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骨太の方針2021 コロナ教訓踏まえず医療抑制

医師・病床削減、オンライン初診恒久化

全国保険医新聞2021年7月5日号

 

 新型コロナウイルス感染拡大により、医療・社会保障の脆さが浮き彫りになったにもかかわらず、2021年の「骨太の方針」では、引き続き社会保障費関係の自然増の伸びを抑え込みつつ、医療・介護負担増を継続するとした。また、病床削減など医療提供体制を縮小させていくとともに、初診からのオンライン診療の恒久化、医師の診察を間引くリフィル処方箋の導入などを求めた。政府は医療・社会保障抑制路線とは決別すべきだ。

 

社会保障費の抑制継続

 菅政権は6月18日、2021年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。今回も、医療・社会保障費の自然増抑制を掲げた18年骨太方針と「同様の歳出改革努力を継続する」として、国が負担する社会保障関係費について22〜24年度の3年間について、引き続き「実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針」を継続するとした。
 制度を変えなくても高齢化や医療技術の高度化、物価・賃金上昇などで当然増えていくのが自然増である。自然増が高齢化分に留められれば、医療・介護を改悪するしかなくなる。引き続き、預貯金に応じた負担増や高額薬剤(抗がん剤等)の保険給付制限など負担増計画(20年12月策定)を推進するとしている。
 先進国では高齢化に伴って社会保障の給付規模は拡大する。日本は最も高齢化が進むにもかかわらず、日本よりも高齢化率が大幅に低い英独仏の給付規模よりも低いのが実態である(厚生労働白書20年版)。
 長年の医療費抑制政策で疲弊した現場に、コロナ危機が直撃し、医療・社会保障の脆さが浮き彫りになったにもかかわらず、これまで同様に制度改悪を進める政府の姿勢は到底認められるものではない。

 

コロナ医療支援縮小へ

 コロナ対応に係る医療機関支援は縮小を図る記載ぶりとなっている。
 コロナ患者を受け入れる医療機関に対し、減収への対応を含めた経営支援や病床確保・設備整備等への支援について、診療報酬や補助金・交付金による今後の対応のあり方を検討し実施するとしている。これまでの減収分への補償は無視した上、具体的な支援策も不明瞭である。
 また、「感染症を踏まえた診療報酬上の特例措置の効果を検証する」としており、原則9月末までとなる初再診料上乗せ措置や10月以降は縮小予定の小児の同措置の延長などは明記していない。
 全ての医療機関が地域を一体となって支えている。全ての医療機関に対する財政支援を継続・強化すべきである。

 

医師増員なく効率化求める

 感染症に対し強靭で安心できる経済社会を構築するとしつつも、大幅に削減されてきた保健所増設等の体制強化は示されていない。コロナ患者を多く受け入れてきた公立・公的病院について、再編統合を求める436(当初発表424)病院リストの修正すら示されていない。2023年度以降の医師養成数の削減方針の見直しも示さず、医療従事者の抜本的増員にも背を向けている。
 それどころか、病床・病院を削減する地域医療構想を推進するとともに、さらなる診療報酬の「包括払い」の検討、他職種に業務負担を転嫁するタスクシフトや早期養成を進める方向での医師等の養成課程見直し、地域枠に依存する形で議論が進む医師偏在対策の推進などを通じて、提供基盤を縮小再編し「効率的」な医療提供体制を整備していく方針を示している。医療提供の縮小・効率化でマンパワーを捻り出して、今後の新興感染症の急増時も対応せよと言わんばかりである。
 さらに、「一人当たり医療費の地域差半減」を掲げ、地域医療構想について病床削減目標の進捗状況を公表させた上、目標達成に向け都道府県の責務を明確化するとした。
 人員・人材不足や病床・設備未整備などを露呈させたコロナ禍の教訓に学ばないばかりか、医療アクセス悪化や病院統廃合による地域社会の荒廃を進めるとともに、医療現場をさらに疲弊させていくものだ。
 「包括払い」の検討は、経済財政諮問会議で民間議員が提言した「1入院当たりの包括払いを原則とする診療報酬への転換等」で病床数・在院日数を「適正化」(削減)すべきとの指摘を受けたものだ。1入院日につき包括報酬を支払うDPC制度が1入院単位での支払いともなれば、強引な早期退院や入院報酬に見合わない手間のかかる患者の敬遠など医療保障に歪みが生じかねない。

 

OTC薬保険外しも

 「かかりつけ医機能の強化・普及」と言いつつも、OTC薬に類似した既収載薬の給付制限・給付外しを求めている。また、オンライン診療について、新患や新たな症状・疾患など「初診」からの実施も可能(恒久化)にするとしている。さらに「症状が安定している患者」は、「医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策」を導入するよう求めている。事実上、医師の診察を薬剤師(薬局)に委ねる「リフィル処方箋」の解禁である。疾病の早期発見・治療、対面診療や医師の診察を軽視するものであり、かかりつけ医機能の充実・強化に逆行するものと言わざるを得ない。
 コロナ禍で受診控えが続いてきた今こそ、しっかりとした対面での診察の機会が必要だ。

 

オンライン初診可に

 オンライン診療の取り扱いは、同日閣議決定した「規制改革実施計画」で具体的に触れている。初診でのオンライン診療は「原則、かかりつけ医」としつつも、「かかりつけ医」以外の医師も、事前にカルテ、診療情報提供書、地域医療ネットワークや健診結果等により患者の状態が把握できれば初診から実施可能、それらがなくとも事前に患者とオンラインでやり取りして疾患情報等を把握していれば実施可能とするよう求めている。
 初診からのオンライン診療は、誤診・重症化の見落としリスクの増加や患者のなりすましなど医療の質・安全性の確保から認められるものではない。しかも、実施計画が示す検討方針は、事前に患者とオンラインでやり取りしていれば初診からオンライン診療ができるということであり、何でもありの状態に近く、例外と原則が入れ替わっているものと言わざるを得ない。健康な勤労世帯など「かかりつけ医」がいない患者等の受診機会を確保するとしているが、まずは企業に通院時間を保障するよう指導したり、患者に「かかりつけ医」を持つよう啓発など進めるべきである。

 

生活保護の責任放棄

 骨太の方針では、「都道府県のガバナンスを強化する」として、生活保護の医療扶助受給者の国保・後期高齢者医療制度への加入に関わる検討を新たに盛り込んだ。
 国の財源負担割合は、生活保護が4分の3に対し、国保では4割、後期高齢では3分の1となる。
 全国市長会・全国町村会は「憲法25条に定める、社会保障制度の最後の砦となる生活保護制度において果たすべき国の責任を放棄し、国の財政負担を地方自治体や国民に付け替えるものであり、容認できない」(連名提出意見、2020年12月2日)と強く反対している。
 また、医療提供体制の整理再編などに責任を負う都道府県に医療扶助の財政責任も負わせ、病床削減、医療費抑制を加速させる狙いもある。
 歯科では「歯科衛生士・歯科技工士の人材確保」が新たに盛り込まれた。安定的な雇用に向けて歯科診療報酬の大幅引き上げが必要だ。
 マイナンバーについては、マイナンバーカードの保険証利用は進め、医療情報の閲覧を推進するとした。また、「マイナンバー制度を活用し、リアルタイムで世帯や福祉サービス利用状況、所得等の情報を把握する」としており、福祉サービス利用の選別・絞込みが危惧される。

以上

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