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医療保険再建プラン−『保険証1枚』で安心してかかれる医療制度をめざそう−
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【目次】
N おわりに
私たちは第一線医療担当者として、国民皆保険でよい医療が行え、国民が、いつでもどこでもお金の心配なく、保険証1枚で医療が受けられるような医療制度の実現をめざして、国庫支出の投入による医療保険財政の再建、患者負担の軽減という2つの柱から提言を行ないます。
現在の政府が進めている「構造改革」は、憲法に規定された国民の生存権とその制度的裏付けである社会保障の諸制度を空洞化させようとしています。社会保障の目的は、すべての国民が、人間らしい水準の生活を営めるようにすることにあり、市場原理とそれに基づく競争と淘汰から、国民を守り、その生存を社会的に保障する重要な仕組みです。私たちは社会保障としての医療保険制度の実現をめざして、政府の進める「構造改革」に反対し、患者、国民とともに運動していくことを呼びかけるものです。
医療保険制度は97年の健保本人2割自己負担、02年の老人医療原則1〜2割定率自己負担、03年の健保本人3割自己負担などこれまでの度重なる「改革」によって、窓口負担がいくらになるのか不安で、病気になっても安心して医療機関にかかれなくなっています。また、高すぎる保険料のために保険料を支払えず正規の保険証が交付されない国保加入者が120万世帯へと急増しています。
政府は、健康保険法等の一部を改正する法律附則第2条第2項の規定に基づく基本方針を2003年3月28日に閣議決定し、2006年度までに法改正を行ない、2008年度(平成20年度)には新しい医療制度を実現するとしています。しかしその中身は、医療保険財政のやりくりを患者、国民と医療担当者、そして地方自治体に押しつけようというもので、国民にとっては医療改悪計画というべきものです。
政府・与党をはじめ日本経団連、日本労働組合総連合は、社会保障制度全般のあり方を検討する協議機関を設置し、「国民に開かれた場で検討」することを確認、自民、公明、民主の三党は、「社会保障制度全般の一体的な見直しを行ない、2007年3月を目途に結論を得て」いくことで合意しました。政府は、2007年度に計画している消費税率の引き上げとあわせて、社会保障制度の総合的な「構造改革」を完成させようとしていますが、その方向は、国民の「自己責任」を原則として、社会保障に対する国の責務や企業の社会的責任を後退させようとするものです。
「基本方針」による改革の方向は、国民と医療担当者の願いとは大きくかけ離れたものです。「基本方針」は3つの「改革」からなっています。第1は、老人保健制度を廃止し新たな高齢者医療制度を創設、第2は、公的医療保険を運営する保険者を都道府県単位とする、第3は、公的医療の「範囲と質」を決めている診療報酬体系の見直しです。
1-新しい高齢者医療制度の3つの問題
第1は、これまで健康保険の「家族」は、直接には保険料の負担はありませんでしたが、政府案はすべての高齢者に保険料負担を求めています。高齢者は、窓口での患者負担1割〜2割に加えて、保険料としても高齢者医療費の1割程度を負担することになります。老齢年金を削り、医療費や保険料負担を増やして、高齢者が「自立」できるわけはありません。高齢者の負担増によって、受診抑制が一層ひどくなり、重症のお年寄りが増えれば益々医療費が増えるという悪循環への道です。
第2は、現行の老人保健制度と同様に、高齢者医療制度の対象年齢を75歳以上に狭めることです。公費負担の割合を現行の3割から5割に引上げるとしていますが、高齢者の医療費自体が縮小されるために、実際の公費負担額はほとんど増えません。国庫負担を増やそうとしないごまかしの改革案です。
