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公的医療の縮小と混合診療の「実質解禁」につながる
「基本合意」 

―保団連政策部の見解と提案―

                                    

1-本提案の位置づけ

保団連理事会及び第2回保団連代議員会は、昨年末の「基本合意」について、@医療界あげての反対運動を反映し、「全面解禁」「一定水準以上の医療機関での包括的解禁」の企図を見送らせた。Aしかし、「基本合意」の核心は混合診療の「実質解禁」に足を踏み出す非常に危険な内容である。B合意事項の具体化はこれからであり、混合診療の「実質解禁」を許さない、患者・国民、医療界の協力、共同を進める保団連の運動が重要である、との基調を確認しました。

この基調を踏まえ、保団連政策部では混合診療導入を阻止する患者、国民と医療界の共通の運動の一助として、学習と「基本合意」に対する対策を促進するため、以下の『見解と提案』をまとめました。なお、政府の医療保険制度「改革」関連法案の大綱が明らかになった段階で、必要に応じて補強、追加を行う予定です。


2-「基本合意」の主な内容

(1)健保法を「改正」して現行の特定療養費制度を廃止し、「保険導入検討医療(仮称)」と患者選択同意医療(仮称)」という新たな枠組みに抜本的に改編する。

(2)当面、現行の特定療養費制度の下で、「制限回数を超える医療行為等」、「必ずしも高度でない先進技術」、「国内未承認薬」などを新たな対象に加え、領域を拡大する。

(3)医療機関からの申請に基づき、厚労省が認定する方式を拡大させる。「必ずしも高度でない先進技術」は各技術に対応できて、厚労省(新設の先進医療専門家会議(仮称)等)が認定した医療機関だけに認める。「国内未承認薬」の医師主導治験も医療機関の治験計画申請に対し、厚労省(未承認薬使用問題検討会議)が認定して実施させる。


3-「基本合意」に対する見解

(1)「基本合意」のめざすところ

 「基本合意」のめざすところは、特定療養費制度を根本的に改編して、混合診療の「実質解禁」へ足を踏み出し、技術料を含めた医療行為等への拡大、新たな保険給付外し(「軽度医療」や市販類似医薬品、保険免責制度など)の受け皿としての活用をねらうものです。例外的扱いとしての特定療養費制度から、保険給付と保険給付外の並存という基本的な仕組みに移行することにより、公的医療の縮小、公的給付費の総枠管理という政府の「公的保険給付の内容及び範囲の見直し」政策(いわゆる公私2階建ての階層型医療制度づくり)を推進することにあります。

 このことは、「いつでも、どこでも、だれでも、安心して」必要にして十分な医療を受けたいという患者、国民、そして医療担当者の願いに反するものです。すなわち新規の医療技術などが、@厚労省が認める限られた医療機関だけで受けることができ、A負担できる患者だけが受けられる、ということです。

 内科系学会社会保険連合(内保連)、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)等も「有効性、安全性がきちんと検証され、広く普及すべき技術、医薬品などであれば、迅速に保険適用すべき」と表明しており、国民が必要とする医療はすべて保険の対象とする原則の徹底を図るべきです。

 

(2)「制限回数を超える医療行為等」について

 「制限回数を超える医療行為等」について、特定療養費制度の下で実施を解禁しました。06年法「改正」後、現行の「選定療養」とともに、「保険導入を前提としない」とされている「患者選択同意医療(仮称)」に分類されることになれば、医学的必要性の有無とは無関係に、患者が同意し「診療に支障を」きたさなければ、保険給付枠を超えるものは保険給付外として固定化することが懸念されます。

 現時点では申請に基づき認定される項目の全容や厚労省が策定するルールは不明ですが、現在、算定可能な点数の回数や必要量について線引きして算定制限を行い、超えた分は「制限回数を超える医療行為等」の対象にした上で、患者から料金徴収を可能とするといった方向に拡大される危険性があります。

 厚労省が「医学的な根拠が明確なものについては保険導入を検討する」というならば、速やかに検討基準や手順を明らかにすべきです。こういった医学的根拠のないもの或いは曖昧なものをも医療行為として容認するかのごとき不合理かつ危険な制度は作るべきではありません。むしろ「保険診療における制限回数などの当否」を見直し、医師の裁量に委ねられるべきものはそのように改善し、制限診療を撤廃すべきです。

 このような制度が作られれば、「保険では制限が厳しく、良い医療ができない」ということで差額徴収が拡大し、民間保険の販路拡大につながることも懸念されます。一方で、保険点数は引き下げ・制限され、制限診療の拡大や患者の医療・保険制度に対する不信を招くという悪循環も発生しかねず、「歯科差額時代」の二の舞となる恐れがあります。こうした「技術料差額方式」の導入となるならば、わが国の医療保険制度の根幹である現物給付の原則は崩壊の危機にさらされます。

 

