ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次

高薬価問題を考える
A新型コロナ感染症に対する抗体カクテルの実力

全国保険医新聞2021年12月15日号より)

 

 遺伝子技術を用いた新型コロナワクチンから難病の治療法など日進月歩の先進医療に関する薬価、治療費の問題を名古屋大学名誉教授の小島勢二氏(写真)が解説する。(4回連載)

 

 現在は小康状態にある新型コロナウイルスの感染状況であるが、オミクロン株の出現により、治療薬のニーズは再び増加すると考えられる。
 わが国では、ロナプリーブが治療薬の切り札として、7月に特例承認された。ロナプリーブはスパイクタンパクを認識する2種類のモノクローナル抗体の合剤で、細胞への進入を阻止することで、ウイルスの増殖を抑制する。
 米国のリジェネロン社の開発した製剤であるが、大手製薬企業のロシュ社が同社と提携して製造販売の権利を獲得、わが国では中外製薬が日本国内での開発と販売ライセンスを取得した。
 ロナプリーブは、通常の薬剤とは異なり、全量を日本政府が買い上げ、限定した医療機関からの求めに応じて、政府が中外製薬を通じて配分する。新型コロナが指定感染症のうちは、ロナプリーブの薬剤費は全額公費負担である。日本での適応は、症状が発現後7日以内で、重症化リスク因子を有し、かつ酸素投与を必要としない入院患者とされた。

ロナプリーブの臨床効果

 製薬会社の発表をもとに、テレビや新聞などでは「入院や死亡のリスクを7割減らす効果がある」との報道が繰り返されているが、メデイアで紹介されているのは、海外で実施された外来患者を対象にした治験結果である。
 主要評価項目である入院あるいは死亡した患者の割合は、抗体カクテル群では7/736(1%)とプラセボ群の24/748(3.2%)と比較して、相対リスクは70%の減少が見られた(p=0.0024)。なお、相対リスクは、1−1%/3.2% = 0.69で計算される。この数字が「入院や死亡のリスクを7割減らす効果」である。
 しかし死亡患者のみに限ると、抗体カクテル群では1/736(0.1%)、プラセボ群では1/748(0.1%)と両群間に差は見られなかった。また、人工呼吸管理を必要とする重症例への移行率も、抗体カクテル群では1/736(0.1%)、プラセボ群では2/748(0.3%)と両群間に有意な差は見られなかった。
 わが国では入院患者を適応としているが、入院患者の死亡を7割減らす効果があるわけではない。実際、入院患者を対象にした抗体カクテル群(4,839人)とコントロール群(4,946人)とを比較したところ、1カ月後の死亡率(20%対21%)や人工呼吸管理を必要とした割合(24%対25%)では差が見られていない。
 製薬会社は、薬剤の効果として相対リスクの減少を強調しがちであるが、絶対リスクの減少率は2.2%に過ぎない。すなわち、ロナプリーブが投与されたことで、メリットがあったのは45人のうち1人に過ぎない。

価格は適正か

 菅前首相は、インターネット番組で、ロナプリーブを中外製薬から1回分31万円で50万回分調達したことを明らかにした。この結果、中外製薬の売り上げ収益予想は、従来の予想から1,700億円(23.3%)増の9,700億円に達して、過去最高となる見込みである。中外製薬は、ロナプリーブの売り上げとして7〜9月期に428億円を計上、通期では823億円を見込んでいる。
 ところで、ネット情報によると米国ではリジェネロン社のロナプリーブは1バイアルを9.5ドル(1,100円)で入手可能のようである。その真偽を米国の知人に調べてもらったところ、抗体カクテルを輸注できる病院は限られているが、薬剤にかかる費用はおよそ10ドルとの返事であった。
 ワクチンや治療薬の購入は新型コロナ対策予備費から支出されており、通常の薬価算定はされていない。コロナ禍で行われた薬剤承認や糸目を付けない薬剤購入費が、今後のわが国の保険制度に与える影響が懸念される。

以上

ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次