第3は、健康保険組合などの保険者が負担してきた医療費負担を「老人医療費拠出金」といいますが、この制度は加入している高齢者が少なければ、給付に使う医療費は少なくてすむため、その分、拠出金をたくさん負担するという制度のため、大企業はこの制度を大変嫌っていました。新しい制度は「各制度からの支援」という方式に変え、これまでの3分の1程度まで縮小する計画です。具体的には、新たに現役世代が負担する「社会連帯的な保険料」の導入が検討されています。
結局、高齢者医療を改善するための追加財源はなく、健康保険組合などからの拠出金は減らし、すべての高齢者が負担する保険料と、現役世代が負担する「社会連帯的な保険料」、実際にはほとんど増えない公費負担で運営する仕組みです。これまでの「国や企業の負担」を「高齢者や国民の負担」に転嫁するだけの改革案です。
2-市町村国保の県単位統合は、保険料引上げへの道
第2の「改革」は、国民健康保険、政府管掌健康保険、健康保険組合の保険者を、それぞれ都道府県単位に再編し、県内の医療費水準を反映した保険料率や診療報酬単価を設定するなど、「保険者機能の発揮」として、保険運営をそれぞれの地域の「財政力」に応じて行わせることです。
都道府県単位の保険者が運営することによって、介護保険のように保険者の「力量」の差が直接運営に影響を及ぼし、保険料率や保険給付サービスの格差をもたらすことが危惧されます。
「基本方針」は、「財政基盤の安定」を謳っていますが、追加財源は一切ありません。政府管掌健保は保険者財政・運営を都道府県単位に分解します。国保や健保組合については、もともと財政が不安定な市町村国保や健保組合を集めて統合します(大企業所属の健保組合や公務員等の共済組合は枠外にして、全国一本で存続させます)。ですから、財政は安定するはずもなく、黒字保険者と赤字保険者を均すだけのものです。
国保の広域化、統合に期待する向きもありますが、黒字の市町村国保が赤字国保の穴埋めをするという構図ですから、低い国保料で努力している市町村国保では保険料の引上げに向かわざるを得ません。他方、赤字の市町村国保は、一定の財政穴埋めがあっても国保料が引き下げられる可能性はほとんどありません。また、広域化すれば地方自治体の一般財源からの繰り入れは困難になると予想されます。結局、統一される国保料の水準は、ほとんどの国保で引き上げにならざるを得ないのです。国保料が高すぎて払えない減額対象者が、加入者の3割をも占めているのが今の国保の実態です。これ以上の保険料引上げは、保険料を払えない加入者を益々増やして、国保の空洞化にさらに拍車をかけることになります。
また、国庫などからの財源追加がないどころか、逆に、「財政調整交付金の配分方法見直しや都道府県の役割の強化をはかる」として、国庫負担をさらに削減し、地方自治体へ肩代わりさせようという計画です。地域の実情にそって、予防やリハビリ、早期受診等によって成果をあげている地方自治体や市町村国保の保険者の努力をむだにしてしまうことになりかねません。
厚生労働省は、都道府県単位で医療費抑制を強める方針ですから、県民に対して医療費削減か、保険料引き上げか、という二者択一が迫られることになります。各都道府県で政管健保、国保、健保組合という3つの保険者だけに再編され、その保険者が保険医療機関を選別の上、診療報酬の直接審査・支払いや割引契約の個別契約を結ぶことが予測されます。国の責務を後退させた所で、保険者の立場は医療保険財政の採算あわせのために強化されることになります。
3-公的医療の「範囲と質」を後退させる診療報酬見直し
「基本方針」の「診療報酬体系の見直し」にも国民にとって大きな問題があります。診療報酬とは公的医療の「範囲と質」を規定する制度です。これまで政府は、地域医療に必要なマンパワーや設備をまともに整備してきたとはいえません。それどころか、政府の見直し方向は、公的医療保険の給付範囲の限定・縮小化を進行させながら、混合診療を解禁していくことで、公的医療保険によってすべての医療を現物給付するという、現行の医療保障体系の根幹を崩そうとするものです。まじめに国民医療の「範囲と質」の充実を考えるのであれば、先進国最低の医療費水準から脱出し、安心してかかれるための適切な診療報酬体系を保障することこそ必要です。
