リフィル処方箋 患者を医療から遠ざける
対面診療の充実と外来支援こそ
(全国保険医新聞2022年4月5日号より)
2022年診療報酬改定では「リフィル処方箋」が導入された。医療費抑制を目的に長期処方を助長するもので、患者の疾病・状態管理に支障を来しかねない。外来医療を充実させる施策が必要だ。
受診なく複数回調剤可能
リフィル処方箋とは、一定期間内に繰り返し使用できる処方箋である。患者はその期間中、医師の再診を受けずに薬局で薬を受け取れる。
今回、医師が1回の処方期間を定めた上、処方箋でリフィル可にレ点を入れ、回数を記入すると、患者は再診を経ずに、薬剤師(薬局)の判断で3回まで調剤を受けられるとした。投与量に限度が定められているもの(睡眠薬、向精神薬、薬価収載1年以内の新薬等)と湿布薬はリフィル不可とされ、生活習慣病など慢性疾患の患者を対象に想定している。
リフィル処方箋を受け付けた薬局では、薬剤師は「患者の服薬状況等」を確認し、調剤が不適切と判断した場合、調剤せず受診勧奨するとともに、処方医に情報提供する。調剤した場合、調剤内容や患者の服薬状況等を必要に応じて処方医に情報提供する。
医療費抑制ありき
政府は通院の負担軽減などを掲げるが、2021年末公表の診療報酬改定率ではリフィル処方箋の導入・活用促進により0.10%の削減、22年度政府予算案では国費100億円程度の削減と皮算用しており、目的はあくまで医療費削減にある。例えば、月1回受診の患者に、1処方で1カ月ずつ3回利用可能なリフィル処方をした場合、2カ月、3カ月目は受診がなくなり、再診料、処方箋料や医学管理料等は算定できなくなる。診療所や病院(一部の大学病院等除き)では、リフィル処方しても処方箋料や医学管理上で増点もない。
コロナ禍で疾病・心身状態の悪化が散見される中、患者を医療から更に遠ざけ、医療機関の経営基盤も弱めるリフィル処方箋導入は本末転倒だ。
薬剤師に診断委ねる
薬剤師は、調剤可否の判断に先立ち「患者の服薬状況等」を確認するが、実質的に、患者の状態確認など医学的判断を伴う形となる。診断学を習得していない薬剤師の能力、職分・役割を超えたものと言わざるを得ない。
慢性疾患の患者は感染症・合併症の兆候や重篤疾患の初期症状など微細な様態の変化に迅速に気づき的確に対処することが不可欠である。新型コロナウイルス感染症が重症化するリスクも大きく細心の注意が必要だ。医師の診断を事実上薬剤師に委ねるリフィル処方は問題である。
かかりつけ薬剤師(薬局)普及や医薬連携が進むとの声もあるが、薬局でリフィル処方箋に基づき調剤した場合、処方医への情報提供は義務付けておらず、患者は同じ薬局で調剤を受ける義務もない。
医師の処方責任も
リフィル処方する場合も、通常の処方と同様、「(1処方、総投与の)投薬量は、(医師が)予見することができる必要期間に従ったものでなければならない」とされ、リフィル処方した期間に係る責任は基本的には処方した医師が負う。薬局側が利便性を求める患者に気兼ねして調剤し有害事象が起きても、リフィル処方箋を交付した医師の責任は免れないだろう。
長期処方(30日超)自体に医学管理上リスクが伴う。日医は17年の記者会見で、診療所の長期処方において、「患者が服薬を忘れたり、中断したりしたため、病状が改善しなかったことがある」が3割強、「病状が悪化したが、患者が次回再診予約まで受診を我慢してしまったことがある」が2割程度あると明らかにした。同様に「患者が副作用と思い込んで薬を中止したため、次回受診まで服薬なしで過ごしてしまった」「降圧剤の長期処方により、血圧のコントロールが不良になった」などの問題事例も報告されている。長期処方を固定・助長するリフィル処方は医学管理上問題が多い。
リフィル処方が持ち出される背景の一つにいわゆる“お薬受診”“3分診療”などがある。しかし、これらは医師不足・偏在や診療報酬抑制なども要因としてある。
個々の患者に十分に寄り添った診療が可能となるよう、医師増員・偏在是正、診療報酬改善や医療スタッフ確保への支援など外来医療を底上げする施策こそが必要だ。
以上