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コロナ禍と医療現場

接種急ピッチ 現場奮闘

全国保険医新聞2021年7月05日号より)
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 かかりつけ医による新型コロナワクチンの接種が急ピッチで進められている。日常診療と並行した奮闘が続く現場では、供給不足の中、予約が殺到する混乱も見られた。現場の苦悩や奮闘を伝える。

 

行政と連携し大人数接種も―和歌山協会

現場の負担軽減を市の担当者に
要請する協会事務局長(右)

 和歌山県は6月初旬まで接種率が全国1位。報道では人口10万人当たりの診療所数の多さや個別接種の推進が評価された。和歌山市はワクチン供給が少ない段階でも、接種券を早々に配布した。接種率が高かった理由は、混乱状況の中でも多くの医療機関が対応したからである。
 和歌山協会が実施した緊急アンケートでは、「医療機関に予約の電話が殺到して、通常業務に支障が出る」、「急なキャンセルへの対応」、「予約のダブルブッキングが少なからずあった」など混乱しつつも何とか対応する様子がうかがえる。
 休日返上で接種する会員医師もいる。多くの予約に対応すべく「(市の)ワクチン接種調整課はよくやってくれている。日曜日に開けて180人接種したいと言った時や、水曜日午後休診を返上して120人接種したいと言った時に、すぐにOKしてくれた」と、休日返上の努力や行政と連携する取り組みが報告された。
 集団接種を望む声もあり、市では6月12日から高齢者向けに3会場が設置された。今後本格化する64歳以下の接種では「医療機関任せにせず、集団接種を中心に変更してほしい」、「急な連絡ではなく、あらかじめ計画を医療機関に教えてほしい」との声がある。
 和歌山協会は、6月23日に和歌山市へ要請。現場の負担軽減などを要望した。

 

予約調整、キャンセル対応負担に―山形協会 田中雄二

田中 雄二氏

 私のクリニックのある山形県米沢市では、国の方針に沿って4月末にワクチン集団接種を開始した。個別接種は、ワクチンの供給体制や各診療所での準備期間を踏まえ、5月24日にスタートした。既に5週目に入るが、幸い今のところ、接種やワクチン供給に関して大きなトラブルは起こっていない。
 インフルエンザワクチン同様、自宅に近く病状も熟知しているかかりつけ医が接種を担当することは、特に新しい種類のワクチンであればなおさら、患者にとって安心して受けられる最良の方法であると思う。
 当院では、現在、12時からの1時間をワクチン接種に充て、三密にならないよう午前の診療時間を制限し、一日12人からスタートした。
 2回目が重なった4週目からは24人に増加したが、診療所の大きさから、これ以上の人数は現状では困難と考えている。
 予約日程を調整するのも煩雑な業務で、職員の負担になっている。ワクチンを無駄にしないため、前日に予定者に確認するが、仮に体調不良となれば急遽他の予定者に連絡して調整する。
 既に在宅患者や施設入居者へとワクチン接種は広がったが、職員の負担や週末の訪問診療を考慮し、訪問接種は土日や時間外ではなく、平日午後の診療を休診にして行っている。通常の外来診療患者に迷惑をかけることになり、当院の収入面でも痛手となる。
 今後は64歳以下へ対象拡大され、産業医として職域への対応も必要になる。接種に係る煩雑な手間や通常診療の制限に対し、国のさらなる支援をお願いしたい。

 

実習で接種手技を再確認―福岡歯科協会 杉山正隆

筋肉注射を打つ実技参加者

 福岡歯科協会北九州支部は6月10日、アナフィラキシーショックへの対応と筋肉内注射の実習等の研修会を開いた。別府口腔保健センターの黒川英雄センター長を講師に、9人の歯科医師が参加した。歯科医師による新型コロナワクチン接種での手技を再確認するものでもある。
 研修会では、まず黒川センター長が講義し、歯科医療現場での全身的トラブルとしては、脳貧血発作が全体の8割を占め、次いで血管収縮薬に対する反応や過換気症候群、高血圧・狭心症・糖尿病などの持病の悪化、局所麻酔薬中毒、そしてアナフィラキシーショックが挙げられる、とした。
 その上で、気分不良から意識消失、心肺停止に至る偶発事故や、エホチール、ボスミン、硫酸アトロピンなどの救急薬剤について講演。筋肉内注射について、三角筋では肩峰より3横指下中央付近に、23〜21Gのゲージの注射針で13〜20ミリを刺入することなどを説明した。
 続いて2人1組で実際に三角筋に筋肉内注射を実施した。参加者には歯科麻酔の現場で長く診療している歯科医師や口腔外科医も参加していたが、「筋肉内注射はしばらくしておらず座学と実技研修で思い出せ、たいへん勉強になった」「新型コロナワクチンの『打ち手』の依頼が来れば役に立てそうだ」との感想が聞かれた。担当者は「もともと歯科医師は日常的に麻酔を使用しており、ショックなど偶発事故の発生防止や対応には長けている。しかし、筋肉内注射をすることは稀なので手技を再確認した。座学と実習を組み合わせる方式はとても好評で開催してほしいとの声が多く寄せられている」と話す。
福岡歯科協会では、感染対策に留意しながら参加型の研修を続けており、筋肉内注射等の研修を福岡市などでも開く予定にしている。

 

安全接種が最重要 報酬に課題―埼玉協会 山崎利彦

山崎 利彦氏

 ワクチン接種で重要なのは「安全に」接種することである。当院では造影剤を日常的に使用するので、以前から副反応対策を実施してきた。ワクチン接種事業に参加するに当たり、副反応への対応をマニュアル化したので一部を紹介する。
 先ず接種後は十分な経過観察を行う。経過観察中に「何かがおかしい」と感じたら、直ちに声を掛け対応を始める。一方の腕で血圧等のバイタルサインを確認しつつ、他方の腕から留置針で血管確保を行い、それに並行して輸液のボトルとルートの準備を行う。ボトルの中身は生理食塩水とし、ルートには三方活栓を準備する。
 不幸にして血管確保不能等で血圧が低下していれば、衣類の上からでも即座にエピペン(アドレナリン注射キット)を注射する。ルートが確保されたらボトルにヒドロコルチゾン100mgを溶解する。ここで意識や血圧の低下があれば、直ちにアドレナリン0.5mg(1/2筒、体重により増減)を三方活栓から静脈注射し、さらにヒドロコルチゾンを100mg静脈注射する。
 それでも意識・血圧の改善がなければアドレナリンを全量静脈注射し、ヒドロコルチゾンも追加する。同時に救急隊への要請も同時に行う。血圧や意識の低下がそれほどでもなく、皮疹等があれば強ミノ1筒を静脈注射する。
 これらを常に準備した状態で外来診療を行いつつ、ワクチンを接種するわけだが、報酬はわずか2,070円である。受付にはひっきりなしに問い合わせの電話と直接来院する高齢者の苦情に対応してこの金額である。
 他の外来患者さんを放り出し、何人ものスタッフを動員する覚悟や、他院での内服薬の詳細なチェックが必要となる。

以上

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