2005年11月5日 厚生労働省は11月2日、2005年6月に実施した医療経済実態調査(速報)を中医協に提出しました。 医科診療所(個人・無床)、歯科診療所(個人)のいずれも、収入の9割前後を占める保険診療の減収を、費用の大幅削減によって補い、医業経営を成り立たせている窮状が改めて浮き彫りとなりました。 一方、国公立病院が独立行政法人化の中で、差額ベッド収入を3割以上も増やし、DPCの導入に伴い入院患者の検査等を外来で行うことなどにより、外来収入も2割近く増加させています。“患者本位の医療”からみて看過できない事態です。 前回の2003年調査と比べると、医科は、医業収入の9割超を占める保険診療収入が2.9%、健診等の「その他の医業収入」は18.0%減少しました。一方で、公害・労災・自賠責等の「その他の診療収入」は82.9%増と大きく伸びています。 費用では、検査等の「委託費」が5.2%、「医薬品費」は4.1%、賃借料、消耗品費などの「その他の医業経費」が22.9%など軒並み圧縮されています。こうした中でも「医療機器減価償却費」が84.6%増の伸びを示し、医療機器の新規更新への努力が伺われます。 歯科は、医業収入の9割近くを占める保険診療収入が6.2%減、自費診療収入も2.1%減で、医業収入全体は4.2%減と医科の2倍にのぼります。費用は、歯科技工など委託費が16.4%、歯科材料費は12.1%と大幅減で、賃借料や消耗品費等の「その他の医業費用」については22.3%も削減されています。 こうした経営努力が収支差額を押し上げ、収入に占める収支差額の割合(収支率)は、医科が38.2%、歯科も38.1%と、80年代の40%台に回帰するような数値を示しました。 収支差額は開設者の報酬額とは等しくなく、まして「月収」と同列のものではありません。医療機関の維持・再生産のための設備投資資金など各種準備金のほか、開設者報酬などを含むものです。 今回、収支差額は医科227万円、歯科135万円ですが、公表されている収支差額の階級別割合(前回調査の『確定値』)を見ると、「50万円以上100万円未満、100万円以上150万円未満」の階級が上位1〜2位であり、前々回の28.1%から32.1%に増加、全体の3割を超えています。歯科も、同じ階級が上位1〜2位で、前々回は48.6%、前回は47.0%を占め、ほぼ半数が集中するという実態です。 さらに、10年前の1995年6月の調査と比べると、医科は、収入が9.1%減に対して、費用は16.1%減で、2倍近い費用削減を余儀なくされています。その結果、収入に占める収支差額の割合を5.1ポイント押し上げました。 歯科は、収入が17.1%減に対して、費用が23.2%減と大きく上回り、とくに歯科技工等の「委託費」は25.7%と大幅に減らしています。収入の落ち込みと費用削減のいずれもが医科を上回っているため、収入に占める収支差額の割合は医科並みに5.0ポイント増となりました。 医療従事者の人数では、医科は95年調査の常勤5.6人、非常勤2.3人から、今回は常勤4.9人、非常勤1.0人に、歯科も常勤5.0人、非常勤1.2人から、常勤4.2人、非常勤0.5人にいずれも減少しています。職員体制の縮小は、医療サービスの提供体制の弱体化そのものであり、患者、国民が受ける医療の質、安全にとっても重大な影響をもたらすものです。 今回の調査結果を含めて明らかなことは、個人立の医科、歯科診療所は、経営規模が縮小傾向にあり、医療の質の確保と安全な医療の保障が揺らぎかねない状況まで、追いつめられているということです。 財務省の財政審部会長は、診療報酬を少なくとも3%以上引き下げるよう述べましたが、国民に安心、安全な医療を確保するためにも、診療報酬の改善と総枠の拡大、患者負担の軽減など、皆保険医療の拡充を強く求めるものです。 以上
1,個人立医科無床診療所の収支の推移(介護保険収入なし)(単位:千円)
2,個人立歯科診療所の収支の推移
注)収支率は、収入に占める収支差額の割合 注)歯科は医業収入と介護収入と分けられていないことから、2001年の調査から医業収入に介護保険事業収入を含む
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