4-医療への市場原理導入に大きく踏み出す
また、首相が議長を務める経済財政諮問会議は、株式会社による医療提供や混合診療の全面解禁、「医療特区」設置などを行ない、公的医療の範囲そのものの縮小を公言しています。これは公的医療保障を縮小し、自己負担を増大させる仕組みです。政府の「基本方針」はこれらには沈黙していますが、事実上は、公的医療範囲そのものを縮小するとともに、医療への市場原理の導入に大きく踏み出すものです。政府の「改革」が突き進もうとしているのは、国民皆保険、そして社会保障としての医療保険制度崩壊への道です。
こういった医療保険制度崩壊の道から転換し、すべての国民に必要な医療を提供する国民皆保険制度の再建のために、以下のような考え方に基づくプランを提案します。
1.日本国憲法の生存権保障にふさわしい医療保険制度を
国民の生存権を保障する社会保障としての医療保険制度であることを明確にすることが基本です。医療保障は、国民の健康を守る重要な制度です。国民はいつでも、どこでも、だれでも必要かつ十分な医療を受ける権利を有します。国民の健康権・生存権を保障する医療保険制度、医療提供体制、診療報酬体系を整備することは国の責務です。そして、社会保障としての医療保険制度は、運営と管理に国民が参加することが不可欠です。
2.国の責務と、大企業の社会的責任が重要
医療保険制度の空洞化が進んでいる基本的な原因は、不況とリストラによって所得が減少した国民が急増したこと、医療保険への国庫負担の削減によって保険料が払えない水準に引上げられていることです。したがって医療保険再建の道は、第一に、国庫負担をもとに戻す。第二に、応能負担を原則とした保険料の仕組みに換え、払える保険料とする。保険料減免制度を拡充する。第三に、雇用や最低賃金に対する企業の社会的責任を明確にし、被雇用者の社会保険完全加入を義務づけるなどの社会的規制を強める。こうしたことによって、無保険者をなくし加入者を増やすことです。
こうした施策をすすめるには、国の財政を国民の暮らし優先に転換し、国際的にも低い水準にある社会保障への配分を引き上げるべきです。そのためには、大企業や高額所得者優遇税制の見直し、道路特定財源の一般財源化、公共事業も不要なダムや空港づくりから福祉や教育の施設整備や生活関連の土木事業など、国民生活基盤を重視する財政運営に転換する必要があります。
また、企業の税・社会保険料負担がこの10年間で減ったのは主要国で日本だけです。 日本の大企業はヨーロッパ並みの負担を日本国内でも行なうべきです。医療保険財政の なかでも、薬価、材料や医療機器価格を国際的にみても適正な水準に引き下げるならば数兆円もの財源が確保できます。
3.系統的な医療保障体制とともに、公衆衛生等の抜本的拡充を
日本の健康水準は、平均寿命では世界一を誇る一方、結核患者の新規発生率は他の先進国の3〜5倍という異常さで、公衆衛生に大きな問題をかかえています。これは医療保険の改革だけでは解決できるものではなく、国や地方自治体が治療、リハビリはもとより、積極的に健康増進、休養から社会復帰までを系統的に、かつ生涯にわたって保障することが必要です。その際には、財源を含む制度上の責任を負う国と、医療保健サービスの供給に責任をもつ地方自治体の役割、生産現場等における健康管理に責任を負う企業の役割など、社会全体の一貫した医療・保健体制の整備によって、相乗的な効果をあげることが可能となります。
4.患者負担を軽減し、安心してかかれる医療保険制度を
