【2021衆院選】保健所の逼迫解消に向けて―公衆衛生の現場から (全国保険医新聞2021年10月5日号より)
感染第5波では、デルタ株の感染爆発で医療が逼迫し、自宅療養中に亡くなる方が相次いだ。検査や疫学調査、健康観察、入院調整など新型コロナ感染者への対応を一手に担う地域の保健所も感染者急増で機能不全に陥った。体制強化が求められる保健所の現状と課題について、名古屋市職員労働組合副委員長で保健師の塩川智代氏に聞いた。
多岐に渡るコロナ対応―検査や疫学調査はどのように対応されていますか。 濃厚接触者と感染経路の特定が、感染拡大防止の基本です。医療機関等からの報告を受け、陽性者の体調を確認し、発症日を特定します。濃厚接触者を特定するために発症日2日前から陽性判明日までの行動を調査します。プライベートまで細かく聞き取るため、1件あたり1時間程度を要します。そのため、1日に2桁の発生があると調査が追いつきません。 ―第5波で政府は「原則自宅」の方針を打ち出しました。 陽性者は本来入院が原則ですが、第2波以降は無症状、軽症者は宿泊療養か自宅療養となりました。自宅療養者への健康観察として、体温や酸素濃度、症状の有無などを電話で聞き取り、症状の悪化がみられれば医療機関への受診調整、入院の必要があれば名古屋市コロナ対策本部に調整を依頼します。 ―入院できず、医療的ケアが受けられない方が多く発生しました。 保健センターの保健師や医師が、体調を確認し、パルスオキシメーターを患者の自宅まで届け、入院適応かどうか見極めています。「見極め」と言っても、治療を旨としない保健センターでは医療行為は実施していないため、対応に限界があります。 ―業務が膨大過ぎて保健所が機能しなくなりました。 毎日行う陽性者の健康観察に加えて、濃厚接触者には2週間の健康観察、外出自粛の要請、PCR検査調整など業務は多岐に渡ります。本来は、宿泊療養の確保などで陽性者の隔離が必要ですが、自宅療養が増えたため、必然的に家族内感染が増えました。
平時からの連携強化を―検査体制はどのように拡充されてきましたか。 名古屋市のPCR検査は、当初は国の衛生研究所が一手に引き受けていました。1日60件だった検査数を180件までに伸ばす体制強化をしました。現在は検査の大部分は民間業者に委託しています。 ―人員増など体制は強化されてきましたか。 名古屋市は、感染症対策を担う中枢組織として「新型コロナウイルス感染症対策室」を新たに設置し、体制を強化してきました。19年4月1日時点(新型コロナウイルス感染症出現以前)で感染症対策室職員は13人でしたが、20年6月30日時点では、9人増員し22人に、局内応援職員10人、局外応援職員15人の計47人となりました。その後も連絡調整業務の急激な増加、また宿泊療養施設の開設・運営業務などが加わり、応援職員をさらに増員、正規職員の前倒し採用などで100人規模となりました。 ―医療職の配置、地域の医療機関との連携はいかがですか。 保健所の医師確保も長年の課題です。公衆衛生において医師の役割は、予防を目的とした行政施策について医学的見地から判断することです。国は保健所を削減し、医学部教育でも公衆衛生分野を片隅に追いやってきました。公衆衛生の役割を見直し、医師の複数配置を始めとした専門職を充実すべきです。
集約化され人員も削減―コロナ禍で保健所削減の影響が顕著となりました。 保健所は災害医療、感染症、精神保健、難病対策、食品衛生、環境衛生、医事・薬事、母子保健や老人保健等など地域の公衆衛生、保健業務を幅広く網羅しています。1994年に847カ所あった保健所は2020年には469カ所と約半分に削減されました(図)。 ―平時の業務に加え非常時の対応するために必要なことは。 膨大な業務量を限られた職員でこなしています。今年度、現場の保健センターには正規職員の人員増は全くなく、昨年度と変わらない職員体制で業務を行っています。帰宅時間は終電を過ぎることもあり、昨年から続く終わりの見えないコロナ業務に、職員は疲弊しています。取り返しのつかないヒューマンエラーによるミスや職員の体調に影響が出る前に体制強化が必要です。 以上 |
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