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高齢者負担増を考えるA
日本の社会保障は本当に高齢者優遇なのか

全国保険医新聞2021年9月15日号より)

 

 政府は75歳以上の窓口負担を現在の1割から2割へと引き上げることを決めた。高齢者負担増をどう考えるべきか。佐久大学特任教授の唐鎌直義氏に連載で解説してもらう。(全6回)

 

 日本の社会保障は、実質的に今もスウェーデンの2分の1、フランスの3分の2のレベルである。OECD(経済協力開発機構)は社会支出を9分野に細分化している。
 そこで高齢・遺族・保健の3分野を「高齢関連分野」とし、それ以外の6分野を「貧困関連分野」として2大別し、政府の言うように日本の社会保障は高齢者優遇型なのかどうか検証してみる。貧困関連分野については次回詳しく述べる。
 政府が日本の社会保障を「高齢者優遇型」と理解しているのには理由がある。それは、構成比の表(下)を見るとわかる。高齢分野(老齢年金と介護)に社会支出全体の46.1%を、保健分野(医療)に33.9%を配分しているからである。これに遺族分野(遺族年金)の5.5%を加えると85.6%に達する。
 高齢関連3分野にこんなに高い配分をしている国は他には米国だけで(85.8%)、スウェーデン58.6%、英国66.6%、ドイツ70.1%、フランス72.1%である。だから日本は「高齢者優遇型」だと政府は言うのである。

「優遇」は日本政府の幻想

 しかし、構成比ではなく1人当り社会支出額の表(上)を見ると、全く違う側面が明らかになる。小計の欄に示されているように、日本の高齢関連分野への1人当り社会支出は6カ国中5位(9,438ドル)に止まる。最下位の英国(8,881ドル)よりは上というレベルである。胸を張って「高齢者優遇型」と呼べるほどのレベルではない。
 中身を検討すると、遺族分野(遺族年金)と高齢分野(老齢年金と介護)が6カ国中3位で、まあ遜色ないレベルと言えよう。
 問題は保健分野(医療)で、6カ国中最下位(1人当り3,743ドル)となっている。他の5カ国に比べると、日本の保健分野への社会支出の低位性が一目瞭然である。常々、国民保健サービス方式を採用する英国よりは上だと思っていたが、日本の保健分野への1人当り社会支出は英国よりも年に815ドル(8万5,575円)も低く、スウェーデンとの比較では年に1人当り1,331ドル(13万9,755円)も低い。日本ではかなり強力な医療費抑制政策が敷かれてきたことが分かる。

むしろ拡充こそ

 こうした背景のもとに、コロナ禍による医療崩壊が全国的に生じるに至った。平時の医療体制(病床数、スタッフ数)を極限まで合理化してしまうと、未知の感染症が発生するなど突発的な事象が生じた際に、医療現場は大混乱に陥る。
 医療供給体制をかろうじて支えているのがエッセンシャル・ワーカーと呼ばれる医師・看護師・保健師・その他の医療スタッフの善意と命がけの医療活動である。繰り返される危機的状況を前に、医療政策に関して些かも修正しようとせず、ただ国民への自粛要請を繰り返すだけの政府に怒りを覚えるのは私だけではないだろう。
 結局、高齢関連分野に厚く社会支出を割り当てたつもりでも、1人当り社会支出自体がスウェーデンの半分しかないので、国際比較すると高齢関連分野も低位に属することになる。
 「高齢者優遇型」の社会保障というのは、井の中の蛙である日本政府が抱く一人よがりの幻想に過ぎない。したがって、高齢者関連の社会保障を削減することは全くの誤りで、むしろ拡充することこそが現下の優先課題なのである。

2大分野別にみた国民1人当り社会支出の国際比較(2015年)

支出額(USドル)
  高齢関連 貧困関連 合計
高齢 遺族 保健 小計
米国 4646 478 1万178 1万5302 2541 1万7843
スウェーデン 7328 260 5074 1万2662 8930 2万1592
フランス 6646 898 4612 1万2155 4713 1万6868
ドイツ 4648 1030 4992 1万670 4543 1万5213
英国 4293 30 4558 8881 4445 1万3326
日本 5086 609 3743 9438 1588 1万1026

構成比(%)
  高齢関連 貧困関連 合計
高齢 遺族 保健 小計
米国 26.0 2.7 57.0 85.8 14.2 100.0
日本 46.1 5.5 33.9 85.6 14.4 100.0
フランス 39.4 5.3 27.3 72.1 27.9 100.0
ドイツ 30.6 6.8 32.8 70.1 29.9 100.0
英国 32.2 0.2 34.2 66.6 33.4 100.0
スウェーデン 33.9 1.2 23.5 58.6 41.4 100.0

※各分野の金額は、各分野の支出率に計を乗じて算出した。各分野の支出率に関するデータは、国立社会保障・人口問題研究所社会保障費用統計参照

以上

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