3割負担となっている。今回、議論されているのは、中低所得となる年収383万円未満を対象に2割負担を導入しようというものだ(図1)。
国の社会保障審議会には、「一定所得以上」をめぐり、後期高齢者(単身世帯)の所得の上位20%(年収240万円)以上から同44%(同155万円)以上を5区分に分けて一定所得基準の線引きを図る案が示されている。夫婦世帯では上位20%(年収360万円)以上から上位44%(同290万円)が対象となる。対象者数は1815万人の後期高齢者のうち約200万〜605万人を見込む。

 

外来6割で負担額2倍

 厚労省が社保審に示した資料では、75歳以上のほぼ全てが外来受診する中、1割から2割負担になると、外来の窓口負担額(年間・1人あたり)は4万6,000円から7万6,000円に3万1,000円(端数あり)の負担増となる。
 75歳以上では慢性疾患を多く抱えるなど、外来受診者の5割弱が毎月受診している。
 2割負担にした場合、外来受診者の約6割が、高額療養費の限度額に達せず、窓口負担額は文字通り2倍になる。3割の外来受診者も年に平均10.2カ月受診しており、大幅な負担増になる者も多い。ただでさえ負担が重い入院患者も16%で負担が2倍になる。外来に加え、入院ともなればダブルパンチだ。
 厚労省が示す負担増を抑制する「配慮措置」にしても、外来で年4,000円程度の軽減に留まる。依然、外来で年2万7,000円、入院も含め年3万1,000円の負担増になり、焼石に水にもならない。「配慮措置」も2年間の経過措置にすぎず、原則2割化を見据えた弥縫策に近いものだ。

 

生活破綻招く

 生活実態を見ても、高齢者に窓口負担増を受け止める余裕はない。総務省の家計調査(2019年)によれば、高齢夫婦(世帯主が無職で75〜79歳)で主に構成する世帯(平均)は、実年収280万円(月23万3,000円)に対し、年307万円(月25万6,000円)の実支出となり、年27万円の赤字である。国民生活基礎調査(2018年)によれば、75歳以上の世帯(18歳未満の未婚者も含む)で年収200万〜300万円の世帯では、貯蓄額300万円以下が3割前後を占め、貯蓄なしも13%前後に及ぶ。平均的な暮らしでも家計は大幅な赤字であり、大病ともなれば生活自体が破綻しかねない。
 収入の大半を占める年金が目減りする中、75歳以上の約1割、70〜74歳では3人に1人が働いている。雇用される約215万人の7〜8割は条件が良くない非正規が占める。消費税や各種保険料が上がる中、貯蓄を切り崩し、働きながら必要な消費をさらに切り詰め、どうにか生計を成り立たせているのが実態だ。
 また、「貯蓄があるから負担増すべき」という議論があるが、75歳以上の世帯で貯蓄額が2000万円を超えるのは14%前後とごく一部に過ぎない。これらの高齢者は既に3割負担となっている可能性も高い。そもそも、高齢者から貯蓄を巻き上げるようなやり方は、現役時代の勤労に対するペナルティ付与にほかならず、本末転倒である。

 

1割でも高い窓口負担

 高齢になるほど収入は低下する一方、さまざまな疾病を多く抱えざるを得ず、医療費は当然多くかかる。高齢者に特有の複数・長期・重度など疾病上の特性があるからこそ、高齢者の自己負担は軽減されてきた。

 2008年の後期高齢者医療制度の開始後、当時の麻生太郎首相(現財務相)は、原則1割負担について「高齢者が心配なく医療を受けられる仕組み」と国会で説明し、「ぜひ維持したい」と表明している。
財務省などは、高齢者の窓口負担が「軽い」かのように描くが、日本医師会も指摘するように、75歳以上の高齢者は、原則1割負担の今でも、年収に対して窓口負担額が占める割合は現役世代(30〜50歳代)の2〜6倍近くとなっている(図2)。2割負担への引き上げは、原則3割の現役世代に比べ公平性を図るどころか、逆に不公平を拡大することとなる。受診回数が増える高齢者にさらに重荷を強いることは、必要な受診を妨げることになる。
また、2割負担により年3万円を超える負担増を高齢者に課す一方、かりに上位44%を2割負担にした場合でも、現役世代(被保険者と事業主)の保険料増の抑制効果は年1,300円程度(2022年度)に過ぎない。社保審では「微々たる(財源)効果のために高齢者の生活を苦しめるべきなのか」と疑問視する声も出ている。

 

現役世代も直撃

 高齢親族の生計を支える世代や親の介護を担う世代、育児と介護を同時に担うダブルケア世帯なども増える中、高齢者の医療費負担増は、現役世代も直撃し、その影響は高齢者本人よりもはるかに多く及ぶ。来年8月から月10万〜13万円程度の年金収入のある介護施設入所者に月2万2,000円もの負担増が予定されるなど、高齢者やその家族の生活困難は一層深まる。
 親族間での高齢者虐待は増加の一途を辿り、年1万7,000件と2007年度より4,000件以上増加し、虐待等で死亡した事例も年20〜30人に及ぶ。
 虐待発生の要因には介護疲れや介護ストレスが最多を占めるなど、雇用悪化や医療・介護サービス削減など生活困難の深刻化も伺える。窓口負担増は、家族の生活困難を増し、さらなる虐待の増加が危惧される。

 

コロナ禍で健康悪化

 早期の疾病の発見・治療が最も重要である以上、窓口負担に「(収入・資産)能力に応じた負担」を持ち込むことは問題である。
 応能負担は、保険料・税にこそ求めるべきである。大企業の内部留保は459兆円と12年連続で最高額を更新している(法人企業統計、2019年度)。社会的責任を率先して果たすべき大企業が税・保険料を応分に負担することが必要である。
 コロナ禍が続き、高齢者は受診抑制を強いられ、疾病・健康状態の悪化も見られる中、窓口負担増は高齢者に更なる追い打ちをかけることとなる。75歳以上への窓口負担2割導入は中止すべきである。少なくともコロナ禍の今、2割負担導入をめぐる審議は凍結・見送るべきである。

以上

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