患者負担の引き上げは経済的に受診を抑制することになります。しかし、受診が必要かどうかを患者さん自身が経済的負担との兼ね合いで判断することは、きわめて危険なことです。公的保険のあり方としても日常から保険料を負担している上に、受診時に3割もの自己負担を課すことはあまりにも異常といわざるを得ません。国保は1963年(家族は68年)以来、3割自己負担が長く続いていますが、この間に、一人あたり医療費は他制度を抜きん出て上昇しています。3割自己負担が早期受診を阻み、重症化してから受診するために、高齢化や慢性疾患の増加とあいまって、医療費がかえって上昇しているのではと考えられます。
国際的にみれば受診時の患者負担について、低い水準に抑制している国の方が一般的です。日本の3割自己負担は異常な高さです。日本の医療保険制度が持つ現物給付、フリーアクセスという優れた制度の実効性を保障するために、患者負担については被用者保険、国保とも、当面3割から2割負担へと軽減し、さらに引き下げをめざすことによって、安心してかかれる医療保険制度にすべきです。
5. 国民に最適な保険医療を提供する診療報酬を
医療保険制度の充実には、国民に最適な保険医療を提供する診療報酬の見直しが必要です。すなわち、丁寧で行き届いた医療、安全な医療、予防から治療・リハビリへの一貫した医療、患者との医療情報の共有、医療連携の保障とその基盤整備など、公的医療の「範囲と質」を定める役割を担っている診療報酬の見直しが欠かせません。
診療報酬体系については、@国民に必要な医療はすべて医療保険で保障される、A医療担当者の質の向上及び医療資源の安定的確保が図れる、B医療担当者の生活の安定、合理的医業経営に資する、C患者、国民と医療機関・医療担当者間の信頼関係の構築、D誰でもが納得できる費用体系、という観点から見直すべきです。
あわせて薬価制度等の見直しも必要です。医薬品の承認と価格設定を透明化し、欧米に比して高い薬価や医療機器・材料は是正を要します。また、これらの診療報酬を審議する中央社会保険医療協議会を患者、国民、医療担当者の声が反映するように改革するべきです。
6.特定療養費制度は縮小から廃止へ、高度先進医療は公費医療の対象に
治療に必要な医療はすべて公的保険で現物給付されるというのが「皆保険」の中身です。その大原則を掘り崩すことを目的とした、保険診療と保険外の自費診療を併用して行う「混合診療」の解禁は容認できません。同時に、特定の医療について例外的に自費併用を認めた特定療養費制度による抜け道も問題です。差額ベッドや高度先進医療からスタートしましたが、現在では180日超入院の入院料や時間外の診療など、患者、国民にとって選択の余地のない分野にまで拡大されています。
特定療養費制度の拡大は、経済力の差によって受けられる医療が差別されることにつながらざるを得ません。特定療養費制度は拡大するのではなく縮小させる方向へ転換し、廃止の方向をめざすべきです。保険診療が認められていない新しい医療や高度先進医療については、安全性、有効性、 普遍性が確認される場合には、ただちに医療保険を適用し、そうした判断が行なえない、試験的段階の医療については、保険給付と公費負担の組合せで医療費を保障すべきです。
7. 医療の「非営利原則」を堅持する
医療という公益性を確保すべき分野に、市場原理を原則とする営利資本を参入させることは、配当を得るという目的のために医療を手段として使うということであり、国民の健康や生命を利潤追求の対象にし、医療の公益性を否定するものです。
営利資本参入による営利化は、人件費削減を中心としたコストダウン競争を招かずにはいられません。それによって医療の質(安全性を含む)の確保、継続性が損なわれる恐れがあり、診療内容の制限、患者の選別など、必要な医療が提供できなくなります。
医療を提供する者には「非営利原則」を堅持させ、医療への営利資本の参入は禁止すべきです。
以上のような考え方に基づいて、私たちは、医療保険財政の再建、患者負担の軽減という2つの柱から、医療保険制度の再建に向けた以下のような提言を行ないます。
1. 老人保健制度の再建
