高齢者負担増を考えるE
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日本の社会保障を欧米の先進工業諸国並みに引き上げるには、あといくら必要か。この連載の締め括りとして、追加費用の推計を試みる。
最初に、1人当り国民所得が日本に近く、国の経済力が日本とほぼ同等のフランスを目標国として選ぶ。2015年現在のフランスの1人当り国民所得は3万7,402ドルで、日本のそれは3万5,614ドル。フランスを100.0とすると、日本は95.2。わずかに日本が劣るけれども、この程度の違いならば、経済力の点でフランスにできていることは日本にも当然できるはずだ。
推計した結果が表1である。日本の社会保障をフランス並みに引き上げるためには、社会保障全体であと78兆5,000億円余を追加する必要がある。日本の経済力がフランスよりも少し低いことを考慮して、この金額の95.2%の水準に引き下げると、74兆7,000億円余となる。現在の社会支出の総額に、その50.4%を上乗せしなければならない。
フランスに比べてどの分野が遅れているかは、引き上げ率の欄を見れば一目瞭然である。失業、積極的労働政策、住宅の3分野が非常に遅れている分野である。現在の給付額の5倍から8倍の給付額を追加しなければフランス並みにはなれない。次いで、生活保護・その他、家族、障害・労災の3分野がかなり遅れている分野である。現在の給付額を約2倍に引き上げなければならない。残った遺族、高齢、保健の3分野はやや遅れている分野だが、それでも22%から45%の引き上げが必要である。
引き上げ率ではなく、実現可能な追加費用の大きさ(金額)で見ると、全く異なる側面が見えてくる。
大きい順に並べると、高齢(19兆7,000億円)、保健(11兆1,000億円)、家族(10兆7,000億円)、失業(9兆7,000億円)が追加費用のトップ4分野となる。この4分野で51兆3,000億円に達する。
他の5分野は生活保護・その他の3兆2,000億円から積極的労働政策の5兆7,000億円まで、トップ4分野の半分以下の追加費用で済む。その合計額は23兆1,000億円に上る。要するに、必要な追加費用74兆円余の約70%を年金、介護、医療、失業に充てなければ、日本の社会保障はフランス並みにはなれないということである。
フランス以外の4カ国に関しても、それぞれの目標国のレベルに到達するためにはあといくら追加費用が必要となるかを推計したのが表2だ。
スウェーデン並みに到達するためには97兆1,000億円、ドイツ並みに到達するためには47兆6,000億円、イギリス並みに到達するためには25兆3,000億円、追加が必要である。自己責任の大国アメリカ並みを目指したとしても、55兆9,000億円の追加費用が必要だ。
果たしてこれで日本は福祉国家の一員と言えるのか。
この追加費用の巨額さは、日本の社会保障が欧米に比して今なおどれほど遅れているかを表す数字であり、また日本国民がどれほど政府に欺かれ続けてきたかを表す数字でもある。お茶を濁す程度の、わずか数千億円規模の「全世代型社会保障への転換」ではお話しにならない。貧困解決型の真の福祉国家を目指して、日本の経済力をそこに集中しなければならないことを物語っている。
日本の社会保障制度は、それが1つの独特なタイプ(型)として研究されるようなものではない。その水準が今も余りにも低いという後進性にこそ問題がある。見捨てられた古臭いテーマが、克服されずに放置されていることが問題なのだ。日本の識者は目を覚ますべきだ。
社会支出9分野 | 必要な追加費用 | 実現可能な追加費用 | ||
---|---|---|---|---|
(ドル) | (円) | (円) | 引き上げ率 | |
高齢(年金・介護) | 1996億5681万 | 20兆9639億6505万 | 19兆7006億5473万 | 29.2% |
遺族(遺族年金) | 369億8770万 | 3兆8837億850万 | 3兆6972億9049万 | 45.2% |
保健(医療) | 1112億1908万 | 11兆6780億340万 | 11兆1174億5924万 | 22.1% |
障害・労災 | 563億1346万 | 5兆9129億1330万 | 5兆6290億9346万 | 82.8% |
家族(児童手当) | 1078億9147万 | 11兆3286億435万 | 10兆7848億3134万 | 115.6% |
失業(失業手当) | 973億9669万 | 10兆2266億5245万 | 9兆7357億7313万 | 852.3% |
積極的労働政策 | 574億6532万 | 6兆338億5860万 | 5兆7442億3400万 | 569.9% |
住宅 | 477億3845万 | 5兆125億3725万 | 4兆7719億3546万 | 623.0% |
生活保護その他 | 326億3621万 | 3兆4268億205万 | 3兆2623億1555万 | 142.0% |
計 | 7476億8915万 | 78兆5073億6043万 | 74兆7390億713万 | 50.4% |
引上げ目標国 | 必要な追加費用 | 実現可能な追加費用 | ||
---|---|---|---|---|
(ドル) | (円) | (円) | 引き上げ率 | |
スウェーデン並み | 1兆3522億9091万 | 141兆9905億 | 97兆1641億3032万 | 65.6% |
フランス並み | 7476億8914万 | 78兆5074億 | 74兆7390億713万 | 50.4% |
ドイツ並み | 5358億7375万 | 56兆2667億 | 47兆6860億6533万 | 32.2% |
イギリス並み | 2943億6580万 | 30兆9084億 | 25兆3346億9611万 | 17.1% |
米国並み | 8724億7465万 | 91兆6098億 | 55兆9736億1117万 | 37.8% |
以上