(3)「必ずしも高度でない先進技術」について

 「必ずしも高度でない先進技術」と「高度先進医療」は、「保険導入検討医療(仮称)」に分類されます。「必ずしも高度でない先進技術」という新技術については、関係学会からの提出項目では100技術程度が想定されています。各技術に対応できる医療機関だけに保険診療と保険外診療の併用を認めることになります。

 今後、新技術の保険導入については、@直接中医協で審議・結論を出す現行のルート、A医療機関からの申請に基づき、新設の「先進医療専門家会議(仮称)」等で審議の結果(3ヵ月以内)、特定療養費の対象とし、その後、新技術の実施結果を踏まえて(期間や基準は明らかでなく、今後検討する)保険導入の技術的問題を検討し、可とした新技術は中医協審議に進み、保険導入の採否を決定するルート、という二つのルートを制度上設けることになります。つまり、新技術が一旦は「患者負担医療」とされる道が制度化されることになります。どちらのルートに分類するかは厚労省の判断に委ねられており、保険導入へのルールも現時点では明らかにされていません。 

 厚労省は「保険医療費の膨張を抑える観点から」と説明していますが、医学会や専門医会から要望が出されている新技術は、有効性、安全性が確立できていれば本来速やかに保険導入へ進むべきです。

(4)「国内未承認薬」について

 「国内未承認薬」についても「保険導入検討医療(仮称)」に分類されます。「未承認薬使用問題検討会議」を設置し、欧米で新たに承認され国内では未承認の薬を自動的に検証の対象とします。

未承認薬については保険適用開始までの治験期間、審査期間、薬価収載手続期間の全期間を特定療養費の対象としました。新薬が保険収載へ進まずに特定療養費として固定化されないよう徹底した監視が必要です。

 企業依頼治験は、薬剤・検査・画像診断がメーカー負担になる一方、医師主導治験については、薬剤料は制度としては医師と患者の負担になります。治験や審査期間など保険収載の前段が患者負担化され、開発メーカー負担に対して公的保険が一部給付することになります。また、医師主導治験では実施者の医師が、健康被害等副作用の救済と補償責任を持つことになり、公的責任による補償はありません。本来、開発メーカーが責任を持つべきであり、患者や医師に負担や責任をつけ回しすべきではありません。医師主導治験においても、開発メーカーが治験薬等を無償提供すれば患者負担の必要はありません。

(5)医療機関の再編成や医療の市場化というステップへの突破口の懸念が

「必ずしも高度でない先進技術」については、厚労省はさしあたって100程度の技術を対象としており、2000程度の医療機関で実施可能とするシミュレーションを行っています。厚労省が定める「医療技術ごとに一定の水準の要件」を満たす医療機関(診療所を含む)であれば、届出を行った上で実施できるとしています。「高度先進医療」と「必ずしも高度ない先進技術」はいずれも「保険導入検討医療A類型(仮称)」に分類され、提供する医療機関も再編成されます。すなわち、医療技術によって保険外診療に対する患者負担を認める医療機関と認めない医療機関との区別が拡大されることになります。

 こうした方向は、医療機関のランク付けや地域偏在を助長し地域医療格差の一層の拡大につながります。また、保険外診療に対する患者負担を巡って医療の中に患者の経済力格差による差別を持ち込むことにもなる。そしてその選択結果については、医療機関及び患者の当事者責任が問われることになります。

保険業界や医療産業から見れば、@保険給付と患者負担を使って先端医療技術開発をすすめつつ、A民間保険の新型商品や販路を拡大し、B「保険証付きクレジットカード」の発行事業、医療情報提供産業の需要喚起、C新しい医療機器・医薬品・材料の利益増大を見込めるようになり、その開発・販売とそれに伴う医療機関の資金需要拡大など、医療の市場性は益々高まることになります。すでに、医療保険を中心に「医療産業界に10兆円級の神風」(「パブリックビジネス・リポート001」日経BP社・2005年3月発行)と報じられています。

(6)中医協の組織と機能の再編成も「基本合意」が行われた

 なお、中医協の組織と機能の再編成についても「基本合意」が行われました。検討組織から「医療団体関係者、労使等の利害関係者」は除くとしながら、労使代表が入っている経済財政諮問会 議や社会保障の在り方懇談会、さらに規制改革・民間開放推進会議に対しては、検討状況を報告することが義務付けられました。

 規制改革会議は、@中医協の機能は点数、薬価、材料の「価格決定」に限定し、A診療報酬体系決定や医療技術の保険適用の機能は「中医協以外の別組織」にする、B診療側・支払側委員については関係団体への委員推薦依頼の廃止などを要求しており、中医協の解体・再編の方向で議論が進められようとしています。


4-「基本合意」に対する要求と提案

新技術や薬剤の有効性や安全性が確立されているにもかかわらず、保険導入が行われていないということは不合理以外のなにものでもありません。皆保険医療を充実させるためには、診療報酬体系の抜本的な改革と国民が保険診療で受ける医療の質の確保、給付範囲の拡大が図られる必要があります。