国と保険者の責任で財源を出し合う老人保健拠出金の仕組み自体は、合理的な制度です。問題は拠出金の負担割合の程度が、公費3割に対して保険者が7割で公費が低すぎることです。高齢者に対する公費負担割合を高めることによって、老人保健制度の再建は可能です。したがって、政府案の「独立した高齢者医療制度」創設は必要ありません。
制度財源は当面、公費負担割合を医療費総額の45%に段階的に引き上げ、逆に保険者の拠出金負担を50%へ段階的に引き下げます。患者負担も医療費総額の5%(01年時は8%)程度まで引き下げます。
私たちの試算では、国庫負担を1兆9300億円増やせば実現することができます。そして、対象年齢は70歳以上に、患者自己負担は当面95年前後の水準に戻し、外来での負担は、1割定率月額1000円上限か、1回500円月2回までの定額制の選択制、入院における負担は1日700円とします。また、外来の2割負担は廃止します。
2. 国民健康保険の再建
国保の再建をめざし、当面、国庫負担割合を総医療費の45%に戻します。国保の老健拠出金の負担軽減との相乗効果で、国保料を引き下げ、患者自己負担を2割に引き下げることが可能です。
私たちの試算では、前項の老人保健拠出金減額に加えて、国庫負担を8607億円増やせば実現できます。国保料は6割程度の水準(01年比)まで引き下げることが可能です。国庫負担は段階的に引上げ、総医療費の50%まで引上げます。
地方自治体の負担は国保料の軽減を優先し、少なくとも保険料減免世帯の割合が2割以下になるまで01年の水準を維持します。
国保料は、医療費を按分して負担を課す現行方式を廃止し、所得に応じて累進的に負担する応能負担方式に改めることによって負担の公平を実現します。当面は、国保料の応能割と応益割の比率を7対3とし、応益割の比率を縮小します。
患者自己負担は、入院、外来のいずれにおいても2割とし、その後の医療費の動向を見て、さらに軽減を図ります。
国民皆保険制度の趣旨から、資格証明書発行を義務づけた法律は廃止するとともに、保険料滞納者であっても正規の「保険証」を交付すべきです。
国保の統合や広域化については、地方自治体の強制合併を中止した上で、地方自治の理念を尊重し、地方議会や国保運営協議会等での審議に住民の意見が十分に反映する仕組みをつくった上で検討を行なうようにします。
当面は、老人保健拠出金の負担軽減によって、財政改善ができます。さらに、大企業を中心とした雇用改善と被雇用者の完全加入義務づけによって、加入者を増やし保険料収入を増やします。
被保険者の患者自己負担は、本人、家族とも、入院、外来のいずれにおいても2割とし、その後の医療費の動向を見て、さらに軽減を図ります。
雇用主負担割合は当面、現行のままとします。中小零細企業や個人事業主については、 実態に考慮した負担軽減を措置します。
4. 健康保険料算定方式の改善
一定以上所得者(生活保護基準の緩和・引き上げを行った上で、それ以上)についての保険料負担は、応能負担の原則を徹底し、報酬上限額は撤廃します。
一定以下所得者(生活保護基準の緩和・引き上げを行った上で、それ以下)に対する保険料は免除します。
5. 公費負担医療制度の拡充
難病医療や乳幼児療など公費負担医療制度を拡充し、医療保険制度とあわせて国民に必要な医療提供を保障します。
無保険者や非定住外国人などに対しても公的責任による医療提供を行ないます。
6.特定療養費制度は縮小から廃止へ
患者・国民の経済力によって、受けられる医療が差別されることにつながる特定療養費制度は、拡大するのではなく縮小させる方向へ転換し、廃止していきます。
高度先進医療についても保険適用化を前提に、試験段階では保険給付と公費の組み合わせで医療費を保障します。
7.公正中立な公的支払制度を確立
審査・支払機関を単なる保険者の審査・支払代理業とするのではなく、国民に必要な医療を給付する公的責任を明確にした管理と運営に改善し、公正中立な公的支払制度を確立します。
8.医療保険制度改善への国民参加
