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あらためて考える 歯科の院内感染対策
(下)対策拡充に国の支援不可欠

全国保険医新聞2021年4月25日号

 

 昨年12月、歯科医療機関でB型肝炎に感染していることを伝えた患者の約2割が差別的な扱いを受けたと感じた経験があるとの報道がされた。東京歯科協会理事の浜崎啓吾氏(写真)は、全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団のシンポジウムで歯科の感染対策について講演するなど、B型肝炎患者と歯科医療機関の信頼醸成に努めてきた。新型コロナやB型肝炎を含む感染症予防や、患者にストレスなく受診してもらうには何が必要か、寄稿してもらった。(2回連載)

 

「ユニット・時間分けて」は間違い

浜崎 啓吾
はまざき・けいご
 浜崎歯科クリニック(東京都練馬区)副院長 、東京歯科保険医協会理事・院内感染防止対策委員長
[略歴] 2003年神奈川歯科大学卒業、国立国際医療研究センター病院歯科口腔外科勤務を経て、現在浜崎歯科クリニック副院長 。2017年より全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団主催の「歯科の感染対策を考えるシンポジウム」に参加し基調講演。

 学生時代に感染症の患者は「ユニットを別に」「他の患者とは別の時間帯で」と教育を受けた方も多いであろう。私もその一人である。
 外来環の施設基準にも「感染症患者に対する歯科診療について、ユニットの確保等を含めた診療体制を常時確保していること」などと最近まで堂々と明記されていたくらいである。
 しかしながら、現在ではその考えは正しいとはいえない。これは前述の通り患者の感染症を正確に把握することは困難であるからである。
 逆にこのような対応が、感染症患者には「差別」や「区別」と捉えられ、苦痛を与えると共に、医療機関で自身の感染症の申告の妨げになっている事実がある。
 しかしながら、感染症の有無は医療機関には正確に申告してもらわなければならない。それは患者の感染症を知らずに歯科治療を行うと、例えば肝機能低下などのリスクに気付くことなく観血処置等を行うこととなり、かえって患者自身のリスクを高めることになってしまうからだ。さらに院内での針刺し事故などの際、迅速な対応が取れず医療安全上の障壁ともなりかねない。

 

さらなる標準予防策拡充のために

 前述の通り、感染症患者は自身の感染症を申告することに大きな苦痛を感じている。申告することで診療上「差別」や「区別」をされるのではないかという不安があるからにほかならない。標準予防策がさらに拡充することは、患者自身が苦痛なく自らの感染症を申告できる環境整備にもつながるのではないだろうか。
 しかしながら、患者1人当たりにかかる感染対策費は、2007年の中医協の報告では約268円、また広島県歯科医師会による2016年の試算では1,058円と報告されており、現状の診療報酬では圧倒的に不足している。経済的・人的な負担は歯科医療機関に重くのしかかっており、標準予防策拡充の大きな障壁となっている。
 国がこの現状を直視し、歯科院内感染対策費の診療報酬増点など、歯科医療機関の経済的負担の軽減に積極的に取り組むことを強く望み、今後の運動につなげたい。

(次号へ続く)

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