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高齢者負担増を考えるD
増え続ける高齢者の公租公課負担

全国保険医新聞2021年10月15日号より)

 

 政府は75歳以上の窓口負担を現在の1割から2割へと引き上げることを決めた。高齢者負担増をどう考えるべきか。佐久大学特任教授の唐鎌直義氏に連載で解説してもらう。(全6回)

 

仕組まれた世代間対立

 家族手当、失業手当、住宅保障などの貧困関連社会支出を極限まで低く抑えることで、日本政府は社会保障の「現役世代冷遇=高齢世代相対的優遇」の分断構造を定着させてきた。高齢者に偏って配分されていること自体、社会保障の後進性の証である。現役世代は自己責任の遂行に不安を募らせているが、仕組まれた分断構造には気づいていない。そうした状況が、近年の高齢者負担増・高齢者福祉削減政策を仕方がないと半ば黙認する風潮の背景にある。
 古代中国以来、民の分断支配は為政者の常套手段と言われてきた。65歳という年齢で区切られて、現勤労者・元勤労者が相互に対立させられている。その外側では大企業が空前の内部留保を蓄積して高笑いしている。よく考えてみれば、この構図自体が変ではないか。内部留保の一部は最終的には政府枢要やその「お友達」に還流して、「政治と金の問題」が繰り返される。こんな状況を放置していて良いはずがない。そもそもEU諸国では「高齢化の危機」という問題設定自体が社会に受け容れられてはいないのだ。

 

年金下がり、生活費の赤字拡大

 今回は、本連載のメインテーマである「高齢者の負担増」について、その実情を明らかにしたい。
 表1は、高齢単身無職世帯の主立った家計収支項目をピックアップしたものである。2010年と2015年を比べると、アベノミクス下の年金特例水準の解消とマクロ経済スライドの適用によって、社会保障給付(=公的年金)が月額で1万6,000円余減少したことが分かる。年額では19万3,000円余もの大幅減である。戦後始めて、年金は「上がらない」状態から「下がり続ける」状態に一変した。
 他方、消費支出を見ると、この5年間に月額2,000円余しか低下していない。その分家計の赤字が進行したことになる。
 実収入から実支出を差し引いた額を見ると、2010年には月額2万4,000円余、年額29万5,000円弱の赤字だったが、2015年には月額3万8,000円余、年額45万9,000円余に増えた。
 これでは、自宅を担保に当座の生活費を借り入れるリバースモーゲージを利用しようと考える高齢者が続出するのは当然だろう。明るい笑顔の対応の裏側では、支給される月々の生活費からローン金利を掠め取ろうと、金融機関が手ぐすねを引いて待ち構えている。リバースモーゲージは生活の自己責任の究極的完遂形態であることを忘れてはならない。

 

税・保険料負担は実収入の20%超え

 表2は、表1と同様の項目を高齢夫婦無職世帯について見たものである。概ね単身世帯と同様の傾向が見て取れるが、社会保障給付の減少幅、消費支出と家計赤字額の増加幅がやや小さく現われている。「二人飯は食えるが、一人飯は食えない」とは良く言ったものだ。光熱水費等の固定的出費は1人世帯でも2人世帯でもそう変わらないからである。アベノミクスは単身の低所得高齢者に強いインパクトを及ぼしたことが分かる。
 非消費支出(直接税と社会保険料)を見ると、アベノミクス下で急激に増えている。単身世帯で実収入の8.6%から10.3%へ、夫婦世帯で13.6%から14.9%へ増えた。これに2018年秋から10%に引上げられた消費税負担を加えると、高齢世帯の実質的公租公課負担は実収入の20%を超える。高齢世帯の場合、消費支出が実収入を上回るので、実収入に対する消費税の負担率は10%を超えてしまう。

 

統計操作の疑いも

 2019年になると、一転して単身・夫婦ともに高齢無職世帯の実収入が増え、消費支出が減り、家計の赤字幅が小さくなっている。事態が改善したのだろうか。そうではない。
 持家率を見てほしい。2018年には単身世帯で84.4%、夫婦世帯で93.0%に上昇してきている。しかし、これを内閣府の『高齢社会白書』によって確認すると、高齢単身世帯の持ち家率は2019年現在65.6%、高齢夫婦世帯のそれは87.2%となっている。総務省『家計調査年報』の方が単身世帯で18.8ポイント、夫婦世帯で5.8ポイントも持ち家率が高くなっている。
 高齢世帯の場合、借家住まいと持ち家では所得水準が異なる。もちろん後者の方が所得は高い。総務省は持ち家世帯のデータを実際よりも多く集めることで、高齢世帯の実収入等が高くなるように統計を操作している可能性が高い。これではデータの捏造であり、事実の隠蔽であると言わざるを得ない。

表1 高齢単身無職世帯の収支状況の変化

  実収入   実支出   可処分所得 持家率
社会保障給付
(公的年金)
消費支出 非消費支出
(直接税+ 社会保険料)
2005年 12万2709 11万2865 15万4311 14万4518 9793 11万2915 76.9%
100.0 92.0 125.8 117.8 8.0 92.0
2010年 13万3172 12万3567 15万7752 14万6264 1万1488 12万1684 76.5%
100.0 92.8 118.5 109.6 8.6 91.4
2015年 11 万7885 10 万7432 15万6165 14万4022 1万2143 10万5742 80.3%
100.0 91.1 132.5

122.2

10.3 89.7
2019年 12万6500 11万8274 15万533 13万8623 1万1910 11万4590 84.4%
100.0 93.5 119.0 109.6 9.4 90.6

表2 高齢夫婦無職世帯の世帯収入等の変化

  実収入   実支出   可処分所得 持家率
社会保障給付
(公的年金)
消費支出 非消費支出
(直接税+ 社会保険料)
2005年 22万3821 21万3597 26万5835 23 万9416 2 万6419 20 万3961 89.9%
100.0 95.4 111.8 107.0 11.8 91.1
2010年 22万3757 20万8080 26万4949 23 万4555 3 万394 19 万3364 90.7%
100.0 93.0 118.4 104.8 13.6 86.4
2015年 21万3379 19万4874 27万5705 24 万3864 3 万1841 18 万1538 92.7%
100.0 91.8 129.9

114.9

14.9 85.1
2019年 23万7659 21万6910 27万929 23 万9947 3 万982 20 万6678 93..0%
100.0 91.3 114.0 101.0 13.0 87.0

以上

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