3月から順次 オンライン資格確認で薬剤情報等の閲覧可能に
マイナカード前提は不合理
(全国保険医新聞2021年2月15日号)
3月から始まるマイナンバーカードの保険証利用に際して、医療機関では患者が処方されている薬剤情報の閲覧が10月から可能となる。患者の同意のあり方、病名の提供の可否など議論が進む。情報漏洩などの懸念が多いマイナンバーカードではなく、保険証での閲覧を基本に、制度設計するべきだ。
マイナンバーカードの保険証利用のシステム導入は医療機関の義務ではない。保険証を利用したオンライン資格確認も同様だ。
マイナンバーカードで受診した場合、患者が同意すれば、医師等は他の医療機関が患者に処方した薬剤情報などが電子カルテなどから閲覧できるようになる。
3月から特定健診等データ、10月から薬剤情報(医療機関名除く)が閲覧可能となる。2022年夏をめどに、過去の受診歴に加えて、手術・放射線治療・画像診断・病理診断や医学管理等の有無など診療に有用と考えられる医療情報も追加する予定だ。ただし、薬剤情報(紙請求除く)はレセプトに基づくため、最長1カ月半近いタイムラグが生じる。
患者同意のあり方に課題
患者の同意については、受診の度に特定健診情報、薬剤情報、医療情報に分けて同意の取得を行うとしている。医療機関に備え付けられたカードリーダーで、ディスプレイ画面に示される「同意の有無」を選択する。
より適切で迅速な診断・治療に向けて、患者に関わる情報の把握は望ましいが、こうしたディスプレイ画面の同意手続で自らの機微な個人情報の開示・非開示が持つ意味などについて、患者の理解が進むのか疑問だ。
傷病名提供は慎重に
薬剤情報の閲覧に関わって、医師等はレセプトの傷病名も閲覧できる方向で検討が進められている。
地域医療情報連携ネットワークにおいては傷病名を含め医療情報を相互に閲覧可能とする運用が見られるが、制度設計を担う検討会では、「医療機関間の信頼関係があるから可能」として、「信頼関係も築かれていない状況で、単純な傷病名の共有は大きな誤解とか混乱を起こす」と慎重を期すよう求める意見が相次いでいる。実際、がんは3割近くで告知されておらず、精神疾患の外来での告知状況も不明である。また、レセプトは請求上のものであるため、レセプト上の傷病名と患者に説明・告知している病名が異なる場合もある。
そのため、傷病名の提供については、既に患者が告知されていることを前提として、レセプト上で患者への告知状況を確認できる仕組みを実装する方向で検討される。
がんや遺伝性疾患、難病などでは疾患に応じて、病名の告知とともに疾病の概要、状態・病期や見通しなどを、患者の状況に合わせて説明するなど繊細な対応をしている。
病名の提供のあり方は、医師と患者の信頼関係の根幹に関わるだけに、慎重な検討が必要である。
保険証受診で制度設計を
閲覧がマイナンバーカードによる受診に限られ、保険証の受診では、医師等は処方・薬剤情報の閲覧ができないことは不合理だ。
過去に知り得た被保険者番号を悪用して患者情報の取得ができないようにするとしているが、照会先となる審査支払機関に対する医療機関からの情報取得の履歴管理の徹底・後日調査など、患者の同意の有無が担保されるような制度設計も模索されるべきである。
カード紛失、番号漏洩などのリスクからも、さまざまな個人情報が紐づくマイナンバーカードを使うよりも、保険証を利用できる方が好ましいことは明らかだ。保険証による閲覧を認めないのは、マイナンバーカード普及ありきと言わざるをえない。医療情報の閲覧はマイナンバーカードでの利用は中止して、保険証での受診による制度設計を検討すべきである。
以上