医療保険制度に対する国民参加を強め、地方医療審議会、中央社会保険医療協議会、医薬品医療機器総合機構など既存の医療関係組織を国民参加の立場から見直します。
医療の公的責任を果たす立場から、地域の『医療計画』などの協議、決定にも住民の声を反映させる仕組みを確立します。
財政試算の目的は、医療保険再建プランの妥当性の有無を示すことです。医療費のあ り方は、公衆衛生や積極的な予防対策次第で大きく変わりうるもので、そのような社会的影響度の精緻な計算は、私たちには不可能ですし、現実離れした空想の世界になりかねません。私たちの試算は、未来を正確に予測することではなく、政策の転換で現実的にありうる医療費と財源の姿を示すものです。
1. 財政試算の考え方
2001年度の国民医療費をもとに、私たちが提言したプランをあてはめた試算を行い、必要な国庫負担増などを算出。それが国家予算の中で可能かどうか、国民経済にどれほどの負担になるのかを試算します。(01年度データを使用したのは、老人保健制度改定前で対象年齢が70歳以上、健保本人・家族入院が2割自己負担などの理由から)
政府が行なっている「負担と給付の見通し」などの試算は、異常に低い国と企業の負担水準をそのままにして、負担増は原則国民に転嫁するという前提のため、その結論は、給付削減か負担増か、或いはそのどちらも、という選択肢しか示されません。
政府はとくに高齢者の医療費増加を問題視していますが、高齢者人口が増えれば、高齢者医療費が増加傾向を示すことは当然のことです。日本はすでに他の先進国と老年人口比率ではほぼ同水準であるにもかかわらず、国民医療費の水準は下回っています。高齢者医療費が増加したから、医療保険財政が悪化してのではなく、政府や大企業が他の先進国並の負担をしていないことが財政悪化の主たる理由です。
私たちの試算の考え方は、国民負担への転嫁という財政のつじつまあわせではなく、国の公的責任の範囲と大企業の社会的責任のあり方を見直すことを求めるものです。
表1
老年人口比率97年 | 国民医療費の対国民所得比(98年) | |
日本 |
15.7%
|
7.8%
|
アメリカ |
12.7%
|
11.8%
|
イギリス |
15.8%
|
7.7%
|
ドイツ |
15.4%
|
11.7%
|
フランス |
15.7%
|
11.6%
|
2. 財政試算の結論
私たちの提言内容を、2001年度医療保険財政にあてはめた場合、国庫負担を3兆円増やせば実現できます。
患者負担減 | 国庫負担増 | 企業負担増 | |
老人保健制度の再建 |
3,500億円
|
1兆9,300億円
|
|
国民健康保険の再建 |
1,100億円
|
8,600億円
|
|
政府管掌健康保険の再建 |
***億円
|
***億円
|
|
健保組合の再建 |
***億円
|
***億円
|
|
公費負担制度の拡充 |
***億円
|
***億円
|
|
合計 |
(4,600億円)
|
(3兆円)
|
この結果、医療費の構成比は、下記のように変わります。(*仮計算)
2001年度実績
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試算後
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|
国 |
24.7%
|
34.0%
|
地方 |
7.7%
|
7.7%
|
事業主 |
22.3%
|
22.3%
|
家計 |
45.3%
|
36.0%
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3. 国際的な比較
医療保険再建プランの試算は、国民医療費が同じ水準のもとで、誰が負担するのかの変更提案を試算したものでした。
それでは、試算以上に医療費が増えたり、公的医療の拡充によって、医療費が増加する場合はどうでしょうか。そこで、他の先進国が現に実現している水準であれば、先進国第2位の日本の経済力をもってすれば可能であるという立場から、医療費の国際比較を行ないます。
