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子どもの健康脅かす貧困―慢性疾患多く、自己肯定感低い
佛教大学教授 武内 一 氏が調査

全国保険医新聞2021年6月15日号

 

 子ども医療費無料制度の創設を求める子ども医療全国ネットが5月26日に開催した国会内集会で、佛教大学社会福祉学部教授の武内一氏(写真)が貧困と子どもの生活状況をテーマに講演。貧困世帯と非貧困世帯の子どもの心身の健康状態を比較した調査結果を報告した。内容の一部を紹介する。

 

佛教大学社会福祉学部
教授・武内 一氏

 2019年の6月から7月にかけて、3歳から中学3年生の子どもがいる世帯を対象にアンケート調査を実施(回答総数2,518世帯)。相対的貧困世帯(※)と非貧困世帯の子どもの生活や健康の状況を比較した。

母子家庭が3割

 貧困世帯に占める母子世帯の割合は約30%と非常に高かった。また、母親の正規雇用の割合が、貧困世帯では約30%と非常に低くなっている。特に母子家庭で安定した収入確保が問題となっていることが推測される。
 慢性疾患に罹患している子どもの割合は、就学前には有意差がなかった。しかし小中学生になると、貧困世帯の方が喘息やアトピー性皮膚炎に罹患している割合が高いことが明らかになった。適切な治療を継続すれば、年齢が上がるとアトピー性皮膚炎から「卒業」できる場合も多いので、貧困世帯では定期受診の困難などがあるかもしれないと考えている。
 就学前の子どもを育てる家族の回答では、子どもの健康状態が良いと回答した割合が貧困世帯では低く、健康への不安が非貧困世帯より強いことが確認された
 10歳以上の子どもの体格に関しては、WHOの基準で「痩せ」に該当するケースが貧困世帯では3分の1以上に上っていた。非貧困世帯では20%弱である。

貧困世帯でう歯の未受診2割

 さらに貧困世帯の10歳以上の子どもでは、う歯の未受診が多く2割近くに上っている。
 また、平日のスマートフォンの利用時間が4時間以上という子どもも2割近くおり、スマホ依存がうかがわれる。

「ひとりぼっち」と感じる割合高く

 「最近1週間のよくある気持ち」として、「とても悲しい」「ひとりぼっち」と答えた10歳以上の子どもの割合が、非貧困世帯に比べてかなり高かった。自己評価でも、「(自分に)人並みに価値がある」と答えた子どもは非貧困世帯では30%以上なのに対して、貧困世帯では10%以下、「(自分が)人と同じくらいできる」と答えた子どもも非貧困世帯では30%近いが、貧困世帯では10%程度となっていた。貧困世帯の子どもの自己肯定感が低い点は大変気がかりだ。
 調査結果から、貧困世帯の子どもたちは「ありたい」「なりたい」自分を描けているのか、自分自身に自信を持てているのかという点に課題があると考えている。そのために政治は何をすべきかが課題だと思う。社会が役割を果たすことを心から期待したい。

※相対的貧困世帯 可処分所得が中央値の半分以下の世帯(OECDなどが用いる相対的貧困の判断基準と同じ)。

 

子ども医療費を無料に

「総選挙の公約に」 国会議員に要請

 子ども医療全国ネットが開催した集会では、中学卒業までを目指して、当面は就学前までの医療費無料制度を早期に創設すること、子ども医療費を現物給付で助成した市町村への国民健康保険国庫補助金削減(ペナルティ)を完全に廃止することの2点の実現と、総選挙の公約に盛り込むことを求める要請書を国会議員に手渡した。
 集会では各地の取り組みの成果が報告された。佐賀市では、署名活動の結果、小学校卒業までだった外来の助成が中学卒業まで拡充された。沖縄県では3年にわたる取り組みで、県内全自治体で中学卒業までの医療費無料化が決まった。石川県でも、県内全自治体で子ども医療費の現物給付化が実現した。

以上

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