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医師・病床削減方針の撤回を
改正医療法、医療提供体制の縮小・弱体化へ

全国保険医新聞2021年6月25日号

 

 病床削減を進める補助金や医師の働き方改革などを盛り込んだ医療法等改正案が、5月21日に成立した。医師法はじめ17本の法律を一括で改定し、今後の医療提供体制に大きな影響を与える内容だ。

 コロナ禍を通じて、医療提供体制の充実・強化が求められているが、法案は医師養成数を削減する政府方針を前提に、医師以外の職種への負担転嫁、受診行動の変容・抑制や病床削減・病院の再編統合を進めるなど医療提供体制を縮小・弱体化を進める内容となっている。医療従事者の疲弊、医療アクセスの悪化、さらには地域社会のインフラ消滅が進むことが危惧される。

消費税使い病床削減に補助金

 予算事業で行ってきた病床削減(休床除く)に給付金を支給する「病床機能再編支援事業」を法制化する。消費税収を活用した医療版「減反政策」である。今年度195億円が計上され、1万1000床(平均単価換算)の削減規模となる。再編統合を求めた436の公立・公的病院リスト実現などに向け政策誘導を図る。
 議員からは「コロナ対応で病床確保を求める一方、病床削減を奨励するのは矛盾している」「コロナ後にもかかわらず、(リスト)押し付けの暴走列車が止まらない」など異論が相次いだ。政府は「人口が減り病院運営ができなくなる。国・自治体による病床への財政補填も続けられない」として再編事業を正当化した。436病院リストについても、コロナ以前を想定したものと認めつつも、「各地の地域医療構想調整会議で議論して決めるもの」として、リストは撤回しない構えに終始した。
 医師不足で稼働できない病棟や都市への人口流出などを不問に付す政府の姿勢は問題である。社会保障の「充実」と称して消費税増税を続ける一方、病床削減に使うことは、国民を愚弄するものである。

労働強化危惧 医師働き方改革

 24年4月より、医師の働き方改革が本格開始される。救急や医師派遣先など地域医療確保に必要な医療機関や、初期研修・専門医取得、高度な手術等を習得する医師などは当面、過労死ライン(時間外労働年960時間)の2倍までの働き方を特例的に認める。
 審議では、「過労死ライン超えの働き方を合法化したことで、国立・労災病院などで過労死ライン超えの労使協定が増えている」現状などが明らかにされている。
 関連病院等に医師を派遣する場合、労働時間管理は最終的には医師の自己申告に委ねられる。「現在でもタイムカード管理や面接指導などは満足にされていない。原則に従って、客観的な労働時間管理を義務付けるべき」などの指摘も出された。
 政府は、「改正内容の周知徹底に努める」「経営者の意識改革が必要」など現場の自助努力を強調する姿勢を示している。

医師不足放置 医学部定員削減

 今回の法案が前提とする2023年度以降の医学部定員数の削減方針についても、異論が相次いだ。
 参考人からは、「日本の医師数はOECD平均と比べ13万人も少ない。感染症専門医、集中治療医、救急医はじめ全ての分野で医師が不足し、勤務医の4割が過労死ラインを超えて働き、全ての都道府県でOECD平均にも達していない」、「医師数がOECD平均よりも13万人も不足する中、医学部定員削減をして大丈夫なのか」など疑問を呈する声が相次いだ。
 病院団体の参考人も「13万人の医師不足を実感しているのが我々病院現場」「臨床現場での医師の過剰は考えられない」など現場の実情を訴えた。
 削減方針の根拠とされた医師需給推計についても、「過労死ラインの労働を許容した推計」「女性入学者数を低く見積もっている」など疑問視する声が議員より相次いだ。
 政府は、需給推計を算出する計算式は国会議員にも開示せず、2029年以降は医師が余るとの推計結果を正当化する姿勢に終始した。
 医師・看護師不足対応となる診療放射線技師等へのタスクシフトをめぐり、参考人(放射線技師)からは、「技師・技士も各医療機関に潤沢配置されているわけではない」と訴えている。
 改正案では、医師養成において、卒前の知識・技能を評価する共用試験の合格者は、臨床実習で医業を行うことができる旨を明確化する。医学実習生による医行為に際して医療安全の担保が課題となる。

現場・自治体任せ―感染症急増時医療

 コロナ禍を踏まえ、新興感染症の急増時における全般的な医療確保を医療計画に追記する。政府は、非常時も迅速に対応できるよう、平時から、遮断可能な施設や転用空間の確保、人材確保・医療資材備蓄、さらには通常医療を担う医療機関との役割分担などを計画に定めるよう求めている。
 「有事に機動的に対応するには、平時より人員に余裕を持たせることが必要」「ゆとりが生まれる診療報酬水準が必要」などの声が議員、参考人より出たが、政府は「平時に有事の人員を抱える余裕がない」として、感染症急増時にも対応できるよう「平時に採算がある対応を考えてもらう」として医療現場での経営努力を強調した。非常時対応も、現場・自治体任せになる恐れがある。
 また、新たに「外来機能報告」を導入する。短期滞在手術・がん治療など重装備を伴う外来医療(医療資源重点外来)の実施状況を明らかにして、地域で紹介患者への外来を基本とする医療機関を設定していく。フリーアクセスが制約され受診抑制につながりかねない問題をはらむ。

以上

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