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高齢者負担増を考えるC
世代間不公平を生み出す元凶

全国保険医新聞2021年10月5日号より)

 

 政府は75歳以上の窓口負担を現在の1割から2割へと引き上げることを決めた。高齢者負担増をどう考えるべきか。佐久大学特任教授の唐鎌直義氏に連載で解説してもらう。(全6回)

 

 社会保障の負担と給付に関して、日本ではつとに世代間不公平が問題視される傾向にある。それは政府によるイデオロギー操作のせいだけではない。世代間不公平が日本の社会保障給付の現実だからである。特に失業時の所得保障と児童手当が薄弱であること、そのために現役世代のなかで社会保障の恩恵を充分に受けられないという不満が共有されてしまっていること、これが世代間不公平の元凶である。

 

子育て支援乏しく貧困の再生産

 現役世代にとって重要度が最も高いのは児童手当(欧米では家族手当と呼ぶ)である。子どもの養育は「社会の責任」と考える欧州諸国と違って、日本では親子心中の頻発に象徴されるように「親の責任」と考える傾向が非常に強い。18歳未満の子どもに対する親の扶養義務は共通だが、欧州諸国では子どもの養育費を社会(国)がより多く負担することで、人生の最も多感な時期を送る少年少女が「貧困の世代的連鎖」を極力経験しないようにしている。完全無償制の義務教育が達成されているのもそれが理由である。日本では、授業料の無償化だけが実現されているに過ぎない。
 この取り組みの落差が家族分野への1人当り社会支出の多寡に現われる。低いのは米国と日本であり、欧州4カ国では日本の2〜4倍にもなっている。その理由は、児童手当が一人親世帯などの低所得世帯に重点的に支給されるものではなく、全児童に普遍的に支給されるものだからである。資本主義社会では「機会の平等」(学卒時に同じスタートラインに立つこと)が重要である。それを軽視すると経済の成長が鈍化しかねない。「機会の平等」を実現するためには「普遍的給付としての家族手当」が必要になる。
 日本の場合は、子どもの養育は親の責任。特に親の経済力に左右される。その象徴が「議員四代目、家業は政治家」である。これでは歌舞伎役者と同じだが、世襲議員には才能の開花も芸の研鑽も欠けている。「地盤(後援会)・看板(知名度)・鞄(金)の継承」が大事とされている。

 

失業者見放す  自己責任論

 また日本では、失業した人への経済的支援が非常に希薄である。そのことに警鐘を鳴らす研究者が非常に少ない。失業(失業手当)に対する1人当り社会支出はフランスが最も高く849ドル、2位のドイツが500ドルと続くが、日本はわずか85ドルでフランスの10分の1。目を疑うほどの低さである。フランスとドイツは今も失業対策の軸足を、消極的労働政策と低く評価されてきた旧来の失業手当に置いている。
 積極的労働政策(職業訓練、就労支援)に対する1人当り社会支出は、最も高いスウェーデンが1,020ドルであるのに対して、日本は75ドルで最下位。スウェーデンの13分の1、ドイツの7分の1という低さである。これで先進国の一員と言えるのだろうか。
 失業手当と積極的労働政策の合計額は、フランスの1,373ドル、スウェーデンの1,285ドルに対して、日本は160ドル。日本の失業者はこんなにも国から見放されている。日本では事実上「失業は自己責任」なのだ。これでは世代間不公平が高まるのは当然である。現役世代に対する普遍的な児童手当の創設を始めとする教育費負担の大幅軽減、失業の実態に即した失業手当支給期間の大幅延長が図られなければならない

 

働く者の貧困を支えない生活保護

 生活保護に対する1人当り社会支出も6か国中4位(171ドル)と、評価できるレベルに達していない(スウェーデンの4分の1)。その理由は、生活扶助基準の低さのせいというよりも、稼働能力者のいる世帯(たとえば一人親世帯や長期失業者世帯)の貧困に生活保護が適切に対応していないせいである。表は被保護世帯の数を稼働状況別に見たものだが、受給世帯の83.9%が「稼働者が1人もいない世帯」で占められている。自立支援、就労支援が叫ばれて久しいが、稼働者のいる世帯はこの8年間に2.5%(約4万世帯)増えただけだ。コロナ禍で明らかになったように、生活保護は現役世代の貧困に対応できていないのである。

稼働状況別にみた被保護世帯数の推移

(単位:%、世帯)

  2010年 2012年 2014年 2016年 2018年
現に保護を受けた世帯 99.7 99.6 99.5 99.5 99.5
世帯主が稼働の世帯 10.8 11.9 13.1 13.5 13.3
常用 7.6 8.5 9.6 10.1 10.0
常用以外 3.2 3.4 3.6 3.4 3.3
世帯員が稼働の世帯 2.4 2.5 2.5 2.4 2.3
稼働者がいない世帯 86.4 85.1 83.8 83.5 83.9
保護停止中の世帯 0.3 0.4 0.5 0.5 0.5
被保護世帯計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
被保護世帯数 141万49 155万8510 161万2340 163万7045 163万7422

国立社会保障・人口問題研究所『社会保障統計年報データベース』第267表「被保護実世帯数(世帯主の労働力類型別)」より作成。

以上

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