(1)対国民所得(NI)比で日本の医療費水準は、先進国の6割台
厚労省の外郭団体が発行している「保険と年金の動向」は、医療費の国際比較として、主な国の国民所得に対する国民医療費割合を掲載しています。2003年年版によると、98年の日本の国民医療費は対NI比7.8%と先進国最低です。医療費増加計画を発表しているイギリスとほぼ同水準であることが分かります。
国民医療対NI比・98年(再掲)
日本
|
7.8%
|
アメリカ
|
11.8%
|
イギリス
|
7.7%
|
ドイツ
|
11.7%
|
フランス
|
11.6%
|
これらの国の国民医療費対NI比を、日本の国民所得380兆円(98年)にあてはめた場合(380兆円×国民医療対NI比)、日本とドイツ、フランスの国民医療費水準との格差は、およそ15兆円にも及んでいます。
対国民所得比で、医療費水準
を先進国並みにした場合 |
増減
|
|
(日本の実績) |
(29.64兆円)
|
-
|
アメリカ並 |
44.84兆円
|
15.20兆円
|
イギリス並 |
29.26兆円
|
-0.38兆円
|
ドイツ 並 |
44.46兆円
|
14.82兆円
|
フランス並 |
44.08兆円
|
14.46兆円
|
医療費を他の先進国並みの水準とし、15兆円増やす場合、必要な国庫負担は、約3兆7000億円です(国民医療費に占める国庫負担率〈98年対国民医療費24.4%〉から試算。15兆円の医療費増×24.4%=3.66兆円)。
(2)必要額を政府予算内でまかなうことは可能か
2001年度政府予算で防衛費、ODA、公共事業は、合計で約15兆円です。このうち4分の1を振り向ければ、医療費への国庫負担を3兆7000億円増やすことは可能です。5年間の年次計画にすれば、単年度で7400億円にすぎません。
01年度政府予算より
防衛費予算
|
5兆円
|
ODA予算
|
1兆円
|
公共事業予算
|
9.4兆円
|
合計
|
15.4兆円
|
(3)日本の社会保障費の低さは、ドイツ、フランスのわずか4割台
私たちは、医療分野での再建プランを示しましたが、年金や福祉なども含めた社会保障制度全体では、日本と他の先進国の格差はさらに広がり、日本の社会保障費水準は、他の先進国の半分以下、4割程度という水準です。フランスやドイツの社会保障水準を現実的に可能な水準とみなすならば、日本の社会保障費は倍増できる可能性があります。
社会保障給付費比較(対NI比)
日本
|
15.2%
|
アメリカ
|
18.7%
|
イギリス
|
27.2%
|
ドイツ
|
33.3%
|
フランス
|
37.7%
|
スウェーデン
|
53.4%
|
患者負担の軽減と保険財政を柱とした医療保険再建プランを貫く考えは、公的医療保険制度における国と企業の「社会的扶養=社会原理」を強化することによって、医療保障の確保と給付の拡充という、「保険で良い医療を」をめざすことです。
財源問題の基本的考えは、国の財政運営の重点を転換し、歳出入の見直しを実行するとともに、世界第二位のわが国の経済力と大企業・多国籍企業の巨大な利益・内部留保に相応しい社会的責任を求め、社会保障制度を持続発展させるための安定財源を確保します。
社会保障の所得再配分機能に逆行し、原理的に大企業負担のない消費税は、社会保障財源に相応しくありません。「社会保障制度の持続」を理由とした消費税率の引き上げと「目的税」化は断じて容認できるものではありません。
保団連は、地域住民に密着した開業医を中心とする保険医の団体として、全人的医療や地域医療、社会保障の充実、平和の希求をめざして努力し、住民とともに日本の医療を守り、発展させる運動を展開しています。この立場から、今日の医療制度が抱える問題点を克服し、国民の『健康で、安心して暮らせる』という願いや、健康権、生存権を守るにたる医療保険制度の確立に向け、医療保険再建プランを提言するものです。