ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次

全世代型社会保障で最終報告
75歳以上2割負担へ引き上げ、病院受診の上乗せ負担拡大

コロナ禍で決めることか 負担増の撤回求める

全国保険医新聞2020年12月25日号

 

 政府の全世代型社会保障検討会議は12月14日、75歳以上の窓口負担2割への引き上げなどの社会保障改革方針の最終報告をまとめた。来年の通常国会に必要な法案を提出する。同報告では冒頭から菅首相が重視する「自助」を強調。社会保障の給付範囲を縮小し、患者負担増を決めた。コロナ禍で生活困難が広がり、受診控えによる健康悪化も生じる中で決めることではないはずだ。全国保険医団体連合会(保団連)は負担増の撤回を求めて取り組む。

 

命と健康脅かす

 75歳以上の窓口負担増は、年収200万円以上、370万人が対象になる。
 高齢者は収入が低い一方、慢性疾患を抱え受診頻度が高い。75歳以上では約半数が毎月受診する。そのため現在の1割負担でも、年収に対する窓口負担額の割合は30〜50歳代の現役世代と比べて2〜6倍高い。
 この間、公的年金の削減、消費税増税などによって多くの高齢者は貯蓄を切り崩しながら暮らしている。総務省の家計調査によれば、高齢夫婦などの世帯(世帯主が無職で75〜79歳)では家計が年間約27万円の赤字となっている。
 窓口負担2割への引き上げは、経済的な負担から必要な受診をためらわせ、命と健康を脅かしかねない。
 また同報告は、75歳以上の高齢者の負担増によって、現役世代の保険料負担の上昇を抑えることを「今、最も重要な課題」と強調した。窓口負担(自助)と保険料(共助)を天秤にかけているが、国が現役世代の負担軽減を強調するなら、後期高齢者医療制度の国庫負担割合(公助)こそ引き上げるのが本筋だ。
 この他、最終報告では、病院受診について、紹介状がない場合の上乗せ負担の拡大や、保険給付の範囲を一部削り、それと同額以上の追加負担を設定することなど、高齢者に留まらない全世代への負担増を盛り込んでいる点も問題だ。

 

世代間対立ではなく

 全世代型社会保障検討会議の方針は、高齢者に偏った給付を是正し世代間の不公平を正すかのような装いが基調だ。しかし、日本は他の先進国にくらべ高齢化率が高いにも関わらず社会保障給付水準はドイツやフランスに及ばないのが実態だ。
 社会保障を「次の世代に引き継いでいく」のであれば、世代間対立を煽って負担を肩代わりさせあうのではなく、過去最高の内部留保を積み上げる大企業などに応分の負担を求め、全世代に必要なサービス給付を守ることを真剣に議論すべきだ。能力に応じて財源を負担し、必要に応じてサービスが給付されるのが社会保障の原則だ。


命に関わる疾病の医療確保を 人も予算も充実の医療へ転換こそ

コロナ禍とがん患者―全国がん患者団体連合会理事長 天野慎介氏に聞く

 新型コロナウイルス感染者の治療にあたる看護師不足の影響で、大阪で若年がんの専門病棟が一時閉鎖されるなど、医療提供にも深刻な影響が出始めている。全国がん患者団体連合会(全がん連)は11月27日、命に関わる疾病の患者が必要な手術や検査などを受けられる体制を確保するよう首相、厚労相、経済再生相に緊急要望した。同会理事長の天野慎介氏に患者の実態、望まれる医療体制について聞いた。

 

経済困窮の救済を

 感染拡大、医療体制ひっ迫の中、患者の不安は大きいです。
 がん患者を支援する一般社団法人「CSRプロジェクト」の調査によると、自分や家族の感染、治療継続や重症化などについて7割以上の患者が不安を感じています。
 全がん連によせられる相談では、緊急事態宣言が出された4月当初は感染への不安や、治療の延期・中止の問題が目立ちましたが、5月以降は治療費が払えなくなるかもしれないといった経済問題が増えました。先ほどの調査でも緊急事態宣言後に月収が減ったという答えが約2割あり、自営業、派遣やパートの人が多いです。
 今後、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、経済的な影響を受ける人への救済策の拡充などの対策を国は進めるべきです。

 

せめて医療機関、医療従事者支援

 医療体制の問題では、実際に医療ひっ迫に陥ってしまうと政策的にできることは限られているかもしれません。簡単には言えませんが、少なくとも、医療のひっ迫によって治療を受ける患者が選別されるような極限の事態を回避するために、必要な対策を取るよう切望します。
 医療機関の経営難、医療従事者の疲弊の問題も深く憂慮しています。医師や看護師は人手不足の激務の中、感染リスクにさらされながら医療を維持してくれています。せめて医療機関経営を支え、待遇面だけでも手当できるよう財政支援してほしいです。

 

通常時から余力を

 コロナ禍で明らかになったのは、緊急時に対応するには通常時の余力が不可欠ということです。
 医療費抑制のための病床削減を考え直すべきです。また外来を含む看護配置基準を見直し、緊急時に対応できる人員確保も必要だと思います。急性期の最も人手の厚い7対1病床でも通常時から激務なのが実態です。現在は仮にベッドや医療機器などが確保できても、人がいないとどうしようもないという状況です。
 コロナ禍を教訓に、保健所を含む地域の医療体制を人的にも予算的にも強化する方向に転換することを望みます。

以上

ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次