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コロナ禍と医療現場

大阪 かかりつけ医のコロナ対応

大阪協会・北原医院 井上美佐

全国保険医新聞2021年6月5日号より)
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 新型コロナウイルス感染拡大第4波の影響が続く中、地域のかかりつけ医も奮闘する。大阪協会の井上美佐氏に聞いた。

 

平時からの体制構築が奏功

自作した検査用BOX内の
患者の検体採取する井上氏
コロナ禍以前から発熱患者をその他の
患者から分けて対応していた外来

 新型ウイルスが出現したと騒がれ始めたのが、昨年2月。ダイヤモンドプリンセス号での集団感染騒ぎから、もう既に国内に広がり、早晩身近に患者と出くわすであろうことは予想していました。
とはいえ、当院では新型インフルエンザ流行の頃から、発熱患者は別室で待機・診察するスタイルでやってきていたので、従業員達にも大きな動揺はありませんでした。
 できるだけ専門家の発出した情報を集めて「敵」を把握しながら、まず考えたのは「次のインフルエンザのシーズンにどう対応するか」でした。
 寒い冬に屋外で防護服を脱ぎ着するという苦役は避けたいと、室内で使える検査用BOXを自作したのがお盆休みの頃。新型コロナとインフルエンザの両方の検体が同時に採取できるキットが出始めたので、9月頃に大阪府の要請による発熱外来に手上げしました。抗原定性検査のあまりの感度の悪さに辟易して、PCR検査も始めました。従業員、特に事務職員には感染させまいと、発熱患者の受付応対は電話のみとしました。診察、検査、投薬は私と感染対策講習会を受講させた看護師とで行い、支払いは治癒後にしてもらうことにしました。
 昨年10月から今年4月までの発熱患者は189人、新型コロナ患者は20人、うち中等症が2人でした。

 

入院できない患者の治療を模索

 4月25日の緊急事態宣言以降、GWが明けた頃から第4波の新規感染者はピークアウトしてきています。
 もっとも重症者の治療には2週間以上かかるので、死亡数は20〜30人で推移、軽症・中等症病床運用率は73%、重症者対応病床運用率は105%と相変わらずの病床逼迫状態であり、ホテル療養者や自宅療養者が入院しにくい状況が続いています(5月18日現在)。
 ホテル入所待ちの患者が「咳がひどくなって胸が痛い」と連絡があり、パルスオキシメーターを貸し出して電話で様子を観察した例がありました。幸い低酸素を来さず数日して入所できて、その後軽快しました。
 この経験から、病院から溢れ出した患者に対して何らかのつなぎの治療ができないか、大阪協会の事務局に相談して、りんくう総合医療センターの倭正也先生を通じて低酸素時のデキサメタゾンのレジメを公表してもらいました。同時に在宅酸素濃縮機の導入や訪問看護の可否についても、あちこちの関係者に電話して、手配することができました。

 

物資不足、ワクチン接種遅滞も

 ただ5月末現在、酸素濃縮機は品薄になっているようです。また訪問看護師へのワクチン接種が進まない中では、訪問看護も容易ではありません。入院できずに死亡する可能性のある患者を見捨ててはおけず、可能な限り準備はしましたが、短期間で急変しうる新型コロナの在宅診療はハードルが高いです。必要な人に速やかに入院加療ができて、訪問診療の出番が不要になることを祈るばかりです。
 大阪の第4波は少しずつ収まりつつありますが、今後のためにも、国や自治体には急性期病床の充実や災害時医療センターのような施設の設置を望みます。

 

重症患者も転送困難

 民医連に加盟している大阪の4病院の状況をお伝えします。耳原総合病院では重点医療機関として疑似症用2床を含む5床を届出していますが、この間これを上回る受け入れの状況が発生しており、4月14日現在、陽性患者5人、疑似症患者6人が入院しています。うち1人の患者さんは重症化して人工呼吸管理を行なっており、対外式模型人口肺(ECMO)も想定した対応を府フォローアップセンターに相談しましたが転送困難な状況となっています。
 西淀病院ではコロナ受け入れ病床1床に対して3人が入院し、うち1人は人工呼吸管理が必要な重症患者ですが、まだ転院のめどがたっていません。発熱外来は1日12〜20枠ですが、連日その枠を超える患者数に対応しており、PCR陽性率も20%以上に上がってきています。

 

発熱患者が連日押し寄せる

 コープおおさか病院では、連日発熱などの患者さんが押し寄せ、コロナ陽性者もこれまでにない勢いで確認されております。コロナ受入医療機関ではありませんが、近くの救急隊からコロナ陽性患者の受入要請がある状況です。
 東大阪生協病院は、発熱外来で3月の陽性率10%から4月は21%と急増しており、診断した中等症患者の転送先がなかなか見つからず、動線を分けられない小規模病院であるにもかかわらず、保健所からは当院への入院を強く要請されました。同病院では、「救える命を救う」を方針に掲げ、防護具の着用を徹底し、入院待機の中等症などの在宅患者に往診を実施。費用は医療機関がすべて持ち出しとなります。

 

1日20人死亡も

 患者を適切な治療の場で治療できない状態が大阪中で発生しており、すでに「医療崩壊」を起こしています。吉村知事が緊急事態宣言の要請の判断を4月19日まで遅らせたことは、感染者のピークアウトを遅らせることでしかありませんでした。大阪のコロナ患者の死亡率は2%で、1日1,000人の感染者が発生することは、のちに1日20人の命が奪われることを意味していますが、治療可能なベッドがなければ、死亡率は比較にならないほど上昇します。
 私たちは吉村大阪府知事と松井大阪市長に対し、早急に緊急事態宣言を発出し、昼夜を問わない会食の自粛、マスクなしでの会話の禁止と人の密集を避けるために、従来以上の総合的な対策などを要望してきました。
 一般医療が大きく制限され救急患者の受け入れも困難な状況です。国や自治体には危機に対峙する医療現場に対し、財政面も含めあらゆる支援策を講じてもらいたいです。

以上

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