 国際的に見てもわが国の患者負担は重く、医療費に対する実効負担率は3割自己負担によって18.3%(外来分・推計値)にまでなっています(注1)。それに加えて、技術料や薬剤料を保険外負担することになります。その負担に耐えられない患者にとっては、負担増によって医療から遠ざけられることになります。

 国保資格証明書問題や受診抑制の進行でも明らかなように、保険医療すら受けられない国民が増加しているなか、政府の「公的保険給付の内容及び範囲の見直し」政策を阻止して、これ以上、公的医療の縮小と制限診療の拡大を許さない患者・国民、医療界の共同した運動が重要です。こうした観点から、『保険証1枚』で安心してかかれる医療制度をめざす「医療保険再建プラン」(2004年6月保団連第1回代議員会議決)とともに、以下の要求項目を提案します。

(1)安全性・有効性が確立した医療技術等は速やかに公的医療保険に導入する

@安全性と有効性が確立した医療技術、薬剤、治療材料等で、患者や医学会、専門医会から要望が出されたものは、普及性にかかわらず速やかに中医協審議を経て保険導入を行うべきです。そのためのルールの透明化と迅速化を要求します。

A未承認薬等の治験は、原則開発メーカーと国の責任で安全性、有効性を検証します。また、副作用の救済等については、開発メーカーと国の責任と財源で救済・補償を行うべきです。

B保険給付については、回数制限、予防給付制限などを速やかに見直し、必要なものは保険給付の改善や、主治医の裁量を尊重する(薬理作用重視の審査への改善など)などの改善を図ります。

C欧米に比べて高い薬価や医療機器・材料の是正を図ります。

D現行の「180日超入院」は、入院基本料等を引き上げ直ちに廃止します。

(2)新たな枠組みの「保険導入検討医療(仮称)」「患者選択同意医療(仮称)」について

 A:「保険導入検討医療(仮称)」は安全性・有効性確立までの検証期間、過渡期の医療制度とする

@「保険導入検討医療(仮称)」は、審査段階では安全性、有効性が確認された新規の医療技術や未承認薬、治療材料などの検証期間、保険導入までの過渡期の制度とし、検証期間は診療報酬改定にあわせて原則2年以内とします。

A「保険導入検討医療(仮称)」の患者負担については、保険給付と開発メーカー負担、公費を組み合わせた制度(注2注3)を新たに設けて医療費を保障します。

 B医師主導治験であっても治験薬等は原則開発メーカー提供とすべきです。

 B:「患者選択同意医療(仮称)」という制度は創設すべきではない 

@とくに、「制限回数を超える医療行為等」の保険外化は認められません。

A「医学的な根拠が明確なものについては保険導入を検討する」という厚労省の説明に基づくならば、むしろ直ちに制限回数の妥当性や要否の見直しを行い、制限診療を撤廃すべきです。

  

(3)大学病院などの高次先端医療について

  研究・試験段階の高次先端医療は保険給付とは切り離し、国の学術研究予算を適用します。大学病院などがその機能を発揮できるよう研究予算の拡充を行います。


     (2005年3月13日 保団連第14回理事会)




  注1)先進国の医療費に対する患者自己負担の実効負担率

   日本     15.6%(2000年)、2003年の外来分・推計値は18.3%
    スウェーデン  3.0%(1999年)
    イギリス  2.0%(1998年)
    ドイツ  6.0%(1997年)
    フランス  11.7%(1996年)


  注2)保団連「医療保険再建プラン-『保険証1枚』で安心してかかれる医療制度をめざそう」(2004年6月より抜粋)

『特定療養費制度は縮小から廃止へ、高度先進医療は公費医療の対象に』治療に必要な医療はすべて公的保険で現物給付されるというのが「皆保険」の中身です。その大原則を掘り崩すことを目的とした、保険診療と保険外の自費診療を併用して行う「混合診療」の解禁は容認できません。同時に、特定の医療について例外的に自費併用を認めた特定療養費制度による抜け道も問題です。差額ベッドや高度先進医療からスタートしましたが、現在では180日超入院の入院料や時間外の診療など、患者、国民にとって選択の余地のない分野にまで拡大されています。

 特定療養費制度の拡大は、経済力の差によって受けられる医療が差別されることにつながらざるを得ません。特定療養費制度は拡大するのではなく縮小させる方向へ転換し、廃止の方向をめざすべきです。高度先進医療についても保険適用化を前提に、保険給付と公費の組み合わせで医療費を保障します。


  注3)保団連「診療報酬改善対策委員会」は2003年に「特定給付保険制度」を提案した。現行の特定療養費制度に代わる、保団連としての新たな制度提案である。仕組みは、現行の特定療養費と同様に医療保険からの給付が可能な基礎的医療部分については保険給付し、それ以外の高度先進などの部分について公費で負担し、実質的な患者負担を軽減する仕組みとする。なお、高度先進医療は過去5年間の平均実績の総額でも約28億円、患者負担は5億円に満たない金額であり、公費の併用は可能である。