高薬価問題を考える
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遺伝子技術を用いた新型コロナワクチンから難病の治療法など日進月歩の先進医療に関する薬価、治療費の問題を名古屋大学名誉教授の小島勢二氏(写真)が解説する。(4回連載)
新型コロナウイルス感染症の流行を克服する切り札として登場したワクチンについての話題は尽きない。ワクチンの効果やリスクに関する情報は氾濫しているが、その経済的側面に関する情報は少ない。
日本政府は、2021年の1月に、ファイザー社と1億4,400万回分のワクチン購入に関する合意書を締結したが、5月にはさらに5,000回分の追加供給が決定されている。これらの購入費用は、国会の承認を得ずに使い道を決めることができる新型コロナ対策予備費が充てられている。
さらに、10月8日には、2022年分として1億2,000万回分の追加供給に関する最終合意書を締結している。21年度にワクチン確保のために海外の3社に支払う金額の総計は、1兆6,685億円に達する。
ファイザー社の2021年7〜9期決算は、売上高が前年同期の2.3倍の240億ドル(2.7兆円)、最終利益は5.5倍の81億ドル(9,200億円)と大幅な増収増益であった。10月末の時点で、世界各国に20億回分のワクチンを供給しており、通年のワクチンの売上高は360億ドル(4.1兆円)に達し、会社全体の売上高も820億ドル(9.3兆円)と予想されている。
第5波の流行は、7月から始まり、9月末には収束したが、90%の高齢者においては、2回目のワクチン接種が8月末までに完了している。そこで、厚労省が発表した方法にしたがって、3カ月間における感染者と死亡者の実数とワクチン接種がなかった場合の感染者と死亡者の推定値とを比較することでワクチンの効果を試算した。なお、変異株の出現で、現在使われているワクチンには、感染予防効果は期待できないという報告もあることは承知している。
65歳以上の高齢者の感染者の実数は4万483人であったが、ワクチン接種がなかった場合のモデルでは、18万5,292人が感染したと推定され、その差は14万4,809人である。同様の試算を、18歳以下を対象に行うと、感染者の実数は14万9,623人、推定モデルによる感染者数は15万3,168人で、その差は3,545人である。
同様に65歳以上の高齢者のワクチンによる死亡者数を推定した。死亡者の実数は1,160人で、一方、推定死亡者数は1万2,430人であることから、その差は1万1,270人であった。なお、18歳以下の死亡者は3人に過ぎず、この年代でのワクチンによる死亡抑制の試算はできなかった。
次に、ワクチンの費用対効果の検討を行った。ファイザーワクチンの一回分の価格は、2,400円であり、接種費用は2,070円である。輸送や維持にかかる費用を考慮せずに、今回は1回の接種にかかる費用を4,470円と設定した。9月中旬までに、65歳以上の高齢者で1回接種済みが53万69人、2回接種済みは3,170万966人なので、総接種回数は6,393万2,001回で、その費用は2,860億円であった。一方、18歳以下の総接種回数は399万8,167回で費用は179億円であった。
これより、1人の感染を抑制するためにかかる費用は、65歳以上の高齢者では197万円、18歳以下では505万円と試算される。なお、65歳以上の高齢者の死亡を1人減らすのにかかる費用は2,538万円であった。
新型コロナウイルス感染症は今後SARSのように消えてなくなるのか、または季節性インフルエンザのように流行を繰り返すかが予想される。後者の場合は定期的なワクチン接種が行われると思うが、現在のような公費負担でなく、自費負担あるいは保険診療に組み込まれる可能性が高い。その場合に備えて、新型コロナワクチンの費用対効果の検討やワクチンの適正な価格についての議論が必要と考えられる。
以上