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05年医療経済実態調査 歯科診療所結果について

厚労省の「歯科経営トータルバランス論」が崩れる

                         2005年11月21日
              全国保険医団体連合会
政策部歯科部長 池 潤

 厚生労働省は、11月9日、中央社会保険医療協議会総会に、本年6月に実施した第15回医療経済実態調査結果(速報値)を発表しました。それによれば、個人歯科診療所の医業収入は、前回比15万6千円減って354万4千円でした。一方医業費用も前回比27万2千円減って、219万7千円となり、その結果収支差額は、前回比12万2千円増えて135万1千円となったとしています。

 政府は、この調査結果を援用して、次回の診療報酬改定をマイナス改定にしようとしています。しかしながら、発表された第15回実態調査結果は速報値という限界もあり、「診療報酬に関する基礎資料を整備する」という調査目的を果たすデータや内容は十分に示されていません。

 こうした中で我々は、「第15回医療経済実態調査 歯科診療所(速報値)」(以下、今回の調査結果)について、以下のような分析、評価を行います。

 第一に、収支差額135万1千円は平均値であり、最頻値がこれより低いことは容易に推測できます。それは、前回調査結果(確定値)では収支差額123万3千円であったが、「100万円未満」の施設数が47%を占めていたからです。

 第二に、今回の調査結果では、医業収入が前回比を下回っただけでなく、保険診療収入、自由診療収入の双方が前回比を下回るだけでなく、ともに調査史上最低となったことです。これは、厚労省が長期に亘って「歯科の医療経営は保険診療収入と自由診療収入のトータルバランスで考える」べきとして、保険診療拡充政策を怠ってきた、厚労省の「トータルバランス論」が崩壊したことの現れで、歯科医療経営維持には保険診療の拡充策が欠かせないことを示したものといえます。

 第三に、なぜ医業収入が減ったのかという点に注目します。その原因として、我々は、長期にわたる不況とその下でも患者負担増政策によって、「不況で歯科通院我慢 9割」(コムネットが患者意識調査)という結果に示されているように、歯科受診が全体として低下していることを指摘します。

 それとともに、とくに保険収入の面で、高齢者負担、健保本人3割等患者負担増の下で、患者負担軽減を考慮して、歯科医師が必要と考える治療ができにくい、治療制限を余儀なくされている状態が定着しているのではないかと指摘します。なぜなら、我々が行った02年10月の高齢者医療費負担増における診療内容の影響調査結果で、「義歯の新製を望む場合でも修理で対応」、「義歯製作時の咬合崩壊を治すのに負担を考えてできなかった」などの意見が少なからず上がっていましたし、本会の03年4月健保本人等負担影響調査結果でも「補綴関連」、「歯周病」等で受診や中断が多かったと指摘されているからです。

 さらに診療報酬との関係でいえば、2004年のマイナス改定のもとで、補綴関連点数が引き下げ、包括されたことも、保険収入落ち込みの大きな要因と考える。なぜなら2004年12月の保団連「開業医の実態と意識調査」結果で、7割の歯科開業医が「補綴技術料の包括化・引き下げ」を2004年改定でマイナスの影響が大きかったと回答しているからです。

 第四に、こうした医業収入面での影響が医業費用で、「委託費」や「歯科材料費」の大きな減少にも反映していると推察します。さらに医業費用の面では「給与費」が大きく減少しています。これは参考資料として出された「個人歯科診療所1施設当りの従事者数」に示されているように、従事者数減少の結果です。1993年調査との対比では、実に1人減っています。そうした中でも歯科衛生士数は前回比0.1人増えています。

 歯科衛生士については、歯科衛生士実地指導料や訪問歯科衛生指導料が個別に設けられ、また前回改定で設けられた歯周疾患継続治療管理料や歯科治療総合医療管理料等の算定要件に常勤歯科衛生士が組み込まれているなど、不十分ながらも診療報酬上の手立てが講じられています。このことは、従事者確保のための診療報酬における評価の必要性を示唆しているといえます。

 今回調査結果について、健保連代表の対馬中医協委員は「歯科の収支差額は堅調」というコメントをしたと報じられています。また財政制度等審議会財政部会では次回改定をマイナス3%の改定とするよう提言していますが、今回調査結果の収支差額をもとにして、次回改定を三度マイナス改定とすることは、わが国の将来の歯科保険医療にとって大きな禍根を残すこととなります。

 なぜなら、イギリス医学雑誌「ランセット」の巻頭論文(volume365 Number9470)で、「良質な医療確保にとって、医療従事者の士気が重要」と指摘されているなどの中、保団連が2001年に行った全国共同調査結果で、わが国の歯科開業医の7割が「将来の保険医療に展望をもてない」と警告を発しているからです。

  我々は、以上指摘した点について、中医協等で十分な論議が行われ、良質で安全な歯科医療の確保、歯科医療経営が維持できるように、歯科診療報酬の引き上げ、改善を強く望むものです。

                                 以上